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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第2章】丘の街ヴィトエート
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11 それは偶然なんかじゃなくて

準備していた料理をビケと一緒に食べ終わると2人で店舗の方に向かった。羽化したビケの状況をカレナ婆に報告するためだった。

ビケのことが心配で昼食休みに戻ったロザールと店舗にいたレザルもビケの変わりように最初は誰だか分からなかったのだ。


「ビケ!?ビルケットなのか?!」


ロザールたちの驚きように押され、ビケはコクコクと頷く。


「ロザールさんに言いたいことがあるんでしょう?」

「ぅん・・・ロザールさん前の村から私のこと面倒見てくれて、お世話してくれてありがとう・・・」


おずおずとロザールの方に進み出て今まで言えなかった感謝を伝える。白髪になるぐらい自分のことで悩んでくれたのだ。幸福を受け止められるようになったビケが真っ先に感謝したい人だった。ロザールはビケを抱きしめると涙を流し始めた。あんな劣悪な環境で悲惨な怪我からこんなにも元気になっていくのを見てきたのだ。嬉しくないはずがなかった。レザルもビケの世話を手伝っていたのだ。抱擁している2人に僕も混ぜてと飛びついて行く。


「アガット、話があるからあんたの家に行くよ。」


そんな3人をよそに、カルナ婆は真剣な顔でアガットを連れて家に行く。


「宝具で部屋だしな。」

「え?そんな必要が?」

「いいからさっさとしな!」


カルナ婆に怒鳴られアガットは壁に部屋を出現させる。2人が入るとカルナ婆は扉を閉めた。

これで外から扉は消え、この空間は遮断される。椅子にカルナ婆が座り、アガットはベットに腰掛けた。


「ビケのあれは進化だよ。前にもおんなじことがあったんだろ?』

「うん。状況も一緒だった。急激な眠気、体の発光そしてサナギになる。7日間の間にサナギは卵の殻のように硬くなり、7日目に卵から孵る。」

「容姿が変化して?」

「私の母たちは止まっていた成長が促進されていただけ。ビケの容姿のような急激な変態は初めて。」

「魔力などは?」

「え?」

「急激な魔力の上昇はあったのかい?」


そう問われアガットはなんと答えていいか分からなかった。元々カーラたちの魔力は上級だった。だが羽化してからの3人は桁違いの存在になったのではないかと思わせるオーラを持っていた。

だが、ビケに関してはまだ分からないのだ。


「あったんだね・・・」


カルナ婆はふぅとため息をついて頭を抱えた。アガットは何故この質問をされているのか分からなかった。自分が4人の進化に立ち会っただけではないのか?カルナ婆にそう話すと思いっきり頭を殴られた。今度はアガットが痛みに頭を抱える番だった。


「馬鹿だね。そんなわけないだろう。あんたは関係してるよ。そもそもあんたが原因なんだよ。」「カルナ婆ちゃん、ちょっとよく分かんない。」

「ちっぽけなその脳みそだったら分からないだろうね。じゃなきゃ気づかない訳ないよ。」

「もう!!」

「黙ってお聞き。あんたは魔法が使えない。魔力が異常に高いにも関わらず、だ。私が考えるにあんたの魔力は魔法じゃなく、周囲の進化に作用してる。」


つまりカルナ婆の予測ではこうだ。


アガットの魔力は自分の傘下にいる者に作用する。アガットが認めた者はそれが切っ掛けで、アガットの魔力を受けることになる。アガットが作った食事を摂取する、仕事をこなす、魔獣を退治すること等で経験を積んでいく。ある一定の経験を積むと進化条件を満たし、進化が始まる。


「・・・でも、それだと母たちは傘下にいる者に当てはまらない。」

「あぁ、むしろ逆だね。だが、あんたの家族ではある。つまりあんたと最も近い位置にいることになるだろう。私の予想では、現段階ではあんたは自分の家族だと認めた者にその力を発揮する。」

「私の家族・・・・」

「そしてもう一つはあんたの経験もその者たちに上乗せされるんだろうね。あんたの母たちがあんたがブラッドボアを仕留めた後に進化したんだろう?」

「うん・・・確かにそうだった・・・」


そう言われるとアガットは納得するしかなかった。今回のビケの件がいい例だ。一緒に薬草を摘みに行くアガットを守ろうしていた。進化直前には狐と戯れていて規格外の炎を吹いたのだ。

カルナ婆の話に沿って考えていくとあの規格外の炎は経験を一定積んだから出せたのだと言える。


「あんたが栽培した薬草で作った薬は効果がすごくいいと評判だね。それはあんたのその力のお陰なんだろう。」


植物は長い年月をかけて成長しるため急激な変化はし難い、だがアガットの経験を共有することで薬草たる効果が上がるのだ。


アガットが黙っているとカルナ婆はずいっと顔を近づけた。


「いいかい、この話は誰にもするんじゃないよ。ビルケッタにも、だ。」

「え?」

「考えてもみな。あんたのその力が周囲にバレてしまったら、どうなると思う?」

「どうなるって・・・・」


ネーベルでの生活を思い出した。皆どことなくアガットに注目していた。それはツェーラたちの子供だっただけじゃない。魔法が使えないくせに、薬草の栽培も作った薬も他の人に比べて効果が大きかったからだ。何をしても他の人と違う結果になるんじゃないかと期待していた者もいる程だった。


「あんたの力を悪用すれば最悪の場合、最強の軍隊だって作れるよ。周囲にその力が伝われば、すぐに広まる。みんな珍しいものが大好きだからね。そしていつのまにか噂が危ないやつらに伝わり、あんたは捕まって悪用される。」


アガットをうまく利用すれば世界を統一することも滅ぼすこともできる最強の軍団ができる。

ただアガットに認めさせればいいだけの話だからだ。暴力、魔力、幻術、薬漬け、方法はいくらでもあるのだ。アガットはその光景を想像してゾッとする。


だからカルラ婆はこの異空間の閉じた部屋で話をしたのだ。他の誰にも聞こえないように、と配慮して。


アガットはまじまじとエンカルナを見つめた。皆がイメージするようなわし鼻で白髪混じりの悪役が似合う婆が出会ってまだ1年足らずの自分のことを考えてくれ、優しくしてくれることが心底嬉しかった。


「カルナおばあちゃん・・・」

「なんだい?今更怖くなって怖気付いたのかい?」


やれやれこの馬鹿娘は、と呟くその体に抱きついた。


「なっ!」

「ありがとう・・・」


感謝を示すとアガットを剥がそうとしていた腕の力は弱まり、右往左往した後に頭を撫でられた。しばらく頭を撫でるその手の暖かさを感じながらアガットはぼそりと聞く。


「ねぇ、私やっぱりビケには伝えたいかも・・・後私の母たちにも・・・」

「そうさね。他人の私が知ってるぐらいだから、母たちには伝えておきなさい。でもビケにはもう少し待ってやんな。」


アガットは悩んだ後、ビケと自分が前世持ちであること、ビケが進化により心の傷を抉られたことを簡単に話した。ビケの前世は軽くボカして。


アガットの話を真剣に聞いたカルナ婆は眉間にしわを深く刻み、動かなくなった。


「アガット、私は言わない方がいいと思うね。ビルケッタはやっと落ち着き始め、周囲と打ち解けようとしている。不安定な今、あんたの話をすればまた自分の殻に閉じこもりかねない。」


子供なのだ、秘密を1つ抱えるということはそれがなんであれ、負担になるのだとカルナ婆は考える。子供は身軽でいいのだ。のびのびと成長させるべきなのだ。


「ある程度落ち着いたら話してやんな。あんただったら時期を見誤ることはしないだろう。」



店に戻るとロザール仕事に戻っており、レザルが乾燥させた薬草を束にして、ビケがそれを瓶に詰めていく作業をしていた。


「2人ともどこ行っていたの?」

「ビケと探しに行ったんだけど居なかったから心配した。」

「ちょっと野暮用でね。さっさと仕事に戻りなクソガキども。」


レザルはひどい、ひどいと頬を膨らませ、カルナ婆に抱きついた。ビケはそれをクスクス笑っている。それにつられるようにアガットも笑った。



とりあえず、一区切りです。



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