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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
32/58

2 鈍牛、梅花に見とれバカを見る?

「すいません!追加お願いします!!」

「・・・あんたらまだ食べるのか?」

「はい、もちろん!ここのご飯は美味しいですから。」


嫌そうな店主・武尊ににっこりと返事して料理の注文をする。


「麻婆豆腐と坦々麺。それから青椒肉絲、鶏肉の辛炒めに、エビと魚と青梗菜の炒め物。後は〜・・・」

「私、この魚の餃子とエビの餃子も食べたい!」

「じゃあ、とりあえずこれくらいで!」

「・・・っそんなに入るのか?」

「足りない分はまた注文しますので!」


注文を終えると冷やかしだと思った武尊ブソンの口元が引きつくが、アガット達はいたって本気だった。本当にここのご飯は美味しいのだ。それが伝わったのか武尊は嫌そうなのを隠しもせず、ため息をつく。


「あ!でもここのテーブルだとご飯入りきらないですね・・・」

「そうだな、料理減らすか?っておいチビ!!」


アガットが悩む振りをする間に、ビケが2階に走っていく。ひょこりと上の階から顔を出してにんまりしている。


「アガット!2階のテーブルすごい広いよ!」

「じゃあ2階で!」

「おい!」


言いながら2階へと足を運ぶ。後ろで武尊が何か言っているが聞こえないふりしてビケが座るテーブルに着く。上がってきたのがアガット達で驚いた路普ロフ達がこちらを凝視している。遅れて上がって来た武尊はアガット達を降りさせようとするが、ビケが子供のわがままを発揮する。


「ねぇ、なんでダメなの〜?あのおじさん達はいいのに〜?」

「あいつらは・・・よ、予約してあるから!」

「でも、私たちとおじさん達以外誰もいないじゃん!」


ケチ!とビケが食い下がれば武尊も何も言えなかった。子供相手に怒鳴る訳にもいかなかった。諦めたのか、長いため息の後、路普達にすまんと一言かけて、降りて行った。


2人で出されるご飯に感動しつつ完食し、食後のお茶を飲みながら、アガットは横目で男達を観察する。路普と円旬エンシュンそれに武尊が上がり、アガット達に聞かれたくないのだろう、こそこそ話しをしてる。


鈍牛どんぎゅう、梅花に見とれバカを見る。」

アガットがつぶやくと同時に男達の方で何かが割れる音がする。おおかた盃でも握り潰したのだろう。そちらに目をやると男達はこちらを睨んでいた。トドメとばかりにアガットがくすりと笑えば、武尊と路普はキレたのだろう、勢いよく立ち上がりこちらに向かって来る。


「嬢ちゃんさっきから人を不愉快にさせてくれるな。金はいらねえからとっとと出て行け。」

「あら?それは出来ません。」

「あぁっ?」

「だってさっきスイーツ頼んじゃいましたから。」


それを聞いた瞬間、武尊は机を殴りつけた。アガットは殴られなかっただけでも、聞いてたよりはマシかなと判定する。


「なぁ、こっちが優しくしてりゃいい気になるなよ。ぶん殴られたいかっ!!!」

「う〜〜ん。3点。短気すぎる。」

「「あぁ?」」

「主君の敵討ちがしたいのに、小娘が冗談で罵ったくらいで顔色変えてるようじゃ、仇打つ前に自分たちの首が飛びますよ?」


自分たちの秘密を知り、更に茶化すアガットに対して男達は狐につままれたような顔をする。アガットはため息をついて、お茶をすする。しばらく沈黙が続き、見かねた路普が剣を抜こうとする。

が、その前にビケがその首に剣を押しあてる。先ほどの無邪気な子供とは打って変わったビケの雰囲気に男達も殺気を強めた。空気が張り詰める中、アガットだけはのんびりと立ち上がり、壁に鍵を差し込み扉を出現させた。


「・・・まったく、どういう教育してるんですか?」

「面目ないです・・・」


アガットが部屋の中の相手に文句を言うのを男達は信じられないといった顔で見ている。のっそりとその巨体を屈めながら出てきたのは、康順コウジュンだ。


「「「っ言将軍!!??」」」


男達は幻でも見ているかのように目をこすり、触ろうと近づく。そして本物だと確認すると、感極まり、膝をついて号泣し始めた。全くもって喜怒哀楽が忙しい人たちだ・・・



「ねえ、ここ間違っても小料理屋ですよ?いくら感動の再会だからと言って大声あげていい訳じゃないんですからね。ビケが遮断魔法かけたから良かったものの・・・」

「「「はい・・・すみません。」」」

「もう、路普さん!康順さんが生きてるの知ってるでしょう?何を号泣する必要があるんですか!」

「その・・・この都に将軍が帰ってきたのだと思ったら・・・思わず・・・」


男泣きを続ける男達にアガットは小言を言いながら、ハンカチを渡していく。側から見たらシュールな光景だろう。大の男が19の小娘に怒られているのだから。康順もその光景が面白いのか笑っている。アガットがじとりと睨めば、咳をして誤魔化し、隣でスイーツを食べているビケを見やった。ビケは美味しさをおすそ分けしたかったのだろう。康順にあーんをしてあげる。


「康順さん、アガット!ここ、スイーツまですっごく美味しい!。」

「本当?私の分も残しててよ〜。」

「もっと頼んでくる!。」

「では私の分の食事もお願いします。」

「言将軍!私が!私が作りました!」


言うなり1階に駆け出してくビケに康順は口をもぐもぐさせながら、更に注文をお願いする。武尊は褒めて欲しいのかしきりに自分が、自分が!と繰り返している。全く締まらない・・・・


アガットは咳払いをして、皆の視線を集めると話しを進める。


「武尊さん、できれば私達が住める場所の確保をこの店の近くで見付けて頂きたいです。路普さんはまだ軍にいるのですよね?言康生さんに内密に連絡を取り、密会の約束を取り付けてください。」

「なぜですか!!あんな裏切り者を!?」

「裏切り者?国を、民を思い、憎い相手を主君と認めざるを得ず、周囲からなじられてなお仕事をしている人を英雄と呼ばず、裏切り者とは随分な言い草ですね?・・・馬鹿ですか?」


これが武将?とアガットは本気で呆れ、怒っていた。康順がたしなめなければ、殴っているところだ。現状で一番国を思い活躍している者が誰かすら分かっていない路普達にイラつきを隠せない。


言康生。康順の弟にして現王朝の将軍であり、雍陣ヨウジンたちの暴走を止める最後の砦である。言一族でも珍しい細身の体と水属性を持ち合わせた名将であり、『動の康順、静の康生』と言わしめるほど文武に長け、先を見通す力を持つ。康順が流刑にされた後、将軍の座を得たことで、周囲から裏切者、冷血な男と言われているのだ。


路普はアガットの叱咤に反論できなかった。康生の行動に対し、思うところがあったのだろう、葛藤しているのか押し黙った。


「はぁ、もういいです。ダリル、ティルケ。あなた達が行きなさい。康順さん文を。」

「「はい。」」

「ええ、後で2人に文とお菓子をあげましょうな。」


魔法で閉じているはずの空間から鈴のような子供の声がする。康順が文と一緒にハンカチに包んだ武尊の店のお菓子を差し出せば、黒い霧と共に一瞬で消える。男たちは不思議な力を使うアガットを見つめた。武将である自分たちに子供達の気配が分からなかった。いるような、いないような、なんとも言えない空気が気持ち悪く、背筋に冷や汗が浮かぶ。


「なんとも面妖な・・・」

「この娘はいったい・・・」

「この歳だが、立派な魔女だよ。気をつけないと足元からぱっくりと喰われるぞ。」


康順は冗談のつもりだったが、男たちには伝わらなかった。アガットの年齢以上の落ち着きと思考深さ、人を判断する力は明らかに少女という域を超えていた。親子ほども歳が離れているにも関わらず、自分たちを叱咤する姿はまるで母親のようであるのも男たちを混乱させるには十分だった。


「話を進めても?」

「「「はい、お願いいたします。」」」


アガットが話を続けようとすれば、佇まいを直し、素直に返事をする。路普、武尊、円旬の子供のような素直な姿に我慢できず、康順は今度こそ声をあげて笑った。



〜〜〜〜〜


「誰かそこにいるのか?」


夜更けに雷石で部屋を灯し、1人読書をしていた康生コウセイは、視線を感じ、本から顔をあげた。子供が起きたのかと思い、視線の方へ顔を向けると、そこには見たこともない獣人の子供が1人佇んでいた。康生は驚き、机に置いていた剣を取ろうとするが、それよりも早く黒い霧と共に子供が机に座る。


「何者だ!?」

「・・・これ・・・お手紙、です・・・」


髪で顔を隠している子供が不気味で一歩後ずされば、子供は文を差し出した。康生が受け取ろうとしないのにムッとしたのか、文を胸に押し付けてくる。唖然とする康生をよそに子供は仕事が終わったとばかりにハンカチで包まれたお菓子を広げ食べ始める。


「・・・・!?これは!!!」


文には信じられない事が書かれており、キラリと光る小さな姉妹石が同封されていた。


〜〜〜〜〜


同じ頃、別の屋敷では・・・


「ゴホッゴホ・・・」

「奥様、お医者様をお呼びしましょうか?」

「いら、ないわ・・・お、お前たちも・・・・下がって・・・」


煩わしいと周囲を行き来する使用人達を下がらせ、寝台に横になるが、咳が止まらず、水を求めて手をさまよわせる。直ぐそこにあるのに距離が届かず、諦めようとしたその時、水の入った杯が目の前に差し出された。


驚き、その人物の顔を見ようとして更に驚く。そこにいたのは獣人の子供だった。ふわふわとした髪を耳のあたりまで伸ばし、前髪を編み込んでいる可愛らしい子供だった。


呆気にとられていると痺れを切らしたのだろう、再度杯をずいっと差し出される。飲めということなのだろう。


「ありがとう。」


水を飲み干し感謝を伝えれば、嬉しそうに笑顔を見せ、懐から文を出した。


「お手紙です。」


月明かりの中、目を凝らして文の内容を確認していく。読み進めていくうちに、ついに時が来たのだと、胸が震えた。



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