6 覚悟を決める時
いつの間にか総合評価50ptに?!
あわわ・・・・(汗)
本当にいつもありがとうございます。
康順が落ち着いてからアガットはある提案を始めた。
〈元龍の古都〉にはすぐには向かわないこと、だ。康順はすぐさま出向きたいと意見をするが、それは無理だ。アガット達がしようとしてることは一国の皇帝を殺すことだ。生半可な計画ではすぐ見つかり処刑されるだろう。
「だいたい1年後に〈元龍の古都〉に向かいます。」
「1年もですか?」
「はい、本当は3年欲しいのですが、それだと色々矛盾が起こりそうで・・・」
「矛盾ですが?」
「今はまだ蘭華さんが生きています。だけど、3年後になるとどうなっているか分からない。そうなると色々まずいんです。」
「確かに私が無実であること、雍全が毒殺されたことを知ってるのは蘭華しかません。」
「そして、皇妹である身分と疫病に感染し、梅花が治療したということもとても大事なんです。でも、〈元龍の古都〉の現状がどうなっているのか分からない今、無闇に動くのは逆効果です。康順さん手紙を貰ったのはいつ頃ですか?」
「半年前になります。手紙を読み、路普、元部下です。に事故死に見せかけて逃げるのを助けてもらいました。」
「つまり、皇帝は康順さんが逃げた事を知らない・・・」
「はい、逃げたと分かればそのまま捉えられるか、殺されるかしかありませんから。」
「賢明な判断ですね。その路普さんと連絡は取れたりしますか?」
「姉妹石を貰いましたので、今まで魔力がほぼ枯渇していましたので、まだ使用しておりませんが。」
姉妹石とは元々ひとつの石を割った石の事をいう。魔力を持つ者同士が姉妹石を持てば会話する事ができる。話したい者が姉妹石に魔力を注げば、相手の石が光る。相手も話したければ魔力を注げばいい。
「では連絡手段はあると言う事ですね。じゃあ情報を路普さんから貰いましょう。それと1年という期間を設けたのは、ただ情報収集のためだけじゃありません。」
康順にビケを戦えるまで鍛え上げるのに最低でも1年必要だからだ。アガットが魔法を教えたところで武術が足りなければ、万が一戦になったとして、後方援護か避難させるしかできないのだ。
「ビケもできれば前線で戦いでしょう?」
そう聞けば、力強く頷く。ビケは康順の出来事を自分の前世と重ね合わせている。理不尽な人たちにより、自分が、自分の周りの人が傷つき、人生をズタズタにされたのが許せないのだ。アガットは今回の件でビケの心に根深く刺さり、いまだに毒素を放つその毒針を抜いてあげたいのだ。
ビケはこの世界に来て、アガットがいることで人生をやり直すチャンスを得られた。ならば康順もそのチャンスがあってもいいはずだ。
「ビルケッタ嬢、本当に前線に立つおつもりで?」
「はい。私も康順さんのお役に立てられるよう鍛えてください。」
「・・・分かりました。私も腹をくくりましょう!」
「では今日は休みましょう。具体的な話はもう少し先に。」
少し時間をおいて詳しい話をしたいのはルルゥの件があるかだ。アガットにはある考えが浮かんでいた。次の日から康順はビケの修行を始めた。本当につらい修行なのだろう、夕方になると、フラフラのビケが帰ってくる。康順も自分の鍛錬を始めたらしい。左手での剣さばきを利き手同様になるまで鍛えたいのだろう。
7日後、ルルゥがサナギから孵った。今後の事を決めやすいように康順にも立ち会って貰っていた。ルルゥの体は前の倍以上大きくなり、狼と同じぐらいの大きさに進化していた。体の朱色はまるで炎のように光に反射し、手足の黒い毛と長く伸びた尻尾は漆黒のように変化し、まるで霧のように先が揺らめいている。ビケは久しぶりに見るルルゥの姿に喜び、ルルゥも嬉しそうにじゃれている。
妖狐だ・・・と呟き、康順はルルゥの変わりように絶句するしかなかった。
「康順さん。お話があるのでこちらに来ていただきたいんです。ビルケッタも。」
アガットは壁に扉を出現させ、中に入るよう促す。大きい康順は頭を屈めて、部屋に入り、床に座る。ビケはルルゥと共にベットに。扉を閉めてアガットは椅子に座る。
「なんで扉を閉めたの?」
「これから話す事が外に漏れないようによ。」
「ルルゥの容姿の変化についての話でしょうか?」
「はい。単刀直入に聞きますね。康順さん私の配下になる気はありませんか?」
空気が張り詰めた。元将軍の男にただの小娘が話していい事では無いことは重々承知だ。それでも話したのは、康順のしようとしている事に大いに利があるからだ。
「・・・ご冗談ですよね?」
「いえ、極めて真剣です。」
「ちょ、ちょっと待って!アガット急に何を言い出すの?」
「ビルケッタ、どうしてあなたが、そしてルルゥが進化したのか、不思議ではない?」
「普通のことではないの?」
「そんなこと、普通ではありませんよ・・・」
この世界の原理に進化はある。だがそれは魔物の原理に当たるのだ。ビケは混血児とはいえ、爬虫類のままのような姿から人型に、ルルゥのような普通のアカギツネが魔獣になることは、ほぼ不可能だ。
アガットは自分の恩恵である【進化の鍵】ついて説明を終えた後でも、しばらく部屋の中は静まり返っていた。
「・・・つまり、ルルゥのように急激に変化する理由はあなただと?」
「えぇ、私とその相手が【家族・仲間・配下・所有】などの関係で結ばれれば、進化する原理です。」
「もし、ルルゥの件をこの目で見ていなければ、にわかには信じがたい事ですな。」
「康順さんを配下にと言ったのは別に部下になって欲しいわけではなくて、」
「その【進化の鍵】の恩恵を私に、ということでしょうな。」
「話が早くて助かります。」
「・・・・少しお時間をいただいても?」
「もりろんです。じっくり考えてください。どんな答えであれ、私は構いません。」
康順が帰っていくのを見送り、ルルゥに抱きついたまま黙っているビケの隣に腰を下ろす。長い沈黙の後、ビケが口を開いた。
「・・・これから更に【進化】することは?」
「今だに分からないことが多いの・・・」
ビケの進化でやっと気付いたのだ。ビケとルルゥの進化が完全進化なのか、途中形態なのかすら不明だ。ビケの今の心境が分からず、横顔を見ているとビケが突然アガットの方に向き直った。
「だったらこれから更に進化する可能性だってあるってこと?」
「え?えぇ・・・そうね・・・」
「だったら明日から康順さんにもっと修行を詰めてもらわなきゃ!」
ビケは人型に進化したことをそこまで憂いてはいなかった。むしろ前以上にアガットの役に立てることを喜んでいた。進化したばかりの頃、あんなに取り乱していたビケからは想像もつかない程、その存在は頼もしかった。
「多分、アガットはこれからもっと色々な事に巻き込まれると思う。今回の康順さんの事だってそう。万が一何かあった時に私が弱かったからとか、無力だったからとかでアガットを守れないのは絶対嫌なの。」
前世でアガットとビケの人生が重なった悲惨な事件は、ビケにとっての救いでもあった。だが、それが決して許される訳ではない。挽回のチャンスを与えられた今ならば、人を傷つけたその手を、人を守るために使いたいのだ。
「ねぇ、ビケ・・・」
「どうしたの?」
「今日は一緒に寝ましょうか?」
「アガット、急にどうしたの?」
変なの・・・と首をかしげるビケを抱きしめる。アガットが想像するよりビケは先を見据えていた。その強さに、優しさにアガットは嬉しさと共に寂しくもあった。子供の成長は早いなぁ・・・
翌日、康順が出した答えは、拒否だった。
「すみません。私はこの姿のまま〈元龍の古都〉に戻り、仇を打ちたいのです。」
「分かりました。私も康順さんだったら拒否するだろうと思っておりましたので。」
深々と頭を下げる康順をたしなめ、朝食を一緒に取るように促す。配下になってはいないため、進化はできないが、アガットが作った食事の恩恵はそのまま得られるのだ。3人で朝食をとる。
敵討ちにいくとは思えない和やかな雰囲気だった。




