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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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近付くその時

 4人は住民達の潜んでいた建物を後にした。

 暗くなり始めている道を素早く駆け抜ける。

 周囲を慎重に伺いながら、4人は出来る限りのスピードで走った。


 しばらく行くと人の気配が感じられるようになった。

 ビルの隙間から前方を除くと、男達が店から姿を現した。

 全部で3人、グラハムのメンバーのようだ。


 ガイ達はその場所を避け、右に迂回して建物の間を進んだ。

 なるべく接触は避けたい。

 しかしその場所を境に、次々とグラハムの人間たちの姿が散見されるようになった。


 いよいよ本格的に奴らの居住エリアに入ったようだ。

 4人は慎重に歩を進めた。

 息を殺し、建物と建物の間を縫うように進む。


「はっ」


 街中をかなり進んだ頃、その時先頭にいたアレフは角を曲がった先にグラハムの男がいることに気付かず鉢合わせてしまった。

 すぐさまその男は臨戦態勢を取ろうとしたが、ガイが風のようなスピードで動き相手の後頭部に手刀を静かに早く見舞った。

 男は声もなく倒れ込んだ。


「すみません、ヘッド……」

「しょうがないさ、恐らくこいつは警備兵だ。気配を消しながら移動していたな」


 ガイは予期せぬ事態にも至って冷静に対処していた。


「中心部が近いという印だ。宮殿は近い。急ぐぞ」


 4人は再び走り始めた。

 辺りは一層暗くなり、本格的に夜が訪れようとしていた。

 その暗闇は姿を隠しながら進む4人にとっては都合の良いものだった。


 しばらく進んだ先でガイが足を止めた。

 ガイの前には古びた建物があった。


「ここだ」


 ガイはその建物の入り口の扉を開け、中へと入っていった。

 3人もその後に続く。

 中はガランとしており人の姿はない。


 ガイは部屋の奥にある本棚の前に進むと、1冊の本を手に取った。

 その本の下には銀色に光るスイッチがあった。

 ガイがそのスイッチを押すと、本棚が左右に開き地下への階段が現れた。


 階段を降りると、いくつか机と椅子が並んだダイニングバーのような部屋があった。

 その部屋には既に先客がいた。


「エイジ!」


 椅子に座って待っていたユウが、エイジの姿を見つけるやいなやこちらに駆け寄ってきた。


「ユウ、無事だったか」

「うん。エイジも無事に来れたみたいで良かった」


 2人は無事を確認し合い安堵の息をついた。

 地下にはユウに加えてブライスとカイゼルの姿があった。


「ご苦労だったなブライス」


 ガイがブライスに声を掛けた。


「幸運にも、大きなトラブルなくここまで来ることが出来ました。ヘッドも無事のようで何よりです」

「しかしこの街の状態も酷いもんだ。ほんの数日間で死の街と化してしまった」

「はい……多くの犠牲者の姿もありました。早く奴らをとめないと……」

「ああ……早急に最後の詰めを確認しよう」


 4人は各々席に座った。

 全員が座ったのを確認するとガイが切り出した。


「宮殿はここから目と鼻の先だ。そして後1時間後にはその宮殿で演説が行われる予定だ。街にいるグラハムのメンバーが宮殿に集まる。多少なりとも現場は浮足立つだろう。俺達が潜り込むには打ってつけのタイミングだ」

「しかし、それだけの人数が集まるというのは厄介ですね」

「ああ、そいつらを相手にしていたら切りがない。俺達のターゲットはただ1人、厄災・ラッセルだ。奴が演説会場にたどり着く前に仕掛けてケリをつける」


 ガイはエイジとユウの2人に視線を向けた。


「お前たち……頼んだぞ……」

「はい、もちろんです」

「ああ」



◆◇◆◇



 宮殿には先陣と後陣の2チームに分かれて侵入することとなっていた。

 先頭はブライスを筆頭に、オニール・アレフ・カイゼルがその役目を任された。

 いずれもファミリア内で屈指の実戦力を備えた精鋭たちだ。

 彼らのミッションは宮殿の護衛を秘密裏に突破し、後陣のガイ・エイジ・ユウに厄災まで通ずる道を切り開くことだ。

 

「では行ってまいります」


 ブライスを先頭に、先陣チームが建物を出て宮殿へと向かって行った。

 彼らのことだ、きっと上手く任務をこなしてくれるはずだとエイジは信じていた。


 エイジら三人は建物内にとどまり、先陣チームからの一報を待った。

 エイジはちらりとユウの様子を伺ったが、その瞳に心配や不安の色は浮かんでいないようだった。


 先陣が出発して30分が経とうかという所で、ブライスからのテレパシーが届いた。


『こちらブライス――』

『どうだ、状況は――?』

『宮殿内の目標地点まで辿り着きました。ここから先は幹部陣の住む上階フロアに通じる階段と、演説会場となるホールへ続く分岐点です。カイゼルとオニールを途中の中継地点に配置していますので、コンタクトを取ってここまで来ていただければと思います――』

『了解だ。ではすぐに我々も出発する――』

『お待ちしています。くれぐれもお気をつけて――』


 通信を終えたガイが二人に振り向く。

 

「行くぞ。出発だ」

 


◆◇◆◇



 ガイの後ろにつく形でエイジとユウは建物を出て、宮殿へと歩を進めた。

 予め侵入口としていた裏門の一つに向かうと、奇麗に門番は意識を失いダミーが置かれていた。


 裏門の扉を開けて慎重に中へ入ると、三人はシャドー状態で先を急いだ。

 先陣舞台の働きもあり、道中にはさしたる障害もなくスムーズに進むことが出来た。

 予定通り第一の中継地点でオニールに、第二の中継地点でカイゼルと落ち合った。


 しかし、落ち合った際のカイゼルは座りながら何故か苦悶の表情を浮かべていた。


「カイゼル、どうした……?」


 そう問いかけたエイジはすぐにその理由に気付き、「うわっ」と声を上げた。

 座り込んだカイゼルの左足は大きく抉れており、傷口からは赤い血がどくどくと流れていた。

 ユウも「きゃあっ」と悲鳴を上げた。


「大丈夫かよ、お前……?」

「僕としたことが不意をつかれてしまったよ……でも大丈夫だ、大した問題じゃない。君は先に進むんだ」

「でも……」

「良いから行くんだ! このミッションの目的は何だ? それを見失うんじゃない。僕のことは大丈夫だ、後からオニールが来てくれる」

「カイゼルの言う通りだ。ここはオニールに任せて、先へ進むぞ」

「分かったよ。わりいな、カイゼル……絶対にミッションやり遂げてくるからな」

「当然だ。頼んだよ」


 三人は再び宮殿の中枢を目指して走り始めた。

 幾つかの回廊を階段を進んだ先に、ブライスたちとの合流地点の個室があった。

 ガイが扉に手を触れ、何かを念じると扉の鍵がカチャリと外れた。


「お待ちしていました」


 中に入るとブライスとアレフが三人を出迎えた。


「ご苦労だったな。お陰様でこれといったトラブルもなくここまで来れたよ」

「演説時間が迫り、宮殿内が浮足立っていたのが幸いしました。さあ、我々はいよいよ中枢に近付いて来ました。この部屋の前の通路を進めば、先のフロアに上下に別れた大階段が控えています。上へ行けばルシファーやラッセルの居住階に、下へ行けば今回の演説会場となる大ホールへと辿り着きます」

「いよいよだな。ブライスとアレフ、お前たち二人は下の階段を進んでホールへ忍び込み、集まるグラハムの奴らを監視してくれ。何かあればすぐに連絡を来れ」

「分かりました」

「頼んだぞ。そして……」

 

 ガイが部屋の入り口に近い所に立っているエイジとユウを振り返り、ひたと見据えた。


「俺たちは上の階段だ。奴らも元に、乗り込むぞ」

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