4 魔物退治
今回ちょっと気持ち悪いかもしれません。
虫の描写があります。
「アガットさん。うちの爺さんの薬をくれないかな?」
「ダルアさん!ヤルダールさんの高血圧の薬ですよね?ちょっと待ってて下さい!え〜と、どこ置いたっけ?」
「これだよ。」
「ありがとうビケ!」
「お!ビケちゃん、またお手伝いしてるの?相変わらず偉いよね〜。」
俺の息子なんてもう反抗期でさーとダルアさんの愚痴が始まる。最近お店を手伝いだした息子さんと上手くいってないのだ。ビケは息子さんと遊び仲間らしくダルアさんの相談に乗ってあげている。
ここウノート村について早4ヶ月が過ぎようとしていた。結局ブーラル教はあの事件がきっかけで信者達が反乱を起こし、司祭は解任。
元々ブーラル教の教えは『自然を守り、破壊せず、共存する』というものだった。それをあの司祭が就任してから、何をトチ狂ったのか自分が偉いのだと勘違いを起こし、信者を洗脳し、自分に逆らう者には罰と称し暴力を振るうようになったのだ。村民も始めは抵抗していたが、女子供を人質に取られ、異端だと言われれば従うしかなくなっていく。皆ブーラル教徒なのだ。司祭に従っていくうちに、気がつけば疫病が蔓延し、亡くなる者が続出していった。
もし、アガットが転移してこなければ、村はそのまま全滅していただろう。司祭に対しても、薬学、医学を学んだアガットだからこそ論破できたといえる。更にアガットの告発で実は女性信者に手を出していた事も発覚したのだ。村人が、信者たちが激怒しない訳がなかった。ボコボコにされた後、着の身着のままで治療もさせてもらえず、村から追い出されて行った。
信者たちは皆病気を恐れアガットに縋り付く勢いで治療を願い出たのだ。村の外れに隔離した簡易的な家を作り、アガットはさっさと治療していく。時間はかかるが治らない訳ではない。
「アガットさん。ブルブルの毒針手に入りましたよ。」
「康順さん!お帰りなさい。大変だったでしょう?」
アガット達を村に案内した男は名を康順という。長く一緒にいたのに、疫病のせいで自己紹介もしていなかったのだ。康順はあまり多くを語らない男だった。少しだけ話しを聞けた際に知った情報は、年は46。訳あって姓は廃したのだという。何かあるのだろう、アガットもむやみに聞かない。だが、言動と佇まいが一般の出では無いこと物語っていた。アガットが思うに元軍人か、元上流貴族か、はたまた両方か。そして魔法の使役ができるはずと。
元軍人と予測したのには、康順の類い稀なる武術にあった。利き腕なのだろう片腕が無く、剣も魔法属性がない普通の剣なのに、象のような大きさの魔獣の特徴を熟知しており、的確に仕留めてくるのだ。普通の人のはずがない・・・魔法に関してはただの勘である。長年魔法使いと一緒に生活してきたのだ。雰囲気でわかる!・・と思いたい・・・
ビケは相変わらず、アガットの手伝いをしているが、時たま康順の狩に付いて行きたいと話している。アガットを守るためにも魔法と剣術を磨きたいらしい。康順が仕留めてくる魔物を真剣な眼差して見ている。聡明なルルゥもビケの意志を理解しているみたいで、一緒になって観察している。
アガットも伝え知った情報だけでなく、康順の狩を見てみたかった。決して野次馬根性ではない。決して。
「狩に同行ですか?」
「はい。私とビケを一緒に連れていってもらえませんか?」
「お、お願いします!!!」
そう願い出れば、康順は困った顔をしてアガットとビケの顔を交互に見やる。女子供のいく場所じゃないこと、命の危険があること、だが思考深いアガットが切り出したことで康順はどう拒否するか考えあぐねているのだ。
「ビケは魔法が、私は弓を嗜んでおりますので、狩をしないと腕が鈍りそうなのが心配で・・・」
経験があることを滲ませれば康順は渋々頷いてくれた。アガットの圧力が怖かったからではない。喜んだビケとルルゥが康順に抱きついた。容姿のためあまり子供に好かれない康順は嬉しそうだ。
狩当日、なぜはルルゥが付いてきた・・・捕まえても、カゴに入れても、〈部屋〉に閉じ込めようとしても上手にすり抜け、今や堂々とアガットの肩に乗っている。康順と男達も心配そうにチラチラとこちらを見ている。苦笑するしかなかった。
今日狩るのはバイバドロス。2つの頭を持つ巨大な蟻のような魔獣。砂漠の魔獣らしく、砂の中に隠れて生活する。片方の頭は毒の霧を、もう片方の頭は麻痺のガスを吐く。強靭な顎は鋭くとらえた獲物を貫通するほど鋭い。だが、動きが鈍いためそこまで危険ではない。
その頭部についている触覚と体内の毒袋は治療に役立つはずで、アガットはそれが欲しかった。
村民が村の近くにアリ塚を見つけ、危険だということで早速狩に来たのだ。
1人の男がアリ塚に向かって催眠効果のある矢を放つ。十分に煙が充満するのを待つはずが、地響きと共にバイルドロスが現れた。正確にはバイルドロスではなかった。頭部が3つ、背中には虫の羽がついていたのだ。
トリブルドロス、進化型。毒、麻痺の他にもう一つのガスを放つがそれを知る者はいない。なぜなら捕獲できた前例が極端に少なく、逃げてもその巨体に見合う羽で獲物を執念深く追い詰めるため、生還率が低いためだ。
「皆んな逃げろ!!!」
「康順さん!!」
康順の反応は早かった。大声で男達に避難を促しながらトリブルドロスの方に突っ込んでいく。囮になる気だ。死ぬ気か!
「ビケ!にげn・・・」
「魔法で煙幕を出す!」
アガットが呼びかけるよりも先にビケがラクダからトリブルドロスの方に飛ぶ。空中で魔法を発動して煙幕を出す、が。
突然、煙幕が不穏に凹んだかと思うと、一気に爆発した。
耳がキーーーンと痛む。
ラクダから振り落とされながらも、吹き飛ばされるビケをキャッチする。脳震盪を起こしかけているのか焦点が合っていない。ルルゥはアガットの肩に着地して毛を逆立ている。
もう一つの頭部の口からは火花が散っていた。電流だ!
生存率が非常に低い理由に煙幕で逃げようとして爆破されていたのではないか?というか電流ってそれはずるくないか!?とかあぁもう、思考がまとまらない!!!とりあえず、康順さんをどうにか助けなければ!
ビケを砂漠に寝かせて、トリブルドロス方に向かっていく。頭部の1つを落とせば、と矢を構え、連射する。
上位魔法を彫ったそれはスピードを上げながら、次々と首に刺さり、爆発音と共に頭部の一つを切り落とした。トリブルドロスは痛みに悶え、アガット目掛けて巨体を浮かす。
「破ぁっ!!!」
腹に響く声と共に砂漠の砂がまるで沼のように沈む。飛躍に時間がかかっていた巨体は重みでズブズブと沈み、もがいている。
康順は飛んだかと思うと、剣を大きく振る。圧縮された空気がまるでカマイタチのようにトリブルドロスの羽を、足を切り落とす。トリブルドロスはのたうち回り、康順に強靭な顎を向ける。
援護しようと構えていた矢を射るより先にルルゥが飛び出した。
「ルルゥ!!戻りなさい!!!」
勢いよく駆け出したかと思うと、康順の肩を踏み台にしてトリブルドロスに飛びかかった。アガットの叫び声と同時にトリブルドロスの口に吸い込まれていく。
!!!!!
どうすればいいのか分からなかった。康順も同じなのだろう、固まり、アガットの方に顔を向けた。一瞬だけ目が合い、康順は胴体の部分にトドメを刺すべく、アガットはルルゥを飲み込んだとは別の頭を切り落とすべく突撃する。
2つの頭部を落とされ、胴体に大ダメージを受けたトリブルドロスはもが苦しんでいた。生き絶えるのも時間の問題だった。
突然、ゴウゥと火柱が上がったかと思うと、トリブルドロスの胴体を貫いた。後ろを振り返れば、ほふく前進する形で片腕をあげたビケが魔法を放ったのだろう。
「よくもルルゥを!」
キレているビケは尚も魔法を使おうとするが、ダメージが大きいのだろう体がぐらつき、倒れた。
最後に残ったトリブルドロスの頭部がぐらついたのだ。まだ攻撃を繰り出せるのかと康順とアガットは武器を構えたが、ゴキっと鈍い音と共に首に穴が空き、ルルゥが顔を出した。中から食い破ったのだ。なんとタフな狐なのだろう。
「ルルゥ!!」
ビケが名前を呼ぶと嬉しそうにひと鳴きして、トリブルドロスを食べ始めたのだ。
「うぇっ」
「嘘でしょう!?」
「いやはや、なんともたくましい狐ですな。」
「いやいや、そういう問題じゃないでしょう?魔物を食べてるんですよ?!」
「すごいですなぁ・・・・」
康順もそれしか言えないのだろう。魔物を食べる普通の動物などが聞いたこと無かった。普通は瘴気に当てられ、近くのさえ嫌がるはずなのだ。ましてや食べるなど・・・・うぇっ
お腹いっぱいになり満足したのだろう、トリブルドロスの頭を踏みつけながら降りてきたルルゥはアガットの近くでグラリと体制を崩し、倒れた。駆け寄り、状態を確認すると唾液に塗れた毛並みが発光し始めた。
隠そうとするが間に合わず、強烈な光の後、ルルゥはサナギになった。




