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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第3章】ウノート村
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2 汚染された街

「***?******?」


先ほどから亜人が話しかけてくるが全く理解が出来ない。聞き取れる単語がひとつもないのだ。

どうしたものかと考え、アガットはあることに気がつく。自分は魔法が使えないが、ビケは違う。言語変換の呪文を砂地に書き、ビケに詠唱してもらう。


「私の言っていることわかりますか?」

「おぉ、分かります。お怪我はありませんでしたか?」

「はい。助けていただいてありがとうございました。初めて見る魔物だったため対応に困っていたので助かります。」

「あれはコンディルラモグラといいまして、鼻先にある触手で獲物を探知して襲います。移動スピードが早く、あっという間に丸呑みされ強酸の消化液で溶かしてしまうので、この砂漠では一番注意しないと。」

「本当にありがとうございます。」

「あ、ありがとうございます。」


アガットに続いてビケも礼を言う。まだ小さいビケからしたら2メートル以上ある骸骨のような男は恐怖の対象でしかないだろう。それでもキチンと礼を伝えているのだからいい子だ。


「見た所遠くから来られたみたいですね。」

「はい、転移魔法の誤作動に巻き込まれて〈荒廃した砂漠〉から飛ばされてきました。」

「〈荒廃した砂漠〉から・・・・」


骸骨のような男性が言うにはここは〈元龍の古都〉近くの砂漠〈黄泉の砂漠〉であり、〈荒廃した砂漠〉には半年以上かかってやっと着くとのこと。


あぁ、大変なことになった・・・・


再度頭を抱えるアガットにビケも状況が良くないのだと理解する。男はかける言葉が分からず、アガットと同様に難しい顔をしている。ラクダすらない状態で砂漠を渡るのは自殺行為だ。それに帰路の計画も立てないと最悪方向感覚を失い、野垂れ死ぬ可能性だってあるのだ。


「とりあえず宿を取りたいのですが、近くに町はありますか?」

「・・・村はあるが・・・・」

「なにか問題でも・・・?」

「・・・・実は近くの村では今疫病が流行っておりまして・・・・」

「・・・え?」

「幸い私は感染しておりませんが、村の治療をしようにも知識が不足して・・・・」


男はそう言うと黙ってしまった。


アガットは行くかどうか迷った。現在地から近い町などはラクダが必要な距離で到底2、3日で辿り着けないらしい。考えを巡れせたが、結局いい案は浮かばなかった。


賭けるしかないか・・・


「ねえ、ビケ?」

「いや!」

「まだ何も言ってないわ。」

「どうせあの部屋で待ってろって言うんでしょう?私いやだからね。何かあったらアガットを守れないじゃない!疫病に感染する確率は私の方が絶対低い!」


愚図るビケを説得しルルゥと共に〈部屋〉で待っててもらう。まだ子供だ、感染したら大人より危険な状態に陥りやすい。自分だったら最悪薬の調合が出来る。いろんな状況への経験もあると自負している。


「案内をお願いします。」

「・・・ですが・・・」

「大丈夫です。薬の調合など出来ますので。」


男はアガットが薬学を嗜むと知ると、膝をつき頭を下げ、村人の治療を願い出た。やせ細り、屈むのさえフラつくその体で村の救済を願う姿にアガットは胸が締め付けられた。


「行きましょう。」



村についたアガットは絶句した。


想像を絶するひどい有様だった。土壁で出来た家々からは腐った匂いと排泄物の匂いが充満している。村人たちは皆痩せこけ動くのも辛いのだろう。芋虫のように背中を丸め、ずりずりと足を引きずるようにして歩いている。動けるものはまだいい方だ。動けないものは地べたにうずくまり嘔吐を繰り返している。微動だにしない者は目も虚ろでまるでミイラのように皮膚が乾燥している。あちらこちらにハエとウジが湧いていた。


アガットはその光景を知っていた。いや、その疫病をよく知っていると言った方がいいだろう。かすんでよく思い出せなりつつある記憶の中からその記憶は鮮明に脳裏に躍り出てきた。子供が小さい頃に同じ症状になったことがあった。


食中毒。

細菌による感染症で、汚染された食べ物、飲み物から感染して嘔吐下痢を引き起こす。重い症状になると高熱や激しい腹痛を伴い、最悪死に至る。


「綺麗な水を汲みに行きたいんですが・・・」

「ここら辺で比較的綺麗な水は教会が独占してて使えない。唯一使える池も汚れてます。」


そう言いながら男が案内したのは、異臭を放つヘドロのような池だった。周囲に動物すらいない。男が言うには村人たちはこの池の水で生活をしており、飲食も洗濯も全てここで賄うのだと言う。

「この池をどうにかしないと・・・」

「いや、教会がそれをあまり推進させてないんだ。」


ブーラル教の教えでは自然物は神からの贈り物であり、どんなものであれ、感謝して使わねばならない。つまりこのヘドロの池も神からの思し召しなのである、と。

アガットは怒りのあまり笑い出しそうになった。つまり池を掃除するぐらいなら命を断てと言うっことらしい。


全く馬鹿げている。


「すべての原因はこの池です。さっさと綺麗にしましょう。」

「だが村人は・・・・」

「部外者の私たちが掃除するんです。構わないでしょう。」


男の質問を待たず、アガットは〈部屋〉を出現させる。扉を開けるとビケが待ち構えていた。


「私も手伝う。」

「ビケ、感染症は危ないわ。」

「お願いアガット、私にも手伝わせて。」


待っているだけは嫌なのだ。アガットが救い出してくれたこの体は、心は、能力はアガットのために使いたいのだ。

ビケの一歩も引かないその真剣な瞳にアガットは根負けした。確かに魔法が使えるビケがいてくれたら心強い。


「じゃあ、荷物を運ぶの手伝って。」

「っうん!まっかせて!!」

「私も手伝わせてくれ。」

「お願いします。」


3人は池の清掃を始める。



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