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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
36/58

6 計画の始動(3)

「アガット殿。間も無く出陣いたします。」

「わかりました!直ぐ行きますので。」


アガットはルルゥの服装を整えてあげていた。子供用の鎧はないため、胸当てなどのパーツを着せ、髪を梳いて三つ編みにした後、玉を花のように彫り込んだ銀の髪留めでまとめていく。隣で見ていたビケも髪を梳きまとめてあげる。口ではいらないと言っているがやはり嬉しいのか口元は緩んで、最後に頭を撫でてあげれば嬉しそうに目を細めた。2人の手を引きながら、広間に向かう。


広間には鎧を身につけ武器を手入れする武将たちがいた。アガットに気がつくと、奥の方に進むよう促される。そこには同じく鎧を身にまとい談笑している雍清ヨウセイ康生コウセイ康順コウジュン、シャルムがいた。これから戦に行くとは思えない和やかな雰囲気だった。


「おぉ、アガット殿。」

「お待たせしました。準備はできております。」

「そろそろ参りましょうか。」


あれから暴動は続いており、雍陣ヨウジンは軍の手配を急いでいるとの情報が入ったため、アガット達も都へと出発する。


〜〜〜〜〜


「すごいですね・・・・」

「あぁ、正直ここまでとは・・・」


都の周辺には軍が周囲を包囲していた。暴徒とかした民は向かい合うようにして防衛陣を張っている。両者の睨み合いがつづいていた。武器では軍の方が秀でているが、人数では圧倒的に民のが勝っていた。


アガット達の登場に気がつくと、民は歓喜し、軍はざわついた。王位を配したはずの雍清王と共に名だたる名将が現れたのだから。どういう事か言わなくてもわかるだろう。


「雍清!!貴様!!!」

「申し訳ない皇兄。その玉座。私に譲ってください。」


苦々しい面持ちの皇帝とは正反対に雍清王は涼しい顔をしている。2人の会話が合図のように戦は開始した。


先陣を切ったのはやはり康順だった。


「邪魔だ!」


脚のみで馬に乗り、片腕で大刀を軽々と振り回し、敵兵をなぎ倒していく。大刀の長い柄についている魔法石を地面に突き刺したかと思うと周囲の地面が盛り上がった。土壁を次々出現させたかと思うとドームのように兵を閉じ込めていく。


「死にたく無い奴は今のうちに逃げておけ!」


弟の康生も負けじと馬を走らせ、槍で敵武将と対戦する。流石と言うべきか2人とも戦に慣れており、どう動けば敵を錯乱させられるかを熟知している。康生が詠唱し、氷のつぶてを出現させる。雨のように降り注ぐそれに敵の馬は暴れ、逃げ惑う。振り落とされた敵武将を兵達が取り囲む。


「退けどけ〜!」


武尊ブソンもその巨体に見合わない足の速さで戦場を駆けていく。巨大なハンマーを振り回し敵兵をなぎ倒していく。元々武人なのだ。康順の処遇に不満を持ち、軍で暴れまわったためクビになり、両親の小料理屋を継いだのだ。料理人は性に合わなかったのだろう、水を得た魚のように暴れまわっている。


「炎剣舞。」


ビルケッタも他の武将に負けていない。1年以上の修行で得た双剣術はまるで舞っているかのように美しい。炎を纏った剣はまるで光に反射するサテンのように敵兵を翻弄する。康順に負けず劣らず、先陣を切り、敵の防衛軍に突っ込んでいく。敵兵達の構えていた盾を火柱でなぎ払い、巨体の敵武将を落馬させる。だが、雍陣のいる司令塔にたどり着く前に風魔法で弾き飛ばされた。


バチッ! 


敵陣営も大規模な攻撃魔法を発動させるが、シャリム率いる南部の魔法部隊が防御魔法を一手に担うため、その攻撃は当たらないどころか反射していく。


アガットは後方支援として、負傷した民と兵の治療を担う。作り置きしていた薬で治療を施し、ルルゥが治療魔法を発動させる。味方も敵も元は同じ国の兵だ。分け隔てなく治療していく。時たま攻撃魔法が飛んでくるが、テントの四方に刺した矢に彫んだ防御魔法が発動し、攻撃を吸収していく。


圧倒的にこちらが優位だった。



「おい!連れてこい!!」


追い込まれた雍陣は人質として拘束していた蘭華を司令塔に連れて来させる。


「あぁ、蘭華姉様が・・・以前より健康的になりましたねぇ。」

「なんというか皇帝って本当に期待を裏切らない性格されてますね。」

「狡猾なんですがねぇ。私たちには却って読み取りやすかっただけですよ。」


病弱な蘭華を〈元龍の古都〉から移動させる訳にいかずともいいように何か準備をしているのに決まっているのに・・・


路普ロフ円旬エンシュン!!」

「ティルケ!!」


康順がそう叫べば敵の護衛兵の中から司令塔にかけていく2人が現れる。この時を伺っていたのだ。

路普が剣で敵兵をなぎ倒し、円旬が蘭華を守りながら魔法を詠唱して結界を作り出す。安全だとされていた司令塔付近は混沌とし、護衛は皇帝を守ろうと魔術師達は結界を張る。


蘭華の周囲にいた兵は路普たちを攻撃しようと前に出たために隙が生じた。


蘭華の影が伸び、ズズッと子供が出現し、首に当てられていたナイフを蹴飛ばす。周囲のは驚愕する。魔法結界を張っているにも関わらず、探知できなかったのだ。当たり前だろう。魔法探知は外敵用だ。強固な結界も最初から影に紛れて中に入っていれば意味が無い。


ティルケは周囲の兵達の攻撃を黒い霧のように四散して躱し、回し蹴りを結界に加え内側から砕いていく。軽々と蘭華を抱えて跳ぶ。路普と円旬がそれに続き道を切り開いていく。戦場の馬をかっさらい、敵兵をなぎ倒しながらこちらの司令塔に到着した。


「蘭華姉様、ご無事で何より。おーい!椅子をこちらに。」

「雍清、お久しぶりですね。前にあった時より大きくなりましたね。主にお腹周りが。」

「いや〜あははは。この通りでございます。」


つんつんと蘭華にお腹を突かれ、雍清は笑いながら自身のお腹を叩く。2人は椅子に座りながら和気藹々と話をし始めた。長年会っていなかったが、雍清が小さい頃は康順と蘭華によく面倒を見てもらっていたのだ。仲はすこぶるいいのだ。そこにティルケとダリルがお茶とお菓子を差し出す。


「あらあら、ありがとう小さなお茶汲みさん。」

「おぉ、気が利きますなぁ。どれお菓子をあげよう。」


2人とも子供好きらしく、ティルケとダリルを膝に乗せてかりんとうを食べさせている。まるでピクニックに来ましたとばかりにのほほんとしており、戦場だとは思えないほどだ。


「蘭華姫、初めてお目にかかりますね。私は・・・」

「梅花のお兄様でらっしゃるのでしょう?よく梅花からお話は聞いておりました。優しい兄だったと・・・」

「おぉ、私もあなた様の事は文で知っておりました。是非ともお話してみたいと思っていたところです。」


シャリムは前々から蘭華の本心に興味があったのだ。監視をするほどに。直接話ができる機会ができた今、椅子に座りながら2人に混じり談笑する。雍清には姪と甥を匿ってもらった恩もあり、話してみると趣味も似ており、すぐ意気投合したほどだ。雰囲気が似ている蘭華とも直ぐに打ち解け始めた。



こちら側ののほほんとした雰囲気とは違い、敵陣はまるで暴風雨の中にいるかのように荒れていた。

雍陣は手段がなくなってしまったのだろう、顔を真っ赤にして周囲の物に当たり散らしている。


「あれを!あれを解き放て!!」

「陛下!お考え直しください。あれは我々の手に負えません!」

「黙れ!このままで終われというのか!?」


それでも気が済まないのだろう、司令塔横に置かれていた巨大な鉄箱の扉を開け放った。中に何かいるのだろうが、しんとしており、外からは確認がとれない。痺れを切らした雍陣が護衛の剣を抜き扉を強打した。


ゴウウィイイイィィン


鉄の鈍い音が辺りに響き、続いて箱の中からボゥボゥという生き物の鳴き声がこだまし始めた。

ガタガタと箱が揺れ始め、爆音と共に扉が吹っ飛ばされる。


巨大な鉄箱から出て来たのはドラゴンだった。


「ははははははっ我に仇なす者たちを蹴散らせ!!!」


雍陣は最終手段として貿易国から輸入していた2体の魔獣を解き放った。

味方の兵が身動きがとれず、戦場に残っていようともおかまい無しのようだ。もう後がないのだろう。


ボルボラドラゴン。


中型ドラゴン種。西のドラゴンを使役するという〈レフディール王国〉周辺に生息する。翼がなく代わりに土に潜り、蟻地獄を作り獲物を狩る。怒らせるとボルボルという威嚇音を喉から出すため、その名前がついた。全身は3メートルとされているが、尻尾が長いもので1メートルある。尻尾が平べったく鋭い刃のようになっており、魔獣を狩る時にノコギリのように振り回す。


寝ているところを無理やり起こされたのだ。激怒しており、喉からボルボルという威嚇音を出して突っ込んできた。



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