1 呪いの謎
すいません。
守ってくれるアイテムをペンダントからピアスに修正してます。
〈真龍の都〉を旅たち、ゆっくりと〈魔法都市ネーベル〉を目指していた。〈ラルカーン〉から続くチカラカ山脈は曲線のよう伸びており、山脈を超えなければネーベルに向かうことだできない。カシュンはチカラカ山脈で一番低いとされている谷を知っていたためアガット達はそこに向かっていた。
カシュンが旅に同行することになり、アガットはつくづくありがたいと実感していた。
ビケ達の武術の修行が継続されるだけでなく、戦の経験を持つため周辺の地理、魔獣対策の知識も豊富だった。何より幼く警戒心の強いティルケとダリルが懐き、言うことを聞くのだ。やっちゃ盛りのため暴れ足りず、興奮状態が続くとルルゥと喧嘩を始めてしまうため、正直アガットだけでは大変だったのだ。
逆に一番幼く元気なティルケとダリルの存在はカシュンの沈んだ気持ちを癒した。
二人も蘭華によく懐いてた分悲しみもひとしおだったが、自分たちが明るくいることでカシュンの笑顔が戻ってくることが分かっているのか以前以上にやんちゃになった。
蘭華とカシュンから貰った〈箱庭〉は旅でとても重宝した。一年中春のような暖かい空間を保ち、広い庭には様々な薬草を植えることが可能だった。アガットは更に外壁の近くに柱に呪文を刻んだガラスルームと倉庫を設置した。ガラスルームの中は寒く、冬にしか成長しない野菜と薬草を植えている。倉庫は暗く、中ではキノコなどの菌類を育てている。
家も流石王族が使用していたことだけあって家具や必需品はどれも高級な物ばかりだった。カシュン達があまり豪華絢爛な物を好まなかったそうで、機能性を重視したシンプルなデザインで統一されているのは有難かった。寝室は4つと客室が2つあるため、6人で話し合い、カシュンが使用してた寝室はそのまま使ってもらうことに、ティルケとダリルは一緒の部屋にする以外は好みの部屋をとった。
アガットは客室である1階の部屋にした。サンルームのような大きな出窓がある部屋で仕事机と大きいベットを置いてあるにも関わず、まだスペースがあるその部屋で毎日遅くまで薬草と魔法薬学の研究をしている。アガットにとって蘭華の持病を治すことができなかっのは悔しいとしか言いようがなかった。元々心臓が弱い蘭華にはどうしようもないと分かっていたが、それでも何か出来たはずなのだ。
出窓の近くに植えられている梅の木を見ながらアガットは新しい薬の研究を続ける。
チカラカ山脈までの草原では魔物が多く出現する。
ゲギョオオォオオォ
パルドロ鳥。体長3メートル程のハーピー属の中型魔獣。グリフォンのような容姿をしているが、尾と爪に毒針を隠し持つ。首が長く、その顔は人の顔に似ており、霧が多いこの地域で人を惑わすためだ。だが口を開けば顎まで裂け、その牙は鋭く、集団での狩を好む。
アガット達の前に現れたのは3匹のパルドロ鳥だった。旅人を襲っているのかアガットが弓で牽制してもしつこく何かを狙っていた。
カシュンが手をクロスさせているところにティルケとダリルが走っていく。手をジャンプ台にして空高く飛んだかと思うと、パルドロ鳥の顔面を殴りつけた。ルルゥの団扇から繰り出されたカマイタチがパルドロ鳥にとどめを刺した。
地面に落ちて来たパルドロ鳥はルルゥ達に任せてアガットは襲われていた人の方に近く。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、ありがとう。あんたら強んだな・・・」
「私ではなくあの子達がすごいんですけどね。」
旅人はレザントと名乗り、チカラカ山脈をまたぐように存在する〈トバール国〉ので宝石商人をしているという。別の村での宝石の原石を買い付けに行った帰りに盗賊に会い、荷物を奪われただけでなく、逃げた先でパルドロ鳥に襲われいた。
「街にいた頃も新しい宝石商に客を取られたり、家に賊が入ったりと、こうも不幸が続くと呪われてるのかと思ってしまいます。」
「呪いですか・・・」
「トバールに古くからある言い伝えで、街近くの遺跡に安易に近づくと呪われると言われてたんですが、最近そこに足を踏み入れてしまって・・・・」
レザントの話では街とチカラカ山脈の間に樹海と小さな泉があり、更にその奥に古代遺跡があるのだが、住民は足を踏み入れてはならないのだ。なぜなら遺跡には神が住んでいるため、むやみに近づくと怒りに触れ不幸に見舞われるのだそうだ。
「遺跡近くの泉には宝石が沈んでいることがありまして、興味本位で取りに行ったのがまずかったんだと思います。」
レザントはそう話ながら懐からハンカチに包まれたウズラの卵大の宝石を取り出し、アガットに手渡す。血のような色をしたルビーだった。返そうとするがレザントは受け取ろうとしない。それどころかアガットに持っていてほしいと言ってきた。
「魔力も持たない私にはそれは危険だと思うんです。依頼をお願いするので、どうかその宝石を遺跡に返してはもらえないでしょうか?」
「依頼ですか?」
「はい、もしかしてギルドに加入したことがないんですか?」
「ギルド・・・・」
カシュンの方を見れば、忘れてたとバツが悪そうな顔をされた。旅をしていく上でギルドに入ればいろいろ融通がきくのだという。
新しい街に行った際には身分証よりもギルド証を提示した方が信用され易いのだという。また国によっては入国する際には入国金が免除されることもあるらしい。
「私も登録はしておいても損はないかと思いますが、どうします?」
「う〜〜〜ん・・・カシュンさんがそこまで言うのなら〈トバール国〉で登録しときましょう。」
レザントに道案内をお願いして〈トバール国〉に向かう。トバールはあまり大きくはない国で、山脈を跨いだ2つの街が一つの国として存在しているのだという。元々血縁関係がある領主同士が領地を統一したのがトバール国なのだが、レザント曰く、今は領主同士も州民同士も仲が良くないらしい。
「北のトール街の奴らはガメつくて意地汚いんだ癖にプライドだけは高い!俺ら南のバール街の方が文化も技術も発展してるのが気に食わないんだろう、すぐに突っかかってくる。この前なんか領主同士の会談ではバール街の税を引きあげろて言ってきた。ふざけてる奴らだよ!」
心底嫌いなのだろうレザントは苦々しく吐き捨てた。国の情報を聞いてるうちに〈トバール国〉の外壁が見えてきた。あまり通る人が少ないのだろう入国審査で並んでいる人も少なく、レザントの口利きですんなりと入ることができた。
レザントと別れて、紹介してもらった宿屋をとり、近くのギルドに向かう。中に入れば少ポツポツと人がいるだけであまり栄えてないのがわかった。受付嬢に話をすれば奥の角の席に通された。しばらく待っているとメガネをかけたふくよかな男性が出てきた。
「初めまして、ギルド申請したいそうですね?担当することになりましたカガン・ノントと申します。今回の登録は冒険者ギルドでしょうか?それとも商業用ギルドでしょうか?」
「商業用の方で登録したいんです。」
「ロズロからの話では相当な実力者が揃っているそうですが、冒険ギルドには・・・?」
「今のところ必要ありませんので。」
数分でギルド登録ができた。羊皮紙に呪文が刻まれている契約書にサインをすれば、中央に豊作を願ったリンゴの木とタカがモチーフとなったギルドの紋章が施されたブロンズの丸いバッチを手渡された。裏にはアガットの名前とサイン、そしてトバール国の紋章が彫られている。
「ブロンズが最低ランクとなります。そこから経験、知識、知名度が上がるごとにシルバー、ゴールド、プラチナと昇格していきます。詳しい事はこちらの説明書に記載してますが、私に聞いてくださっても構いません。」
「ありがとうございます。」
どうせ暇ですからねと笑いながらカガンは言う。どうやらバール村では高い外壁のおかげで魔物が侵入することもなく平和なためギルドも比較的暇なのだそうだ。どことなく話し相手が欲しそうな雰囲気にアガットも機会があればお邪魔しますと言って退散する。街の中をぶらぶら歩いているとトバール街が発展していることがよく分かる。料理店はどこも繁盛しているし、洋服店も魔術品店も本屋もそうだ。特に宝石店は人一倍人気があるようで、大通りにまで女性客が並んでいる。近くまで行ってみると店内から女性客の黄色い声が響いている。ビケとルルゥは気になったのか、2人で勇敢にも大賑わいのその店に突っ込んで行った。
「勇気ありますねぇ。」
「本当に・・・」
露店で買ったボズロー牛の串焼きとホロリ豚の燻製サンドを食べながらティルケとダリルを膝に乗せアガットとカシュンは傍観している。ティルケとダイルは串焼きに夢中で両手でがっついている。口の周りを拭いてやりながらアガットは自分の串焼きも差し出す。燻製のサンドイッチが想像以上にボリューム満点だったのだ。ダリルは喜んでアガットの串焼きにかじりつき、ティルケは悲しそうにカシュンの方を向いている。カシュンはその顔に弱いことを知ってやっているのだ。
「ダメですよ?」
「・・・いや・・・でも・・・」
「カシュンさん足りないでしょう?ティルケは私のを食べていいから。」
2人は取り合うようにしてアガットの串焼きをあっという間に食べきってしまう。ベタベタになった手と口の周りを拭いてやっていると、ビケとルルゥ戻ってきた。楽しそうに店に行ったはずなのにその顔はどこか浮かない。
「どうしたの?なんか嫌なことあった?」
「・・・ルルゥ・・・」
「うん。あのね・・・あそこのお店の宝石嫌な匂いがするの・・・まるでアガットが持っているルビーみたいな匂い。」
その言葉にアガットとカシュンは顔を見合わせた。
「どういうこと?」
ルルゥに詳しい話を聞くと、さっきビケと2人で突入して行った店の商品に嫌な匂いがついてるのがちらほらあったらしい。正確には匂いではなく雰囲気らしいのだが、幼いルルゥにはそれがどう表現していいのか分からなかったらしい。確認のためにダリルを抱っこしながらアガットが入店すると、ごったがえした店内では女性客が商品ではなく、男性店員に熱いまなざしを送っていた。20代なのだろう若くハンサムで、おとぎ話の王子様のような容姿をしていた。180くらいの高身長で引き締まった体に、穏やかな声で商品の説明をしながら眩しい笑顔を女性客に向けている。
だが、アガットは獲物を物色するような目が気になった。接客している男を観察しているとダリルに服を引かれ、そちらの方を向けば、すごく嫌そうな顔をして数ある中の一つの宝石を指差した。
「嫌なの?」
「・・・ん。」
すごく嫌な感じがするのだろう、アガットがその指輪を取ろうとするのすら嫌がった。ダリルをなだめながら再度指輪を取り確認しようとすると静電気のような痛みを感じた。
バチィ
音と静電気の原因はエンカルナがくれた宝具であるピアスが魔法を弾いたからだ。〈真龍の都〉での戦で分かったことだが、黒曜石がはめ込まれたピアスは物理攻撃には反応を示さないが、攻撃魔法のみならず、いかなる魔法であってもアガットに害があるものを弾く魔法が施されていたのだ。
何かあるのだろうと考え、店から出てビケ達と合流してまずは宿に戻る。食堂で夕食を終えた後、昼間の宝石の話をするためにみんなでアガットの部屋に集まった。
アガットはレサントから預かったでかいルビーを取り出してルルゥとダリルに確認してもらうが嫌なものは感じないらしい。
「でもおんなじ感じはする。」
「嫌な感じはしないけど、似てるってこと?」
「「うん。」」
「つまり遺跡が関係しているということでしょうか?」
「可能性はありますね。あの店がロナートさんが言っていた商売敵のものだとすれば、興味深いですよね。」
「えぇ、オープンして間もないはずなのにあれだけの宝石と装飾品を店頭に並べられるだけの『方法』があるはずですよね。」
「それが遺跡に関係しているとなれば、すごいことだよね?」
「そうね。宝石を手に入れられる手段と人手があるということは?」
「なんともまぁ、怪しい匂いがしますなぁ。」
「明日遺跡に行って調べてみましょうか。」
アガットの一言で明日の予定が決まった。




