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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第4章】元龍の古都
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1 まやかしの古都へ

〈元龍の古都〉に向かう計画を立て始めてから、1年半、アガット達は砂漠を横断していた。ウノート村から出発して早1ヶ月が過ぎた。村を出る際に村民はラクダを準備してくれただけじゃなく、感謝を示したいからと食料や必要な物等を無償でくれた。


そして前夜には大々的な宴も開いてくれ、皆大いに食べ、飲み、騒いだ。出発の日にこの村の位置を地図に記してもらい、再会を約束して旅立った。


〈黄泉の砂漠は〉やはり名前に黄泉と付くだけあって、魔物の数も〈荒廃した砂漠〉以上に出くわす。危険と分かっているため人もあまり近づかないのだろう、戯れるように魔物はアガット達に容赦なくしかけてくる。


爆音と共に砂漠からトルブルドロスが飛び出す。ここの周辺はどうやら彼らの巣穴のようで、次いでバイバドロスも出ている。


康順とアガットは襲いかかる2匹の魔獣に対しラクダに乗ったまま微動だにしない。動く必要がないからだ。


砂漠のど真ん中だというのにひらひらと花びらが舞う、魔獣達も不思議そうにそれを見やる。花びらは積もり、魔獣達は嫌そうに頭を振るが、意味をなさない。徐々に魔獣達の巨体がグラつき、鈍い音と共に砂漠に倒れ込んだ。


その巨体の上に2つの黒い影が素早く飛んでいく。目にも止まらなぬ速さで魔獣を分解したかと思うと、必要な素材、肉の部分、硬い殻などのいらない部分と分別していく。アガットはそれを横目に見ながら、今日はここで野宿だろうと、ご飯を作るために火を起こした。


「魔獣っておいしいの?」

「私は好きだけどね・・・人によるんじゃないかなぁ・・・」


そう話すのはビケとルルゥだ。ルルゥはあの後、更に進化していた。『第2進化』だ。進化後はビケと同い年くらいの10歳前後の人型となった。赤と黒のコントラストを持つ髪をふんわりと三つ編みして、アガットがあげたギョクがはめ込まれている銀の髪留めで止めている。魔獣の殻を上手くよけながら食事しているにも関わらず、その容姿は咲き誇る花のように美しい。この容姿で世界一硬いと言われている〈紅香樹〉の扇子をナイフのように使い舞うのだから恐ろしい。


4人はもう直ぐ着くであろう〈元龍の古都〉に向けて最後の食事を終えた。



石畳の城壁と瓦屋根の門の前には入国しようと長蛇の列が出来ていた。アガット達もラクダから降り列に並ぶ。やはり大国だけに、検問にも厳しいようで、時間がかかっているようだ。ようやくアガット達の番になるとやはり身分を示す物の提出を言われた。


「へえ、あんたこんな若いのに薬師なのか・・・」

「はい。駆け出しですが、幼い頃より母に教わってきましたので。門番の方達も何かあれば是非ご贔屓にお願いします。」

「考えとくよ〜。そっちの子は?」

「私の妹のビッルケッタ・トランドットと申します。」

「・・・その・・随分似てないな。」

「父が違いまして・・・」


違って当然だろう。エメラルドのような瞳以外、いたって普通の容姿のアガットと違い、ビルケッタは凛とした百合のような雰囲気を持つ少女だ。白く透き通る肌に、金とも黄色とも言えぬ髪。少しだけ大きい口が却って顔の美しさを引き立たせるほどだ。唯一アガットと同じと言えば広がるそばかす模様とふわふわとした髪質ぐらいだ。


「あんたも苦労してるんだな・・・」

「いえいえ、これでも姉妹仲はとても良好なんですよ?」


門番に同情されながら、通される。ビケは門番の言葉が気に入らないのだろう、不機嫌そうにしている。アガットは苦笑しながらビケの頭を撫で、門の近くにある小屋に借りていたラクダを繋ぐ。この世界ではお金を払えば町から町までラクダを借りることが可能だ。借りたラクダのくらに町名が記載されており、小屋に繋げば魔法で戻る仕組みだ。


〈元龍の古都〉と呼ばれることだけあり、古くからある街並みは活気付いている。大通りには商店が立ち並び、人々でごった返している。アガットとビケは商店をゆっくり見物しながら料理屋を目指す。できるだけ大通りから離れた場所の方がいろいろと都合がいいからだ。


大通りから一歩街の中に入れば、煌びやかな〈元龍の古都〉のまやかしは消える。日中のはずなのに薄暗い雰囲気を放ち、人々の顔色は暗い。病でもないのに体は痩せ、覇気がなかった。家の前で食べられる物の加工や服を繕っている。子供達ですら遊ばず仕事をし、小さい子は親の手伝いをしている。


これが本当の〈元龍の古都〉の現状だった。裕福な者たちは更に儲け、貧困な者たちは更にひもじく日々の生活を生きるのに精一杯だ。アガットと康順はこれを予測していた。玉座と権力が欲しい雍陣は自分に利がある話にしか興味がない。そしてその周りには口が上手く、自分を良く見せようとする家臣たちが集まる。自分の懐を肥やしたく、宝石のために南部を侵略した家臣たちが民を顧みるはずがなかった。


康順の元臣下だった露普が伝えてくれた現状はその予想を裏切らなかった。だか自分でその光景を目の当たりして、アガットは胸が締め付けられた。ビケも同じなのだろう、繋いだ手に力を込める。2人は黙ったまま料理屋を目指す。


〈小料理屋・草々〉雑草のように細々と逞しくと言う意味が込められている2階建の小さな料理屋だ。


「・・・いらっしゃい。」

「牛肉麺を2つ。それから餃子を1皿。」

「あいよ・・・」


奥の席に座り、料理を注文する。ここの小料理屋は注文を受けてから料理を始めるのを知っていて、わざと手間のかかる料理を注文した。料理が来る前に他の客の話から情報を集めるためだ。


「俺の働いてるとこもうすぐ潰れそうなんだ・・・お前の運送屋は賃金が高いんだろう?俺もそこに行こうかな・・・」

「馬鹿っ!マジでやめとけよ。賃金は高いが命があっても足りねえよ・・・」

「あれなんだろ?南部からの宝石の原石を運ぶから山賊に襲われるんだろう?」

「・・・そうなんだよ。昨日話した同僚が今日はもういねぇなんざしょっちゅうだよ・・・」

「まじかよ・・・・」


「なぁ、知ってるか?昔、梅花姫メイファっていたじゃねえか?」

「馬鹿、それを言うなら罪人梅花だろ!縛り首になったの知ってるだろ!?」

「実はその梅花の幽霊が最近出て噂だぜ。なんでも無実の罪を着せられたって泣きながら徘徊するらしい・・・」

「嘘だろう?!あれは梅花が自分で自白しただろう?なんで今更出て来るんだよ!」



「はい。牛肉麺と餃子お待ち。全部で銅貨14枚。」

「ありがとうございます。」

「わ〜!美味しそう!」


ビケが早速牛肉がたっぷり乗った麺にかじりつく。アガットはお金を払いながら、店主を観察する。180程もある巨体で、目つきの悪い無骨な男だ。あまり話をしないのだろう、むっすりとした唇はへの字に固く閉じられている。料理屋よりも戦の中が似合いそうな男だった。


「何か?」

「いえ、左肩悪いんですか?」

「あ?」


そう話しかければ、他の客は一斉に黙った。どうやら禁句だったらしい。店主は目に見えて不機嫌になってお金を握りしめる力を強めた。


「だったら?」

「私薬師をしてまして・・・もしよろしければ診断をさせt・・」

「いらん。」


地雷を踏み抜いたのだろう。話の途中で店の奥に引っ込んでいった。やはり話に聞く通り頑固者である・・・


「嬢ちゃん、その年で薬師なのか?随分若いね〜。」

「はい。小さい頃から母について廻っておりまして、気がついたら私も同じ道に進んでおりました。」

「なぁ、もし俺が見て欲しいっていったらいくらするんだい?」

「その膝のことですか?う〜ん、まだこの街に着いたばっかりなので、お客さんもいませんし、今回は銅貨5枚ということで。で、もし良くなったら宣伝してくれのならタダでどうでしょう?」

「おぉ!いいのかい?宣伝するする。」


ご飯の後でいいのならと話しをまとめ、食事にする。牛肉はよく煮込んであり、口に入れた途端にほろほろと崩れる。麺はあの店主が打ったのだろう、もちもちと歯ごたえがあり、さっぱりとしたスープとよく絡む。餃子は口に入れた途端、肉汁が溢れ、野菜のシャキシャキとした歯ごたえが堪らない。絶品だ。ビケを見れば口の合ったのだろう、ガツガツと食べている。このままだと足りないだろうな〜と更に注文しようとして、店先にお客がいることに気が付く。


武尊ブソン。2階を借りるぞ。」

「おぉ。路普ロフ円旬エンシュン。上がってくれ。すぐにつまみと酒を持っていく。」



その名前を聞いてアガットはにんまりとした。



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