10 そっと寄り添い抱きしめる
今回はちょっとふわふわとした話になります。
ダーラに拾われた頃から1年の間アガット、幸恵は、前世に残した家族の夢を見るようになった。
家族は事件がどうして起きたのか理解できず、無念でしょうがなかった子供たちは泣きくれ、孫たちも大好きなお婆ちゃんがいないことに連日泣いてぐずった。ただ事件当日、幸恵と一緒に買い物に出かけた年下の2人の孫たちだけは笑顔を見せ続けた。周囲は始め、幼いためだからと考えていたが、そのうち孫たち全員が何故かぐずるのをやめ、自分たちの両親に優しく慰める仕草をし始める。
子供たちは急に恐ろしくなり、もしかしたら、事件が孫たちにとって何か悪い方に影響しているのではないかと不安になって急いで病院についれて行った。孫たちは最初みんなで話し合ったかのように口を割らなかった。が、通っていくうちに医師と仲良くなっていくと、内緒だよとこそこそと内緒話を教えてくれた。
お婆ちゃんが時々ぼくたちのこと心配して遊びに来るんだよ、と。
幸恵は生活が荒れていく子供たちが心配だった。泣きじゃくる孫たちが心配だった。夢の中で毎日寄り添っていたある日、1番幼い孫の日向が話しかけて来た。
「お婆ちゃん今日は抱っこしてくれないの?」
この一言で日向は自分のことが見えるだけでなく、意思の疎通もできる事を知った。
他の人に自分は見えないから話すの手伝って欲しいとお願いすると、お婆ちゃんに頼られるのが嬉しかったのだろう胸を張って任せて!と即答した。
それからは早かった。孫一人一人の心のケアをしていく。年長組は最初、日向の言うことを信じなかったが幸恵との2人の秘密を話すとびっくりした後号泣しながら信じてくれた。
孫たちの精神が安定してきてホッとしていた矢先に、幸恵の子供たちにそのことを不審に思われ、病院に通ううちにこのことが発覚した。
幸恵の子供たちはこの事をにわかには信じられず、連日日向にあれこれ質問した。どれも日向ないしは兄弟同士でも知らない秘密をだ。
質問にすらすらと答える日向に子供たちは唖然とするしかなかった。
「おばあちゃんがあんたたちいい加減にしないと、お尻ぺんぺんだよって。」
連日の質問ぜめに日向が不憫に思えた幸恵は怒っていたのだ。
子供たちは日向のその言葉に信じるしかなくなった。孫たちにはもうしないが、昔子供たちが悪さをすると幸恵は人前だろうと問答無用でズボンを脱がしお尻を叩いた。それは子供達が中学に入っても同じだったため、大変な屈辱だった。高校生にもなり流石に人までされるのは耐えられなかったため、子供たちは揃って幸恵に頼み込んだ。子供たちにとってそれは恥ずかしく、隠し通したい黒歴史であったため、誰1人孫たちには伝えていないのだ。
もう信じるしかなかった。
幽霊でもいい、
幸恵の存在が子供たちの荒れた生活を変えた。徐々に笑顔を取り戻して行ったのだ。元気になり、家族同士も以前のように仲睦まじくなった。笑顔の絶えない家族の姿を確認して、幸恵はふと思い出したかのようにあるお願いをした。
加害者の女性の事を知りたいと。
子供たちは猛反対したが時間をかけて説き伏せた。目の前が暗くなる前に見た女性の取り乱しようとぶつかって来た男性の怒鳴り声が忘れられなかった。
そして女性のことを知ると幸恵はやるせない気持ちになった。彼女もある意味被害者なのだ。
父親に見つからなかったら、いい父親だったらあんな事件は起きなかっただろう、と。
また逃げることだって出来たのに、それすら考えられないほど追い詰められていたのだと。
そして事件が起きた現場に戻ると手を合わせたのだ。どうかあの女性が幸せになりますように、と。
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「すべて夢の中の話だと思ってたの。自分のこうなったらいいなっていう願いが夢に出てきたのかと。でもビルケッタあなたの話を聞いて確信した。わたしは確かに夢の中で、子供たちと孫たちに会っていたと。慰めることも、笑顔に戻すことも出来たのだと。それがどれほど嬉しいことか知らないでしょう?ありがとう私のビケ。」
「・・・・っ〜〜〜〜ぅゔ〜〜〜〜」
胸に抱いた幸子の魂を記憶を有するビケはもう暴れていなかった。アガットにしがみつき、泣きじゃくってる。えづき、声も出せないため違う違うと首を横に振って意思を伝える。
お礼を言われるのは自分の方だと。
あんなことを仕出かした自分を許そうとしてくれるなんて・・・
自分のために手を合わせ、幸せを願ってくれるなんて・・・・
「〜〜っお、おひどっよじ、だょ・・・・」
お人好しすぎる。
「あら?そうかしら?」
「私悪いことばかりじゃないと思うわ。幸恵だった頃の家族は笑顔を取り戻せたし、こっちの世界に来てからは家族が増えたもの。それに幸せになって欲しいと願ったあの女性、つまりあなたね。ビケをこの手で幸せに出来るのだからまぁるくおさまってるじゃない?』
にっこりと諭して背中をさすってあげる。顔を見ると、絶望していた目には光が戻り、顔の血の気が戻ってきていた。
「わ、私幸せになっても、い、いいの?」
「もちろんよ。一緒に幸せになりましょう?私の家族になるのは嫌?」
「いやじゃない!!!」
そう叫ぶとアガットに抱きつき、首に腕を巻きつけた。
2人の心の距離が無くなり、家族になった瞬間だった。
どれだけ抱擁を続けていただろうか、寒くなったのかビケがぶるりと身震いをした。
「っくしゅん!」
「ずっと裸だったね。寒かったでしょう、ごめんね。」
直ぐに服の準備をするが、栄養失調気味の小さな体から少し大きくなったため、どれも着れない。しょうがないのでゆったりとしたパジャマを着せる。
「お腹すいたでしょう?」
「・・・・お、ぉかあさん、ぉなかす、すいた、です。」
「!!〜〜〜もう可愛い!はい!お母さんです!ご飯の準備できてるのよ?温めて食べちゃいましょう!」
勇気を出したのだろう、緊張し、か細く引きつった声で母と呼ばれアガットは舞い上がるように喜んだ。ビケを抱き上げキッチンへと急ぐ。
家族になったのだ。
まずは一緒にあったかいご飯を食べよう。
やっと・・・
やっと書きたいところまできました・・・これで2人の前世の話はひと段落です。
評価いつもありがとうございます。これを糧に頑張ります!




