冒険者ギルドに登録するぜ!
俺、冒険者になって、えいゆうになる!
そんな夢を追い続けて10年。来る日も来る日も練習し、農作業し、家事をしてきた。
15になった今日から、冒険者ギルドに登録することができるのだ。
冒険者ギルドには同じくらいのヤツらが列になってる。今日は春の誕生日で、冬ごもりしなきゃならなかった冬生まれも一緒に登録することが通例だ。
愛用のカシノキで作ったり杖は、他のヤツらが持ってるような棒きれとは違って、ツヤツヤしている。
今日のためにみがいてきたからな!
さて、俺の番だ!
冒険者ギルドでは戦う力の水準を計る器具があって、各自が水準に合わせた戦う技術をみがいていく。
ワクワクしながら器具を見ている。
数は少ないが、生まれつき特別な能力を持っている奴もいる。俺にもあるといいな。
剣を一度振れば手強い魔物もバラバラになるとか! カッコよくね?
「え……」
受付の男が器具から出てきた診断書を見て呆然となる。
よっしゃああ! これ、特別な能力だろ!?
「貴方は二階に行って下さい」
診断書を受け取り、階段に向かう。
診断書には名前と年齢、性別が書いてある。俺にはその下にある文字は読み取れなかった。
冒険者って、強けりゃ成り上がれると思ってたんだが、勉強しなきゃ成り上がれないのかも?
だけど、読み書きの勉強するような金がねぇんだよな。
二階に来たが、どこに行けばいいんだ?
あ、看板がある。あそこか?
ドアを開くと、じゅうたんのしかれた部屋に立派な机が置いてあって、中年の身なりがいい男が座ってた。
「二階に行って下さいって言われたから来ました」
男はポカンと口を開けてこちらを見ている。
「違う違う。こっちだよ! 失礼しました支部長!」
後ろから来たヤツが俺の腕を引っ張っていく。
「何であそこに入ったんだ!」
「え……看板があったから」
あ。敬語忘れた。
「です」
「看板にちゃんと支部長室って……ああ、読めないのか」
これだから文盲はって。聞こえてるぞコノヤロウ。
階段の近くにある部屋に入ると、男に席をすすめられた。
「さて。診断書に書いてある通り、君には特殊能力が備わっていた」
「とくしゅ能力ってのは特別な能力のことか? ですか?」
「ええと、ああ、うん、そう。合ってるよ。うんっと、診断書も読めなかった感じかな? どこまで読めた?」
「名前と年齢と、男ってのは読めるぜ! です」
「ああ、はい。んーっと。診断書の読み方から教えようか」
男はツラツラと説明していく。分かんないから何度も聞き直した。
俺の筋力は同年代に比べて強いらしい。ま、当然だな。あれだけ頑張ったんだ。
瞬発力ってのは並みらしい。瞬発力ってのはどれだけ早く動けるかってことなんだと。
器用さはピカイチらしい。っていうか、器具で器用さが計れるのがすげぇよな。何で計れんの?
で、俺には魔力ってのがあるらしい。しかも強めだそうな。
診断書の文字を指差して説明した男は疲れたように大きくため息を吐いた。
「さて、君には特殊能力である空間魔法が備わっている。この魔法は……あー、何て言ったら伝わるだろ……」
しばらく天井を見上げてた。
「魔法の力で、ここにはない空間を作り出すことができるんだ」
「クウカンってなんだ?」
机に突っ伏す。
なんつうか、文盲ですんませんって感じだ。さっきのボヤきにカチンとなったが、こうなると申し訳なくなってくる。
「空間っていうのは、場所とか、そんな感じ」
「場所を作り出すって言われても分かんないです」
「ここに布袋があります。君の魔法は誰にも触れない場所に布袋を作り出す能力です」
「おおっ! スリに合わねぇのか! スゲェな!」
「しかも、その布袋はどれだけ入れてもパンパンにはなりません」
「どれだけ入れても?」
「そう、どれだけ入れても。鍛えたら机だって入るし、小麦袋だって倉庫一つくらい入るかも」
「何それスゲェ!」
「ただし、魔法の上達には勉強は不可欠です。君の場合は頑張って読み書き計算を覚えて、難しい魔法の本を読めるようにしなきゃ上達しません。そして、魔法の上達がないと、レベルも上がりません」
「終わりだ……」
そんな金、ねぇよぉ。
「冒険者ギルドで働くなら、読み書き計算まではギルドで教えますよ」
「え、おいくらですか?」
「相場だと一月銀貨一枚かな。給料から引いていく感じになるから、払うのは君が全く使い物にならない時だね。それでどう? ギルドに就職する?」
「します!」
「よし、分かった。契約書を持って来るからここで待っていて。その辺の物に触っちゃだめだよ」
そう言って、男は出ていった。
読み書きを教えてくれて、給料まで出るなんて最高だろ!