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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
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8 息を吹き返す龍

玉座をかけた戦から早3ヶ月が過ぎた。


ボルボラドラゴンによる半壊した南門とその周囲の家屋は修繕され以前より豪華になった。愚皇帝雍陣は捉えられ、彼と共に甘い蜜を吸っていた家臣達も捉えられ、牢屋での生活を余儀なくされている。6年前の疫病の件での裁判を待つ身として。


李英を筆頭とする家臣たちは疫病の事件と南部〈ラルカーン〉の攻略の案件を再調査している。証人と証拠が十分あるため審議は難しくない。ただ罪がどんどん重くなっていくだけだ。


蘭華の病状はあまりよくはなっていない。持病のため現状維持しか方法がないのだ。康順が戻って来たことで気力の方で回復をみせているのか、少しの散策は出来るようになったのだから良好といえる。


雍清は皇帝に即位した。国の名を〈真龍の都〉と変え、それと同時に正妃を娶る。康順の長女の梅南だ。雍清30歳、梅南23歳。南部の血を引く彼女との婚姻は南部との友好関係の象徴ともいえる。


周囲の家臣は梅南ではなく18と若い妹の梅順を勧めたが、雍清は周囲の話をニコニコと聞くだけで、決して首を縦に振らなかった。後から梅南に話を聞いたところ、実は2人は雍清が匿ってくれていた際に愛を育んていたのだという。


こういうところが食えないのだと康順は涙目で言った。帰国して間も無く娘を嫁に出さなければいけなくなったのだ。雍清自身が結婚の挨拶をした時など家の門前で大刀を持ち、家に入れなかったという。蘭華に怒られて黙ったが今だに何か言いたそうな顔をしている。


「雍清殿下、どうされたので?」

「いや、その、アガット嬢、少し匿っていただきたく・・・・」

「雍清、陛下!!!あれほどお菓子を食べすぎるなと申しているのに!!!双子にも食べさせて同罪にするなど一国の王がすることではありませぬ。」

「・・・素直に謝ればまだチャンスはあると思いますよ?」

「い、いやぁ・・・ど、どうかなぁ?」


あれは長い説教が待ってると思うんだよね・・・と呟く雍清にアガットは苦笑するしかなかった。


梅南の方が身長が高く、褐色肌の濃い顔をしており、雍清の方が横に大きく、色白と起伏があまり無い顔をしている。この夫婦は容姿に違わず凸凹で、しっかり者の梅南の尻に敷かれている雍清が日々何かしでかし、梅南が怒って後宮を探し回るという光景が日常になりつつある。


初めはこれで一国の王が務まるのかと皆不安がっていたが、そこは雍清だ。その手腕は文句のつけようが無いほどだ。奇才とされる李英でさえ雍清の頭の回転の速さと発想に感嘆するほどだ。


民の就職難を倒壊した城壁などの修繕と、南部の街の復興で一気に払拭するだけでなく、アガットに教えを請い、収穫のしやすい芋類や米の品種改良を行い国民の食の供給を満足させた。

老人の生活保障をし、子供は全員学校に。医療機関を地区ごとに設ける等、その政策は国民に安心安定をもたらし、〈真龍の都〉は前以上の活気を取り戻していた。


南部の〈ラルカーン〉はシャリムを王として、小さいながらも国として再建している。国花を梅の花として制定した。雍清はシャリムと貿易国として協定を結び、〈ラルカーン〉は魔法石と宝石を、〈真龍の都〉は美しい布と機織り、食料、そして彫刻技術品を輸出入している。


康順は軍に戻らなかった。弟の言康生が将軍についているのだ、自分の出る幕は無いと路普たちの願いを聞き入れず、学校の先生となった。


「私が軍に戻ったところで、邪魔になるだけでしょう。それよりも今後、蘭華と子供達とゆっくり過ごしていきたいのです。」


1年以上前のウノート村を発った時には考えられないような大円満だと言えるだろう。




ある日、アガットは雍清に宮殿に招かれた。玉座ではなく、執務室に向かうとそこにはシャリム、蘭華と康順もいた。


「雍清陛下、シャリム王、蘭華姫、康順さん。」

「おぉ、アガット嬢。ささこちらに。」


礼もそこそこに椅子を勧められた。腰掛け改めて4人を見ると全員ニコニコしていた。なんだろう・・・


「アガット嬢、この度の戦で多大な貢献を感謝するため、我々からプレゼントを送りたくてですね。」

「何にするかずっと話し合っていたのですが、遂に決まりましたのでこうしてお呼びした訳です。」


そう言われて、円卓の上に乗せられた箱達を開けるよう促された。

一番前にある横長い箱を開けると中には純度の高い5つの魔法石が内側に火花を散らしながら入っていた。


「〈ラルカーン〉の純度の高い魔法石の中から厳選しました。あなたと4人の子供へのプレゼントです。」

「そんな!?こんな高価なもの!!」

「高級品なのは間違いありませんが、〈ラルカーン〉という国を取り戻してくれたのです。当然の品でしょう。」


シャリムが魔法石の説明をする。ビルケッタの火属性には雷石が、ルルゥの植物を使役する土属性には水石が、ティルケとダリルの重力の風属性には土石が共鳴し、更なる力を引き出すのだという。


「最後にアガット嬢にはこの最小だかもっとも純度の高い風石を。弓にはめ込めは桁違いの威力を発揮するでしょう。」


促されるがままにアガットは次の箱を開ける。入っていたのは鉄のような塊とドラゴンの鱗だった。


「私からは都で取れる鉱石〈龍牙石〉とボルボラドラゴンの鱗と骨になります。2つを合わせれば協力な武器を作り出せるでしょう。」

「なんと言いていいのやら、私はほとんど後方支援しかしておりませんが・・・」

「いえいえ、康順に聞きました。1年以上もの間計画を練り込んだのは間違いなくあなただと。」

「・・・ではこの鉱石は私以外に武器を作る際に使用させてください。私では重すぎて弓としてうまく使いこなせそうにありませんので・・・」

「ではこちらの〈紅香樹〉と同等と強度を誇る〈白仙竹〉をお使いください。」


〈白仙竹〉清らかな水と空気を好み、湿気があり、尚且つ太陽の光がないと成長しないといわれる幻の竹。〈真龍の都〉周辺の高山にしか生息しないと言われる。強度は鉄にも負けないが、鉄や〈紅香樹〉には無いしなやかさを持つ美しい白竹だ。

アガットは〈白仙竹〉を手に取ってみて、その軽さに驚く。2メートル近くあるはずの竹は驚くほど軽く、振り回してもしなやかだ。更に曲げて見るが、曲がる時はそれが自然な動きかのように滑らかで、手を離した瞬間元に跳ね返る。


「すごく綺麗・・・・」

「喜んでいただけたようで・・・」

アガットが見入っていると、雍清は嬉しそうに笑う。

「じゃあ私達の番ね。」


最後の箱を開けるとそこには手のひら大のミニチュアの家が入っていた。裏のところには康順、蘭華、梅花の元のなであるラシュケと3つのサインが施されてあった。


「これは?」

「昔、梅花がこの国に来て間も無くずっと泣いていたから、康順とこれを購入していたの。この〈箱庭〉でよく遠出したものよ。」


見た方が早いだろうと康順がアガットを伴い、執務室から出た広場につれていく。


『オプネンディアス』


古代語で「開け」という意味だ。康順が唱えた途端、ミニチュアは宙に浮き、くるくると回り始めた。徐々に大きくなっていき、地面に着地した時には庭付きの一軒家となった。石畳の外壁と門をくぐり抜けるとそこには同じく石畳の2階建ての家が出現する。庭には小さい池と梅の花が植えてあり、春になればさぞ美しい光景が楽しめるだろう。小さな花のツタが家の半分を覆っているが、返って美しく感じさせるほどだ。木彫りの美しいドアを開ければ廊下、キッチン、ダイニング、リビング、バスルーム、ベッドルーム、全てが高級品だとわかるものが完備されていた。


「これは〈ラルカーン〉の家のようですな。」

「えぇ、故郷を恋しがる梅花のために技師に注文した物でした。」

「とても綺麗に整備されてますねぇ。」

「こんな素晴らしい家、もらえません!」

「私達の思い出の家なのです。子供ができてからは一度も使用できないまま放置しておりました。アガット嬢に使ってもらったらこの家も喜ぶでしょう。」


康順にそう言われればアガットは黙るしかない。感謝を伝えようとすると康順は首を横に振り、アガットを黙らせた。それ以上は言うなという事だった。グイグイと押されるがままアガットは〈箱庭〉受け取った。


「これからの旅路に癒しを届けてくれますよう。」



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