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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
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10 花は散り龍を去る

あれからぱんd・・・墨熊の件は聖獣だと自己申告した話を信じ、とりあえず様子をみているそうだ。今の所関係は良好だという。



〈真龍の都〉について半年が過ぎその時がきた。


蘭華の容体が急変したのだ。


元々2ヶ月保てばいい方だった。それを気力と康順の看病でここまで延命できたのはある意味奇跡といえる。


出会った時より多少ふくよかになってはいるが、血行が悪いのだろう。肌は以前にも増して真っ白になり、寝台から起きることすら出来なくなるまで弱ってしまった。寝てることが多くなり、目覚めてもぼんやりとしていることがある。本人は以前から心の準備ができていたのだろう楽観的だった。


だが、康順は違った。蘭華の側を離れず看病をしている。いつ目覚めるとも分からない蘭華のために睡眠時間も削っているようで、以前より痩せ、目の下のクマが目立つようになった。梅南達が看病を交代すると言っても、浅く寝るだけで安眠できないのだろう。


「あの人は容姿に似合わず、弱い人なんです・・・」


黄大夫と一緒に蘭華の容体を確認しに来たアガットに蘭華はぽそりと呟いた。2メートルの巨体だろうと、鬼のような容姿をしていようと、康順は優しく、打たれ弱いのだと。


「梅花が逝って、今度はずっと一緒だった私がいなくなるのが耐えられないのよ。」


困っちゃうわよねと言いながら蘭華は幸せそうに笑った。こんなに誰かに思われるのはとても幸せなことなのだという笑顔だった。その笑顔が眩しくてアガットは胸が締め付けられる。


「アガットちゃん・・・お願いがあるの・・・私が逝った後、あの人を旅に連れて行ってくれない?」

「・・・・・今は休んでください・・・康順さんには蘭華さんがまだまだ必要ですから・・・」


子供達も巣立ち、都で学校の先生をするのもいいが、多分それでは康順は保たないだろう。花のように萎れてしまうだろう。蘭華はそれが心配だった。だが、アガットにはどう返事していいか分からず、ただ微笑んで話を変える。先立たれる悲しさは知っているからこそ、今は康順の様子を見守るしかないのだ。


「そうね・・・もう少し一緒にいたいわね・・・」

「お薬苦いですが、頑張って飲んでください。」

「本当に苦いんですもの、口直しに何か甘いものをくださいな。」


そう笑顔を見せる蘭華の姿は病人であるにも関わらず、花のように美しかった。




そしてしとしとと雨が降る日、蘭華は帰らぬ人となる。


康順は蘭華のか細くなった手をずっと握り寝台から動かなかった。泣きもせず、感情がごっそりと無くなってしまったかのようなその顔にどう声をかけていいのか誰も分からなかった。


アガットはそっと康順に近づき、その背中に手をおく。


「康順さん、蘭華さん微笑んでますよ。」

「えぇ、そうですね・・・」

「ここに戻ってこれてよかったですね。」

「えぇ、そうですね・・・」

「ゆっくり休ませてあげましょう?そんな顔をしていると蘭華さん心配しちゃいますよ?」

「そうですね・・・・」


空返事しかしない康順は目が虚ろだった。アガットは康生に目配せをして、康順に手を貸して近くの椅子に座らせる。


動けなくなった康順の代わりに蘭華の長男である康于が葬儀の全てを取り仕切った。梅花の3人の子供はまるで実母のように悲しみ、涙した。一番幼い蘭々は意外に気丈で兄である康于の手伝いをしていた。


蘭華がどれほど人に好かれていたか表すように葬儀には参拝する人が溢れていた。



康順はたった1週間という短い間に5歳も老け込んだように感じる。髪に白髪が混じるようになったほどだ。


葬儀が滞りなく全てが終わると、目を真っ赤にした梅南が懐から小さな宝石箱を取り出し、康順に差し出した。


宝石箱の中には3つの玉がはめ込まれたシンプルな指輪が入っていた。


康順にはそれに見覚えがあった。小さい頃に蘭華にあげたものと梅花が拗ねた時に同じものを作らせプレゼントしたのを覚えている。そして利き腕につけていた、無くしたと思っていた康順のもの。


「父上、母上はとても幸せでしたよ?父上と蘭華様と出会って・・私たちもできて・・・これは6年前父上を助ける時に蘭華様に預けたものでした。蘭華様に私たちを託し、私たちに蘭華様の世話を願い、逝かれました。今、これは蘭華様から父上に託されたものです。また来世があれば3人でまたお会いしましょうと。」


「兄上、どうか蘭華姉様の為にも、梅花姉様の為にも、康于たちの為にも、私の為にも自分を大事にしてください。」


康順は愛されていた。2人の妻にとても愛されていたのだ。兄弟にも子供達にも、周囲の人々にも愛されているのだ。


康順が木宝石箱を抱え、初めて涙をこぼした。

丸くなった背中を康生がさすり、5人の子供が囲んで抱きしめている。


悲しくも美しい光景だった。



「康順さん、蘭華さんが生前私の旅に一緒に康順さんを連れて行って欲しいと願っていました。だから私の旅の護衛になってくれませんか?」


「・・・・・・わ、私の、ような・・・老兵・・でよければ・・・」


ざあぁああぁあと風が吹き荒れ、どこからか花びらが舞ってきた。


梅の花だった。



〜〜〜〜〜


蘭華の葬儀から更に2ヶ月が過ぎた。


康順は徐々に元気を取り戻しつつあった。


アガットの旅に同行するという事で雍清は康順に義手を作らせた。〈龍牙石〉とボルボラドラゴンの骨を混ぜ合わせ、神経と魔力を繋げるために二の腕に雷石と土石を埋め込み、その周りを梅と蘭の花模様を囲む。利き腕がついたことで以前のように長い双剣を振り回すことが可能になった。宝箱に入っていた3つの指輪は剣を握るのに邪魔なため、康順自身の指輪以外はピアスとしてつけている。


「アガットさん、2年前私の敵討ちに共に来てくれる際にあなたが私に言った事を覚えてらっしゃいますか?」

「配下に、という話ですか?」

「はい。あなたと一緒に旅をする今、配下に下らさせてください。」


康順はアガットの魔法を知っている。知っている上でアガットを主人として選んだのだ。


『では、私アガット・トランドットの護衛として言康順を配下としましょう。』


「ありがとうございます。できましたら新しい名をくれませんか?」

「名前を変えるのですか?」

「言康順は皇帝・雍全に支えました。姓を廃した今、アガットさんに支える身としては新しい名前が欲しいのです。」

「新しい名前・・・・では華順と。2つの花に順ずる者であるために。」

「カシュン・・・・ありがとうございます。」


カシュンがアガットの護衛になった事を一番喜んだのはビケだった。ビケは親に特に父親に対してどこか苦手意識が残っていた。ロザールの存在でだいぶ払拭されていたが、康順は更にそれを相殺し、ロザールに次いでビケの信頼を十分勝ち得る人物になっていた。


「また、一緒に旅ができるのが嬉しいです、こうj、カシュンさん。」

「私もです。ビルケッタ、よければこれをあなたに。」


差し出されたのは一本の剣だった。まだ将軍だった時に買っていた名刀の一本だった。息子達には言一族の代々伝わる武器があるため、持て余していたのを倉庫を整理していた際に発見したのだ。


ビケの新しく作られた剣が細身ならば、その剣はつばが輪っか状になっている少し短い剣だった。つばの部分に指を入れればぐるりと回るのだ。


「最初は扱いが難しいでしょう、だが慣れればどの剣よりも素早く抜け、滑らかにあなたの意のままになるはずです。」

「あ、ありがとうございます!」


「では、行きましょうか。」


全てのことを終わらせ、アガット達は次の街へと旅立つ。


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