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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第3章】ウノート村
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3 治療と言う名の冒涜

池の清掃にはまずヘドロをすべて掻き出さないとダメだ。そのままでは汚く、触って最悪3人が感染する可能性がある。アガットは矢を射り、池の水をすべて凍らせた。男がカマイタチを起こし凍りを割っていく。ビケに浮遊魔法でヘドロごと氷を草原に移動させる。


池だった場所はばっくりと抉れ、底が見えている。ちょろちょろと水が溜まっていくのを確認して、〈部屋〉から海藻と貝殻の入った瓶を取り出す。ビケに貝殻をすり潰してもらってる間に、海藻を幾つか池の中に放り投げる。最後に貝殻の粉を水に撒けば、清掃完了である。


「それは?」

「ツィツィ貝です。浄化作用を含み、プランクトンと混ざると酸素を出します。海藻はニムル草といって水の中の雑菌を食べ、綺麗に保つ効果があるんです。薬草としても効果があり、膿んでいる怪我に貼り付けると雑菌を食べてくれます。ただ、回復しようとする体の組織も一緒に捕食してしまうのですぐに取らないといけませんが。」


男には村から樽と布を集めてもらっていた。顔見知りの方が頼みやすいだろうと踏んだのだ。

草原に火を起こし陶器の樽を燃やし消毒していく。燃えた灰を樽に集めてもらう。


「灰をですか?」

「はい、灰にも消毒作用があります。今回のように村全体がひどい状態だとアルコール消毒では追いつきません。なのでまず灰を村に撒いてください。」


アガットもビケも男にも灰を全身に振りかける。そして灰の撒布を男に任せ、アガットとビケは灰と水そして植物性石鹸を混ぜ、シーツを洗って草原に敷き干していく。


池の水位が戻ったのを確認して村人を、主に重病患者から順番に連れてくる。沸かした湯で体を洗い、テントのように組み立てた、殺菌消毒したシーツに寝かせていく。村の体が動く者にも手伝ったもらいながら塩と砂糖を混ぜた水を飲ませていく。体の中の塩分とブドウ糖値が急激に下がり脱水症状が酷いのだ。


「あんたバチが当たるぞ・・・」

「祭司様がこんなことお許しにならないわ。」

「私はこの村の者ではありませんし、あなた方が言う宗教にも属しません。そのよそ者からの施しすら受けるなとあなた方の神は仰っておられますか?」


ありがたいと治療をすんなり受ける者もいれば、教会からの罰を恐れた村民がアガットの治療を拒否する場合もあった。アガットがそう返すと悩んだ後に村民は治療を選んだ。皆生きたいのだ。


2、3日目になると容体が安定してきた村人たち同士での看病をさせ、軽度の症状だった患者たちを引き連れ灰色になった村に戻る。汚物を片付け、食品や、汚れがひどい衣服は燃やす。アガットはヘドロの様子を確認しに行く。灼熱の太陽光で乾燥したヘドロは昨日の悪臭が嘘のように消えていた。試しに何粒か小麦のタネを撒いて様子をみる。


何日か経過すると、村民の症状もだいぶ改善された。回復している者が多く、腹が空いているののだろう、炊き出しをして、軽い薬草粥を作り振る舞う。村人たちが村の清掃に行ったのを見計らいアガットは昨日植えた小麦の様子を確認しに行く。やはり想像通り、小麦は既に芽を出していた。


「これは?」

「ヘドロですよ。乾燥したヘドロは肥料になります。余計な汚染物質が入っていないからかいい肥料になっているみたいです。」


翌日、動ける者たちと一緒に土を耕し、ヘドロだった肥料と土を混ぜ合わせ、小麦と大豆、トウモロコシのタネ等を植えて行く。アガットが撒いたのだ、1週間後には食用できるだろう。


この時期になると村民の排他的な態度もだいぶ軟化してきた。赤の他人に付きっ切りで看病してくれているのだ。教会を恐れアガットに対し嫌味を言っても、治療を拒否しても看病を続けるアガットの信念に皆尊敬の念を持ちつつあった。


早くも病気が治った子供たちはアガットに懐き、手伝いをしているビケと競い合うように仕事を手伝ってくれるようになった。


村民が徐々に協力的になったくれたのはありがたかった。皆で協力して大きな穴を掘り進める。破棄できないものを灰と一緒に埋めようと思ったのだが、水が出てきたのだ。嬉しい誤算だった。そこを井戸として利用する。

そもそも村民の人数に対し、生活に欠かせない池の大きさが合っていないのが、今回のヘドロ池の誕生する切っ掛けなのだ。井戸を作ればそれだけ水の量も増え、池の汚れも軽減されるだろう。

20日ぐらい経つと、疫病が流行ったのが嘘のように村は清潔さが戻っていた。小麦なども豊作で、早速収穫し、料理を振る舞う。村人たちはまだやせ細ってはいるが、ミイラのような容姿ではなくなった。


やっと全ての村民が村に戻ることが出来た。アガットもビケも久々に屋根のある部屋で休めるのだ。体を清め、ベットでルルゥと戯れようとするが、長い間あまり相手をできなかったルルゥは拗ねていて、ベットの下から出てきてもらうのに時間がかかった。



やっと一息つけると思ったにも関わらず、翌日ごちゃごちゃうるさい者たちが出てきた。疫病が去ったと聞きつけたブーラル教の者たちだ。全員やせ細り、目だけがギラついている。村の今の状況に納得がいかないのだろう、司祭は粗探しをするようにしきりに目を彷徨わせている。


「池に何をした!!!」

「ヘドロと悪臭が酷かったので、綺麗にしました。」

「神を冒涜する行いだぞ!?人間が手出ししていいと思っているのか?!」

「では村人があのまま死に絶えても良かったと?」

「っ〜〜!神は我々をお救いくださる。きっと疫病ももうすぐ止んでいただろう!」

「あなたは祭司様ですよね?薬学、医学の知識もお持ちでらっしゃるんでしょうか?」


そう聞くと祭司は黙った。だがまだ何か言いたいのだろう口を開く前にアガットはまくし立てた。

「私は薬学と多少の医学を学んでおります。薬学者から言わせますと、あのまま放っておけば1ヶ月と経たずに村民は全滅しておりましたよ?」

「えぇい!黙れ黙れ!!!神を冒涜する者は如何なる者でも罰する!!捕まえろ!」


「祭司様、最近体は痒くありません?主に下半身が。」


信者が動き出す前にアガットは声を大きくして司祭に聞く。思い当たる節があるのだろう、司祭が固まり、信者を止め、アガットをまじまじと凝視める。


「激しい痒みで寝付けない時は?」

「・・・なぜ、お前がそれを?』

「菌が繁殖し、汚染が広がってる場所で性交渉をなさいますと、病気になったりするんですよ?もちろん聡明な祭司様はご存知でらっしゃいますよね?」

「ぅう、嘘を、っデタラメをぬかすな!!こいつを捕まえろ!」

「治療をしなければ今回の疫病の比じゃないほど大変なことになりますよ?」


祭司が吠えるが信者たちは動かない。皆アガットが発したことに身に覚えがあるのだ。真っ青になり、カタカタと震えている。司祭が尚もギャンギャンと吠えているが、顔色が悪く、恐怖で脂汗を流している。


「神の御意志であられるのです。もちろん人為的な治療などなさらずに治るまで祈りを捧げられるのでしょう?」


トドメにそう伝えれば、司祭は絶句した。様子を見ていた村民もアガットの意見に同調し、帰れと繰り返す。司祭たちはガクガクと震える体を引きずり帰って行く。


「ありがとうございます。いつもあの者たちには言い負かされておりました・・・」

「顔を上げてください。あの司祭では無知な者の粗を探し、取り入り、食いつぶします。薬学の知識が無ければ私も言い負かされていたでしょう。」

「それで・・・あの、確かにあの者たちは病気なのでしょうか?」

「体に赤い斑点が広がってたでしょう?細菌感染に間違いありません。軽度ならば痒みだけですみますが、長期にわたって放っておくと大変なことになります。」

「あの者たちを放って置かれるのですか?」

「私の予想が間違ってなければ、今夜にでもまた来ますよ。」


面白いものが見れますよ、とアガットがにっっこりとした笑顔で伝えると、男の顔色が悪くなり、それ以上は聞いてこなかった。


案の定、真夜中にアガットが滞在している家の扉を叩く音がした。扉を開けると頭巾を深く被った者が立っていた。


「どうされました?」

「・・・この村の者で、今日司祭様たちに仰られていた病気に心当たりがあるんです。どうか薬をいただけませんか?」

「治療にはまず診断をしないとできないのですが・・・確かに、同じ症状なのですね?」

「そうだと言ってるじゃありませんか!?早く薬を!!」


他の人に見られるのを恐れるように仕切りに薬をくれと捲したてので、アガットは何も言わず、薬瓶を差し出した。ふんだくるようにして瓶を受け取ると逃げるように去って行った。




翌日、ブーラル教の者はまた現れた。アガットの発言が嘘八百だと罵り、自分たちは完治したと公言する。


「完治ですか?どうやって?」

「ふん、魔女め!お前に喋ることなど何もない!」

「あら?また神の恩赦ですか?」

「そうだ!神は我々に救いをくださったのだ!」


またまたごちゃごちゃ言っているのを聞くのも面倒なのでさっさとアガットはネタをバラす。


「治りませんよ?」

「まだ戯言を!」

「だって私が渡したの薬ではありませんもの?」


にぃっこりと笑顔を向ける。・・・ざぁっと祭司の顔が土色に変わり、信者の1人を見た。その者のも同様に顔色が悪く、話が違うとでも言うようにアガットを凝視している。他の信者がまだごちゃごちゃ言っているがどうでもいい。


「私が上げたのは乾燥したウサギの糞です。昨日見つけたので何かに使えないかと思い集めてたんですけど、あれで病気治りました?」


誰1人口を開く者はいなかった。どういうことかと祭司の顔を見れば一目瞭然だったからだ。


村民から抑えた笑い声が、徐々にそれは爆笑に変わっていく。これが可笑しくない訳がなかった。散々自分たちの上に立ち、威張っていた者たちがウサギの糞を薬だと神の恩恵だと盲信して飲んだのだから。


混乱していた信者達は何が起きなのか理解したのだろう、祭司に罵詈雑言を繰り返しながら掴みかかった。


村民もアガットも劇のようにそれを楽しむ。収穫した小麦のお菓子を食べている者もいる。


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