お使いという名の地理把握
三件目の薬屋に向かう途中、春からはパーティー組んで頑張ろうな! って夢を語った友達に遭遇した。
イオとトーマスは同じ春の生まれなマークとライジェルとパーティーを組んでいるらしい。
マークとライジェルは俺達の地区とは少し離れた地区に住んでるんだとさ。
で、俺が魔法使いの修行をするからとパーティー組むのを断念してからのことを聞いている。
「と、まあこんなもんだ。ラビットはウマかったぜ」
何でもライジェルは肉屋の三男で魔物の解体だってお手の物らしく、三人はライジェルに魔物の解体をしているそうだ。
「魔物の解体を教えてんのか。ライジェルはスゲェな」
ライジェルは照れ臭そうに笑った。
「魔物の解体ができるようになればギルドでの解体料金を払わなくても良いからな。教える手間さえかけりゃ、懐に入る金は増えるし、解体できる人数が多けりゃ多いほど狩りに使える時間は長くなるんだ。皆のためであり、俺の為なんだよ」
イオがニヤリと笑って、ライジェルの脇を人差し指で突いた。
「うぐっ」
「コイツ、教えてやってるんだから手間賃払えって、依頼完了したら銅貨一枚ずつ持ってくんだぜ。いい商売してるよな」
「イオだって薬草採取の時は持っていくだろ」
そういやイオの父親は元冒険者で、小さい頃からくっついて薬草の採り方を習ってたな。
「ふーん。ま、お前らがうまくやっていて元気ならそんでいいよ」
「キースはどうだ? 魔法使いの修行」
この一月の事を思い返す。
「初めの一月は文字の読み書きと空間把握の練習で終わり、今日のお仕事は薬草を町に数件ある薬屋に配達することだ。
薬屋に行くまでにいくつかお手紙を渡すことも言い渡された。
このお使いは地理を把握するための練習なんだってさ。途中に人通りの多い露店市場もあるから人の気配をつかめるようになれれば尚よしだってさ。
半月前には辞書を貰って、今はそれが愛読書なんだ! 愛読書ってスゲェだろ? 何かカッケェ!」
「愛読書が辞書ってのは確かにスゲェよ」
「オレとしちゃ、オマエが言ってること分からないことにドン引きだわ」
「魔法使いの修行って、スゲェんだな」
「しかも、そのクイールさんって、領主様のとこのクイール様だろ? 汎用魔法使いの。いい人に就いてんだな」
これまで聞いてるだけだったマークが感心するように口を開いた。
「えっ!? クイールさんって、領主様の息子だったの!?」
「妾の子らしいがな。貴族の子は五歳で適性検査するから本家に引き取られたそうだぜ。母ちゃんが言ってた」
そうなんだ。そういやクイールさんって、いつも綺麗な服を着てたもんな。あれ、でも。
「貴族なのにギルドに?」
「汎用魔法使いって、レベルアップするのに全部の魔法を覚えなきゃいけないらしくって大成しないんだ。だから、引き取った本家がこの町に左遷したらしい」
「何つぅ複雑な家庭なんだ……。俺、聞かなかったことにすんわ」
他の三人も口々に「俺も」「オレも」と呟いた。
そこからは店や露店を冷やかしながら、五人で薬屋を廻った。
ギルドに戻るとクイールさんが扉から出て来て驚いた。
「お疲れ様ですキース君。これは今日のお給料です。私は急用ができたので、今日はこれで帰ってもいいですよ」
「あ、はい。お疲れ様でした。帰ります」
クイールさんは頷き、歩き出そうとして止まる。
「キース君。もうひと仕事よろしいですか?」
「え、ええ」
「東門の門衛に、ギルドのクイールが町を出ていったことを伝えて下さい。私はここから飛びます」
「分かりました。けど……飛ぶとは?」
「飛ぶというのは……空間魔法で目的地に瞬間移動することを差します。貴方の魔法ですよ。見ておきなさい」
俺達は魔法が見えると少しはしゃぎ、クイールさんがブツブツと呪文を唱えるところを見ていた。
足元が光だし、クイールさんはサッと地面に右膝と両手を着いた。
俺と少し目が合いーー次の瞬間にはいなくなってた。
『おおおおおっ!』
その場にいた誰もが、町を歩いていた通りすがりの人まで歓声を上げる。
「スゲェ! オマエ、こんな魔法が使えるようになんの!?」
「おうともさ! 一丁前になったらこんなことができるんだぜ!」
「うわぁ、うわぁ、良いなぁ! ねぇ、今はどんな魔法が使えるの? 見せてよ!」
「ハッハッハッ! 聞いて驚け! 修行中だから一っつも魔法なんか使えねぇんだぜ!」
「何だよダセェ!」
「うるせぇっ! これからなんだよ、これから!」
俺達はワイワイと騒ぎながら東門に向かった。