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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
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3 蘭の花は息を吹き返す

「薬は1日3回。朝昼晩ちゃんと飲んでくださいね。」

「あぁ、ありがとうアガットちゃん。よければこれを。」

「わぁ、幻虫草ゲンチュウソウじゃないですか!?珍しい・・・ありがとうございます!」


アガット達が〈元龍の古都〉来てから2ヶ月が過ぎた。武尊ブソンたちが探してくれた家は庭付きの広めの家だった。早速、薬草を栽培しながら、住民たちの治療をしていく。最初はアガットの年齢が若いことと治療費を払えないことで住民も遠巻きに見るだけだったが、武尊の店の客が約束通り宣伝してくれたおかげで、患者がひっきりなしにやって来るようになった。物々交換やタダ同然で治療するアガットに住民の警戒心もすっかりなくなっている。


そんなある日、家の前に貴族のと伺えるような豪華な馬車が止まる。使用人が降りて来て、アガットを主人が呼んでいるという。


「どうかご同行くださいませ。」

「支度をしますので少々お待ちください。」


そして馬車に揺られてついたのは、街の外れにある豪邸だった。門の周辺には兵が取り囲んでいる。〈華慈園〉《カジエン》そう書かれた門をくぐり抜けアガットは中に進む。


「ようこそお出で下さいました。主人はこの奥におりますので。」


使用人に案内されるがまま、庭園を抜け、客室から寝室へと足を運ぶ。寝台には主人を隠すようにシフォンのカーテンがかけられている。使用人に一礼してアガットが寝台に近づき、シフォンを退ける。主人の姿は痩せ、顔色が悪い。吐血もするのだろう、握りしめたハンカチには黒みがかった血がついていた。


蘭華姫ランカ康順コウジュンの正妻にして皇帝・雍陣ヨウジン先代雍全ヨウゼンの妹にあたる人物。意識はあるようで、アガットの顔を見ると弱々しく微笑んだ。


「・・・こんにちは。貴方が赤髪の魔女さんね。」

「どうか喋るのはお控え下さい。病状が悪化いたします。」


直ぐさま診断を開始する。


状況はよくなかった。むしろ最悪だ。もともと心臓が悪いのだろう、血液の循環が上手くいっておらず、そのせいで内臓に負担がかかっていた。薬草を煎じ、飲ませる。苦いのだろう眉間にシワを寄せながらも一気に煽る。しばらくして気持ち悪くなったのか、一気に吐血した。分かっていたため、盆で受け止め、背中をさする。


「ぜぇ、ぜぇ、・・・・それは?」

「ロウラの実です。血液を作るのを手助けする効果があります。」


拳ほどの大きさのロウラの実を割って見せると、血のように真っ赤な果肉が現れる。それを薬草鍋に刻み入れ、ナツメ、クコの実、黒糖等を入れ煮立たせる。最後にアガーと言われる植物ゼラチンを入れればルビーのような真っ赤なゼリーができる。固形にしたのはゆっくりと消化させたいためだ。


それを少しずつ白湯と一緒に食べてもらう。しばらくして体調が落ち着いたのか、白くカサカサになった唇に血の気が戻り始めた。


「ありがとう、だいぶ良くなった気がするの。旅をしてるのでしょう?少し話し相手になって下さいな。」


そう言いながら、使用人たちを下がらせた。扉が閉まったのを確認して、ビケに遮断魔法をかけさせる。アガットは壁に部屋を出現させると同時に、待ちきれないと扉が開いた。康順が勢いよく飛び出し、寝台に座り、今にも儚く散ってしまいそうな蘭華の手を握りしめ、涙を流す。


「蘭華!!!すまん、本当にすまん・・・・」

「何を謝る必要があるのでしょう?貴方に再度会えました。私は満足ですよ。」

「いえ、蘭華姫、まだまだ貴方には生きてもらわねばならぬのです。康順さんのためにも、亡くなった人のためにも、この国のためにも。」


アガットは寝台の前に膝をつき、蘭華に願い出る。命の炎が消えようとしている病人にするには酷すぎる願いだった。


「私のこの命で梅花の、皇兄の仇が打てるのなら、喜んで差し上げましょう・・・」

「蘭華!何言うか!アガット嬢はお前の命をもらうつもりはない!。」

「何か勘違いされていらっしゃるようですね・・・お話しは全員が揃ってからにしましょうか。ダリル、ティルケ。皆様をここに連れてきてちょうだい。」

「「はい。」」


名前を呼べば部屋には黒い霧と共に人が現れる。


ダリムとティルケと呼ばれた子供は丸い耳をピルピルと動かしてアガットに近づき擦り寄る。2人はアガットが拾ったトゥマーンの子ハイエナ達だ。


彼等は不思議なことにこの1年半で2度『進化』している。『第1進化』は康順達の狩に同行して3ヶ月たった日にサナギになり、羽化後は姿はそのままに二足歩行する獣人へと。『第2進化』は1年後、羽化してからは耳と尻尾はそのままに8歳ぐらいの人型へと進化した。


2人とも褐色の肌にくるくるとした髪、ちょこんとした眉毛と黒いタレ目を持つ、可愛らしい顔立ちになった。アガットがあげた〈紅香樹〉の木に模様を掘り、両端に玉を嵌めた銀のネックレスをしている。


ダリルと名付けらた男の子ハイエナは母親が捕らえられた時に鳴きすぎたのだろう、保護した時は喉がしゃがれ、あまり鳴かなかい子だった。進化した今でもそれは変わらなず、物静かな子供である。康順のような男らしい顔じゃないと、くるくるとしたこげ茶の前髪を長く伸ばし、目元を隠している。


一方で女の子のティルケは黄色よりの髪を耳元で切りそろえ、前髪を編み込みんでいる。同じタレ目なのに大きく、小さめの唇と相まってツンっとした印象を与える。人と会話出来るようになったのが嬉しいようで、明るくお喋りである。



2人が出現したところには3人の男たちが立っていた。ここが何処だか分からず、困惑した様子で康順とアガットを見やり、蘭華の存在に気付くと急いで膝をついた。


「「「蘭華姫」」」

康生コウセイさん・・お久しぶりですね・・・そちらのお二人は・・・」

黄大夫ワンダイフ李英殿リエイ。お久しぶりです。」

「黄大夫は康順さんと南部の疫病調査を一緒に担当されましたお医者様です。疫病の発生源が別にあると突き止めた方です。そして現王朝の家臣の李英さん。梅花さんの調査で雍陣に最後まで反発した家臣の1人です。では、計画を説明しましょう。」


アガットは計画の全貌を説明する。話を聞いてくうちに興奮してきたのだろう、蘭華の顔色が良くなっていくのが分かった。康順の服を握りしめ、食い入るようにアガットを見つめる。康生も家臣の李英も黄大夫も黙っているが興奮しているのが分かる。


「うまくいく!絶対うまくいくわっ!ゴホッ」

「蘭華!興奮しすぎだ!」

「評価していただけるのはありがたいのですが、焦りは禁物です。ここにいる全員が段取りを間違えないよう、お願いします。特に蘭華様。貴方様には時が来るまでに体の療養をお願いします。」

「えぇ、えぇ!もちろんです。必ずやお役に立てるよう!」


やつれた蘭華はアガットが入室した時と変わらないはずなのに、どこか元気そうだ。その瞳には希望の光が、決意が宿っていた。


「兄上・・・よくご無事で。」

「康生。お前も良く頑張ってくれた。よく耐えてくれた。」


康順は康生との積もる話もあっただろう。だか2人は抱き合い再会を喜ぶだけだった。小さい頃からどんなに辛い修行だろうと、戦場だろうといつもお互いを支え合っていた。だから多くを語らずとも相手の苦労が誰よりも分かっているつもりだ。


アガットは黄大夫と李英と話をしていた。これからの計画で更に必要な情報と意見交換をし、計画を更に完璧にするために。



使用人に不審がられる前に皆を返し、アガットは蘭華に退室の挨拶をする。


「今日はとても楽しかったわ。3日に1度の診療をお願いしても?」

「もちろんです。差し出がましいですが、もしよろしければ私の使用人を1人お側に置いてくれませんか?力が強く、薬の知識もございますので、必ずやお役に立ちましょう。ティルケ」

「まぁ、可愛らしい獣人さんね。よろしくね。」

「よろしく、おねがいします。おひめさま。」


使用人の手前2人はワザとらしく会話する。アガットはティルケに薬と〈部屋〉の鍵を渡し、屋敷を後にした。



それから蘭華の治療をし始めて1ヶ月。顔色がよくなり、肉つきも以前にまして良くなってきた。寝台からはまだ降りれないが、体調が少しずつ回復しているのだ。またおしゃべりが好きなティルケが側にいるのもいい効果だったのだろう。幼い姿で一生懸命お世話をする姿は大変愛くるしく、日々癒されているのだという。


「蘭華様それではまた来週お伺いいたします。」

「えぇ、いつもありがとう。ティルケもとても役に立ってくれていますよ。」

「らんかさま、好き。だからがんばる。」

「偉いねティルケ。後でダリルにお菓子を持って来させようね?」

「うん!」


ティルケを褒めながら頭を撫でてあげる。蘭華の屋敷から辞して、アガットはそろそろかと予測する。



そして予想通り、その日の夜アガットの家に賊が忍び込む。寝ているアガットに麻袋を被せ、攫っていく。



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