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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第3章】ウノート村
27/58

5 牛神の末裔

今回も長いです。ごめんなさい〜

いつも評価ありがとうございます。

すごくうれしいです!

初めて『進化』を見た康順は目を細めながら観察をしている。自分も進化しているビケは喜んでいる。アガットはどう康順に説明するべきか考えあぐねていた。


「トリブルドロスの素材を集めましょう。」

「そ、そうですね!」


気を利かせたのか康順が提案して、2人は素材を集めていく。

素材を集め終わり、アガットはルルゥが入ったサナギを、康順はビケを抱えて村に戻る。ラクダが逃げたため、徒歩で帰るしかなく、気まずい沈黙が辛かった。


「おぉ!!無事だったんだな!」

「心配したのよ!?男達が逃げ帰ってきたからもうダメかと思ってたんだよ。」


村に着けば、心配した村民がアガット達を取り囲んだ。トリブルドロスを狩ったと知ると驚きと称賛の声が次々上がる。笑いながらアガットはチラリと康順の方を盗み見る。何事も無かったように村民と話しをしていた。アガットは冷や汗をかきながらこの後起こることを案じた。どうなることやら・・・・


トリブルドロスを狩猟を祝う宴が開かれ、皆大いに食べて、飲んで、騒いだ。トリブルドロスは珍しいため、素材は高値で売れるのだ。


その夜、アガットの家の扉を叩く者がいた。扉を開けるとやはりというか康順がそこにいた。


「夜分遅くにどうされました?」

「実はお話が有りまして・・・・」

「では中にどうぞ・・・」


康順を居間に座らせ、アガットはお茶を沸かす。話の内容は分かっていた。『進化』のことだろう・・・


タンポポ茶を差し出せば、礼を言われ、お茶をすする。どう切り出すか、お互いに考えあぐねているのだ。


「アガット嬢、実は折り入ってお願いがありまして・・・」

「はい、私でお役に立てることが有りましたら、伺いましょう。」

「実は・・・っ〈部屋〉の件で・・・・私をそれで〈元龍の古都〉まで運んでいただけないでしょうか?」

「はい。・・・はい?」


予想していた話とは違った内容にアガットは面食らう。どういうことか分からなかった。


「私は元々〈元龍の古都〉の出なのですが・・・」


康順の廃していたの元の姓は「言」であった。言一族は代々武将を輩出する名門である。


『名君あるところに言家あり』と言われるほど、代々皇帝に仕え王政を支えてきた。


牛神の末裔と言われており、一族皆体が大きく、額にはツノが生えて産まれるのだ。

魔力も武力も持ち合わせる言一族は火属性が多いが、稀に康順のような土属性も誕生するらしい。牛神の末裔の中でも土属性を持つ者は血筋と相性が良いため大成する者が多く、康順も同様に幼き頃から才能を開花させ、成人する頃には武将にまで上り詰めていた。


康順が武将になった頃、新しく王位を継承した皇帝・雍全ヨウゼンが即位した。2人は小さい頃から共に勉学を学んだ師兄弟だった。それゆえに仲がよく、周囲も2人の関係に国の安泰を感じ喜んでいた。


だが、雍全が即位して間も無く、南の民族と戦が始まり、康順は先頭きって戦に出ていく。2年という長い時間苦戦を強いられてきた戦いだったが、康順は見事勝利を手にした。都に戻れば雍全は喜び、早速褒美を与えた。将軍に昇進したのだ。名言通りの2人の関係に家臣も国民も大いに喜んだ。


南の民族は敗れ〈元龍の古都〉の配下に加わることとなり、約束を違わない為にも協定を結び血を交えることになった。嫁という名の人質を差し出し、忠誠を示すのだ。


問題は誰がその婚姻を結ぶかになり、南部との戦で活躍した康順に白羽の矢がたった。名家のため姫を貰っても申し分なく、間違いは起こさないよう監視する役割も務まるからだった。


そして一番の理由として康順にはすでに正室として雍全の妹・蘭華ランファを迎えていたのだ。2人は小さい頃から仲睦まじく、康順に側室をという声すら上がらないほど愛し合っていた。南部の嫁が来ようとも、お飾りになるのは皆分かっていたため、康順に決定した。


南部の姫は自国での名前を廃され、新しく梅花メイファと名をもらった。遠い国に人質として連れてこられ、本当の名前すら名乗ることが許されない辛さから、梅花は自室に引きこもった。


蘭華も流石に梅花を可哀想に思い、言葉が分からないのならと、音楽を通して交流を深めていく。

訓練と、遠征と、戦で家を留守がちになる康順を置き去りにして2人はいつの間にか姉妹のように仲良くなっていった。


「遠征より家に帰り、2人の楽しそうな声が聞こえてきた時はびっくりしましたよ。」

「余程仲が良かったんでしょうね・・・」

「ええ、梅花と私との仲を取り持ったのも蘭華でした。私には勿体無いほど、本当に器量がよく、花のように美しい女性でした・・・・」


康順は2人の間に5人の子を産む。親同士も子供同士も仲が良く、幸せな家庭だった。


「どんなに疲れ、傷ついても、あの家に帰らねばと思うと闘志はいくらでも湧いてきました。それほどまでに大事だったのです。」

「でも何かが起こってあなたは罪人としてここにいる・・・」

「はい。崩壊は蘭華流行病を患ったことからでした。」


元々蘭華は体が丈夫な方では無かった。雍全も康順もそれを案じていたため、日々の生活に細心の注意を払っていた。だが、疫病が都に蔓延するのと蘭華の体調が崩れるのほぼ同時だった。

どんなに手を尽くしても、病状は悪くなる一方で、雍全も康順も打つ手がなかった。絶望的だった。


だが、梅花だけは血眼になって治療薬を探した。そしてついに南部の薬で効き目があるものを見つける。


「梅花は雍全と私に土下座して薬を試させてくれと申し出しました。何かあれば自分の首を差し出すと言って聞きませんでした。」


雍全の許可が下りるわけもなく、梅花は康順と相談し民を治療し始めました。特効薬として例を作れば雍全も許可するだろうと思って。


「民は完治していき、遂に雍全の許可の下り、梨花のへの薬の投与が始まると、目に見えて回復していきました。」

「それなのに何故?」

「・・・しばらくして・・・疫病をばら撒いたのは南部の者ではないかと噂が流れ始めたのです。」

「馬鹿なことを!!」

「私も、雍全も、梅花も、蘭華すらそう思っていました。・・・ですが民意は徐々に変わっていきます。」


子を、親を、家族を流行病で亡くした民はその怒りを誰かにぶつけたかったのだろう。南部の仕業だと噂が広まっていき、遂に皇帝・雍全が動く事態になった。雍全は調査部隊を派遣し、徹底的に調査すると公言しました。


「薬師たちと私を派遣しました。一番中立だからと。」

「結果は?」

「ただの噂だと結論付けられました。疫病は東の方から流れてきたものでした。」


しかしお触れが出る前に雍全が病で倒る。程なくして亡くなり、玉座には皇弟の雍陣ヨウジンが即位した。即位してすぐに雍陣は調査報告を無視し、南部の制圧を指示。将軍・言康順ゲン コウジュンは南部と通じ、造反の疑いがあると捉えられた。


「何故!!??」

「南部攻略には私が邪魔だったのですよ。中立な立場の私が・・・」


捉えられ、拷問されても証拠が出なかった。証拠など有りはしないのだから。しかし南部制圧に同調した官僚たちが康順の嘘の証拠を提出していく。ほどなくして康順の打ち首が決まった。


「でも生きている・・・」

「はい。後で知ったことでしたが、梅花が皇宮に乗り込み、自分が主犯であると嘘の証言をしたのです。南部の仇を打ちたいと1人で計画し、うまく康順という人物を騙して利用したのだと。民で治療をしていた時が何よりの証拠だと・・・」

「嘘の証言を??それだと梅花さんは・・・・」

「縛り首に処され、1ヶ月その姿を都に飾られました。見せしめだとして。」

「ひ、ひどい・・・」

「蘭華は元々皇族のため、身分を落とすだけで済みました。そして蘭華は自分の立場を利用し雍陣に頼み込み、私の利き腕を落とし流刑にするが、命は取らないことを約束させ、内密に梅花の子供たちを逃しました。」


流刑でついた砂漠で肉体労働をして5年が過ぎたある日、自分の部下だった男・路普ロフが内密に訪ねてくる。一通の文を携えて。


「蘭華からの手紙でした。内容は皇兄・雍全の死は雍陣による毒殺であること。北部の疫病の噂も宝石を産出する北部を制圧したいという官僚の仕業であること。文の最後には北部の民の恨みを、皇兄・雍全と梅花の無念をどうか晴らしてほしいと締めくくられていました。梅花の形見のかんざしと雍全の指輪を添えて。」


そう言いながら康順は蘭華からの手紙だろう、黄ばんだ文を大事そうに懐から出した。文のところどころにシワが寄っていて、泣いたことが伺えた。文の最後に血判さえ押されており、蘭華の悔しさが、強い願いが伺えた。


「私は〈元龍の古都〉に戻らねばなりません。しかし、この容姿です。すぐに感づかれてしまいます。どうか・・どうか・・・連れていってもらえませんか?・・・都に・・・都に着くだけでよいのです!」

「ビルケッタ、どうする?」

「行く。そいつら全員ぶっ潰せばいいんだよね?」


途中で起き出したビケに意見を聞く。気付かなかった康順が振り返るとそこには、理不尽な前世の記憶が蘇ったのだろう、怒りのあまり目が座っているビケがいた。


「だそうです。」

「し、しかし、ビルケッタ嬢はまだ子供では?危険すぎます。都まで連れていっていただくだけで・・・」

「あら?乗りかかった船ですよ?そんな話をされて、今更引き返せませんよ。」


まさか、一緒に仇を討ちに行くと言い出すとは思わなかったのだろう。康順は戸惑う。


「もちろんタダでとは言いません。」

「わ、私に出来ることであればなんでも!」

「ビケの、ビルケッタの師匠になってください。どう、それで?」

「全然オッケー!〈元龍の古都〉までの短時間したないので、死ぬ気で頑張ります!」

「お、おけー?で、ですが・・・・」

「あら?まだゴチャゴチャ言うのであれば・・・」


アガットは棚から薬瓶を出す。うるさいのなら黙らせればいいのだ。2人の本気が伝わったのだろう康順は泣きながら土下座した。


「あ、ありがとうございます!このご恩は・・このご恩はっ!!!・・・」

「だからちゃんとビルケッタのこと鍛えてくださいね?」


それで十分ですよ、とアガットもビケも微笑んだ。

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