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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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暴れる力

 男が柱の影から標的として狙いを定めようとしているのは、当然ながらブライスだ。

 ゆっくりと動いていた銃口がぴたりと止まった。

 引き金に男の指がかかる。


 やばい――


 エイジの中で何かが弾けた。


 エイジは猛然と男に向かって駆け出していた。

 エイジの体は驚くべきスピードで空間を移動し、一瞬でその男の真横に辿り着いた。

 まるでテレポーテーションだ。


「なっ……!」


 虚を突かれた男は目を見開いた。


「やめろおおおおお!!」


 エイジは叫び声とともに右拳にあらん限りの力を込め、男の顔面を殴り付けた。

 あまりに一瞬の出来事に対応出来ず、男はなす術もなく思い切りその一撃をくらった。


 ゴッという鈍い音が響き、男の体は後ろへ吹き飛んだ。

 その距離は少なく見積もっても7~8メートルはある。

 人間離れした、と言っても過言ではないほどにとてつもない力だ。


 エイジは吹き飛んだ男を逃さず、すかさずにじり寄りその上に馬乗りになった。


「くそが! 死ね!」


 荒々しい声を上げながら、エイジは男の顔を殴った。

 二発、三発、四発。

 男は完全に意識を失い、顔は元の形を留めていなかった。


 五発目をくらわそうとエイジは右腕を振り上げた。

 しかし、その右腕は背後から誰かにつかまれた。

 エイジが後ろを振り向くと、そこにはブライスが立っていた。


「ここまでとはな……」


 ブライスがぽつりと言葉を漏らした。


「アレフ!」


 ブライスは後ろを振り返り呼びかけた。


「はいよ」


 アレフが答える。

 彼はいつの間にかブライスが先ほどまでいた広場の中心部にいて、男2人を見張っていた。


「すぐにこいつら全員を連れてアジトへ戻るぞ。ただ、こいつはとてもすぐに落ち着ける状態にはないみたいだから、一旦眠っててもらう」

「やれやれ、運搬する人数が増えますねえ。ま、しゃーないか」

「既に連絡はしてあるから、もう一台の車もすぐに到着するはずだ」

「了解です、ボス」


 ブライスはエイジの方に再度向き直った。

 エイジは未だ興奮状態にあり、ブライスの顔をキッと睨み付けている。


「そういう訳だから、君にはしばらく休んでてもらうぞ」


 そう言うなりブライスは素早く右手を振り上げ、エイジの首元に手刀を浴びせた。


 避ける間もなく手刀をくらったエイジの視界は一瞬で暗転した。

 意識を失ったエイジはその場に崩れ落ちた。


 ブライスは崩れ落ちたエイジを険しい顔つきで見下ろしていた。



◆◇◆◇



「はっ!」


 エイジは声を上げながら目を開き、眠りから覚めて意識を取り戻した。

 真っ白な天井が目に入る。


 悪い夢でも見ていたのだろうか、汗だくでハアハアと荒い息をしていた。

 だが急に光を取り戻した世界は少し眩し過ぎ、エイジは思わず目を細めた。


 光に慣れ、冷静に周りを見渡してみると、見たこともない部屋のベッドの上に寝かされていた。

 エイジは身を起こし、しっかりと部屋を見渡してみたがやはり全く見覚えのない景色だ。


 いったい何が――

 ここはどこなんだ――


 すると突然、前方の部屋の扉が開いた。


「起きたか、少年」


 そう言いながらアレフが部屋の中へ入って来た。


「随分長い間寝てたなあ。お疲れかい?」


 アレフはベッドの脇の椅子に腰を降ろした。

 ベッドの上のエイジとちょうど同じくらいの目線になった。


「これだけ一気に色んなことが起きれば、そりゃあ……」

「それは違いねえ。びっくりしちゃうよなあ、いきなりこんな状況に巻き込まれちゃ。ハッハッハッ!」


 人の気も知らないでアレフは呑気に笑い声を上げる。


「……とりあえずここはいったいどこなんだ?」

「ここか? ここは普通の人間は決して立ち入ることは出来ない秘密の場所。俺たちブライス一派のアジトだ」

「アジト……? ブライス一派……?」

「お前には順を追って色々と説明しなくちゃならねえな。エージェントって言葉は少しは聞いてるか?」

「ああ、ブライスから軽く話は聞いてるよ。極秘任務を遂行する専門集団だかなんだか」

「ふむ、まあ簡単に言うとそんなもんだな。そうだ、俺たちはその専門集団・エージェントだ。そして、エージェントには派閥がある」

「派閥……?」

「その派閥ごとに生活や活動を一緒にしていることが一般的だ。まあなんだ、簡単に言やあ家族みてえなもんだな」


 アレフはニコリと笑顔を見せた。


「良いだろ、家族。で、俺たちはブライスが作った家族の一員ってわけだ。専門的な用語で言えば、この集団をスクエアと呼ぶんだがな」

「じゃあここが、そのスクエアのアジトってわけか」

「こっちの世界での、って意味ではそうなるな。俺たちが日常的に使ってる正規のアジトはまた別の世界、アトランティスにちゃんとある」

「アトランティス……本当にそんな世界があるのか……?」

「ああ、もちろんだ。俺たちはその世界からはるばるこっちにやって来てるってわけさ。基本はアトランティスでの仕事が中心だがね」


 アレフはおもむろに立ち上がり、部屋の中をぶらぶらと歩きながら話を続けた。


「さっきも言ったとおり、俺達エージェントは特殊任務を遂行する専門集団だ。依頼主から任務を受け、それを無事遂行することで報酬をもらって暮らしてる。その依頼主はアトランティスの住人の場合もあれば、この世界の住人の場合もある」

「この世界でも活動してるのか……?」

「ああ。現にさっきその一部始終を見たじゃねえか。当然ながら俺たちの活動はこの世界の人間に気付かれちゃあならないから、俺みたいな能力者が必要になるんだ。どうだ、結構キーパーソンだろ、俺って」


 アレフはいたずらな笑みをエイジに向けた。


「そして、お前を散々追い回し、あろうことかアイちゃんを拉致するという暴挙にまで及んだあいつらもエージェントの一味だ」

「そうらしいな」

「くれぐれもエージェントを悪く思わないでくれよ。あいつらはかなり特殊な例で、目的の為には手段を選らばねえ、いわば過激派だ。エージェントの風上にも置けねえ」


 アレフは先ほどの笑顔から一転、苦々しい表情を浮かべていた。


「奴らが今回の武力行使に出た目的……それはそう、お前を掻っ攫うことさ」


 改めて突きつけられる事実。


「俺達はそれを防ぐためにお前をずっと見守ってきたってわけだ」


 ブライスからも既にその話は聞いていたため、今更特段驚くようなことはなかった。

 物心付いた頃から、常に誰かに監視されているような気配を感じながら生きてきたのだから、むしろ腑に落ちる気さえしていた。


 ただ――


「なんで……なんで俺なんだよ? 何で俺が狙われなきゃならない?」


 エイジはベッドの上のシーツを無意識にぎゅっと握っていた。


「なあ、教えてくれよ」


 アレフはしばし無言で歩を進め、やがて部屋の扉の前で立ち止まりドアノブに手を掛けた。


「わりい、ここから先はちょっと俺の口からは言えねえんだわ。病み上がりで申し訳ねえが、ちょっと俺に付いてきてくれ」

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