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おばあちゃんの異世界漫遊記  作者: まめのこ
【第2章】丘の街ヴィトエート
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9 ビケの過去の過去

シリアスです。

ちょっと胸糞悪くなるかもしれません。

野高幸子は名前のような幸せな子では無かった。


7歳の頃に両親が離婚すると共に父親との生活が始まった。父は一言で言えばクズだった。仕事は出来ないくせに言い訳がうまく、自分が正しいと思い込んでいる人種だった。仕事が見つからないのは周りが自分の才能を理解していないからで、すぐクビになるのは自分に嫉妬しているからだと。ただ、山のように高いプライドはその事実を許せなかったのだろう。酒に走り、幸子に八つ当たりをするようになっていく。


小学校ではクラスメートにも虐められた。一度、服の中にヤモリを入れられ、それから爬虫類がダメになった。栄養が足りてない状態のため年齢よりも幼く、服もボロボロのため、よくホームレスなんじゃないかとからかわれた。


中学に上がっても容姿は幼いままで、制服代も払えない状況を見兼ねた担任がお古をあげたほどだった。担任は幸子の状況に疑いの目を持ち家庭訪問をするが、父の人種を知ってからは、あからさまに干渉してこなくなった。ときたま話しかけられ、質問されることはあっても、だ。


幸いなことに中学では虐められなかった。長く伸びた髪とガリガリの体、物言わない幸子に周りはキミ悪がって近づいてこなかったのだ。幸子にとって学校が唯一の憩いの場といえるようになっていった。


そんな生活も中学3年に上がろうとする時期に一変する。父が幸子に急に優しくなったのだ。スーパーの惣菜を買い、食事をするように促す。バイトはしなくていいと甘やかし、苦労をかけたと慰めてくれた。遂に父が変わったのだと泣いて喜んだ。


つかの間の幸せだった。


ある日突然見知らぬ男達が家に上がり込んだかと思うと幸子を見定めし始めた。恐ろしくなり父に助けを求めるが、父はまるで商品の宣伝をするかのように取り入り、男達と金の話をし始めた。そこで幸子は何が起こっているのか理解した。


売られようとしているのだ。


自分の借金が返せなくなったため、男達に取り入り、いろいろヤバい仕事を手伝ったが、娘が金になると言われ差し出したのだ。幸子に優しくしていたのはガリガリだと客が付かず、傷だらけの手では飲み物を提供出来ないためだったのだ。

だが事実を知っても逃げられなかった。逃げる道などなかった。幸い未成年だったのと容姿がガリガリで商品にならなかったため、危ない仕事をしなくてよかった。それでも法律すれすれの仕事だったと今になって思う。


幸子は自分が幼いからまだ救いがあるが、中学を卒業する頃になればそうはいかなくなると理解していたため、給料を少しずつ騙して父に渡した。バレるかもしれなかったが背に腹はかえらなかった。


そしてある日バイトの店長に父の名前を出し多めに給料をもらい、幸子は逃げた。


知らない土地で名前も年齢も変えて3年間それなりに幸せに過ごした。バイト先の人は優しく、彼氏もできた。

これからいい人生にしていけばいいのだと思っていた。


突然バイト先に父が現れるまでは。


恐怖で竦んで震えた幸子の様子がおかしいことに気付き、店長が追い返すが、父親は何故かニヤニヤと笑ってすぐ退散して行った。


不気味な笑みが頭から離れなかったが、仕事を投げ出すわけにもいかず、なんとか集中しようと努力した。


家に帰ると空き巣に入られており、貯金が全てなくなっていた。


誰が盗んだのか言わずともすぐ分かった。


あの男だ。


数日つけられ家を知られていたのだ。だ

からあんなにもすぐ退散したのかとあの時のニヤニヤ笑が脳裏を過ぎった。


すぐさま警察を呼んだが、心当たりがないかと聞かれ父かも、と答えてしまうとあからさまに関わりたくないと態度に表れ、早々に退散して行った。


誰も助けてはくれないのだ。


幸子は絶望していた。どうあがいてもあの男から逃げられないのだ。


灯りもつけないくらい部屋で脱力してどのくらいたっただろう、知らない番号から電話がかかってきて、すぐに誰か悟った。


うるさい周りの音にどこにいるのかすぐに分かった。上機嫌で話す父に次会うことをとりつけすぐに電話を切った。それ以上声を聞きたくもなかった。


フラフラと幸子は台所に足が向いた。

気がつけば、キラリと光るものを手に取っていた。


これしか方法がないのだと考えられないほど追い詰められていた。


ーーーーー


「だからヤモリの姿になった時は罰が当たったのだと思ったの。だから周りに冷たくされても大丈夫だった。でも、でも・・・」


ロザールに手を差し伸べられ、アガットに出会ってしまった。


優しく看病され、本当の親のように自分を大切にしてくれるその存在に、自分にビルケッタと名前までくれて。ビケとなった幸子は勘違いしそうになる。この世界は自分にとっての罰のはずなのに、幸せだと思う瞬間が多くなっていく。


大切な思い出が増えていく。


大切な人が増えていく。


ビケは忘れなように毎朝自分の姿を鏡で確認していた。勘違いするなと自分を戒めるために、鏡にヤモリの姿が映るとある意味ホッとしていた。



だが変わってしまった。


強い眠気から覚めると自分の姿は人間のようになっていた。


自分の手はまたあの事件の時のような手になってしまった。


キラリと光る刃物を握りしめた時の手に・・・・



「・・・そうだったのね。」

「だ、だから、私はっ!」



「街中であなたが刺したのはおばあちゃんだったでしょう?」



「えっ・・・・」



ビケには何が起きているのか分からなかった。アガットの口からは予想していた罵詈雑言が発せられず、代わりに話したことのない事件の内容が伝えられた。


「ビケ、ビルケッタ。あなただけじゃないのよ?」


この世界に来たのは。

記憶があるのは。


それがどういう意味か理解した幸子は、ビルケッタは、アガットの腕から逃れようともがき暴れる力を強めた。


が、アガットは抱きしめる腕の力を強め、許さない。


「ビルケッタ。知りたくない?あの事件の後、何が起こったのか。あの世界がどう世界が変わったのか。」


その言葉の意味がビルケッタには分からなかった。聞きたくないと泣きわめき、耳を塞ぎたかった。だが、ビルケッタの中の幸子だった部分がそれを阻む。


知りたかった。


自分がしでかした事の結末を・・・


償うはずの責任を放棄してしまったあの後のことを・・・



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