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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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過酷なる運命

 エイジは木製の階段をゆっくりと登っていた。

 この上には村全体の風光明媚な景色を見渡せる見晴らしの良い展望台があるはずだった。

 残す所数段という所となり、その展望台の様子が目に入るようになって来た。


 ナナセに、この展望台の上に来るよう伝えられていた。

 奥にベンチが備え付けられており、そこに1人の少女が向こうを向いて腰掛けている。

 階段を登りきり頂上に辿り着いたエイジはそのままベンチの方へと歩を進めた。


「よう、元気だったか」


 エイジは後ろから声を掛けた。


「え……」


 ユウがこちらを振り向いた。


「いつの間にかいなくなってて、びっくりしたよ。まあ元気そうで何よりだ」

「エイジ……どうしてここに?」

「俺なりに調べたんだよ。そしたらびっくりする話が出るわ出るわ。で、ここの島は避けて通れない、きっと何かここに答えの1つがあるって思わずにはいれなかった。そうなるといてもたってもいられなくなってさ」

「そっか……色々調べたんだね」

「ああ」


 エイジはユウの隣に腰を降ろした。


「ごめんな、何も理解してあげられてなくて」

「ううん、エイジは何も悪くないじゃない。これは私自身の問題だから。それよりも悲しいのはね……」

「ん……」

「もう前みたいに無邪気に笑い合ったり出来なくなるのかなーってこと。いつかその時は来るんだって頭では分かってたけど、いざそうなってみるとやっぱりさみしいな」


 ユウの声は憂いを帯びている。

 オレンジ色の夕日が2人を照らしていた。


「なあ、2人でどっかに行かないか?」

「えっ……?」

「世界を救うっていう責任を、ユウが1人で負わされるなんてやっぱりおかしいよ。俺たち2人でどこかに姿をくらまそう。で、世界を救うには本当にこの方法しかないのか徹底的に調べよう。絶対他にも方法はあるはずだ」


 その言葉を聞いてユウがくすりと微笑んだ。


「ありがとう、エイジ。その気持はとっても嬉しいな。エイジと2人でどこかへ行って暮らしたら、とっても楽しそう。でもね、私は今のこの世界を見捨てておくわけにはいかないんだ。こうしている間にも、どこかで誰かが犠牲になっているかも知れない。一刻も早く厄災を封じなきゃ。そのために自分の命が役立つのであれば、私は喜んでそうしたい」

「ユウ……」


 エイジは何も答えを返すことが出来なかった。


「だからさ、エイジにもその為に力を貸して欲しいんだ。思い出して、アカデミーで2人ともエアロが全く使えなかった時のこと。あの時の落ちこぼれ2人が世界を救えるかも知れないんだよ。そんな凄いことってないと思うんだ」


 ユウはエイジの瞳を真っ直ぐに見据えながら言う。

 その瞳の中には確固たる強い意志が光となって現れていた。


「お願い、エイジ。一緒に厄災と戦おう」



◆◇◆◇



 プシュ、と扉が開く。

 エイジはユウと並んでその部屋の中へと入った。

 部屋は10人ほどは収容出来る広さで、中央に円卓が設けられていた。


「着いたか。ご苦労だったな。さあ遠慮せず座ってくれ」


 入り口に近い席にブライスが座っており、部屋に入ってきた2人に声を掛けた。

 ブライスの隣には、見覚えのある顔があった。


 カイゼル・ジョイスだ。

 アカデミー卒業以来の、久しぶりの再開だった。


「やあ、久しぶりじゃないか」

「カイゼル……お前も来てたのか」

「まさかここで一緒になるとはね」


 部屋の中はがらんとしており、2人を除くと奥の席に1人の男が座っているのみだった。


「よう。まともに喋るのは初めてだな」


 奥に座っている男がエイジに向かって声を掛けた。

 深みのある低い声。

 見間違える訳もない。


 奥に座ったその男はファミリアのヘッド、サクラバ・ガイだった。


「ああ、そうだな」

「改めて、見ない間にすっかり大きくなったもんだな。生まれた時はあんなに小さかったのにな」


 ガイが感慨深げに言った。


「俺は何も覚えてないけどな」

「そりゃそうだ」


 エイジとユウは入り口から一番近い席に腰を降ろした。

 円卓を挟んでガイと対峙する。


「ナナセから話は聞いている。まず、俺の口から2人に真実を伝えられなかったことを詫びさせてくれ。すまなかった」


 ガイは2人に向かって頭を下げた。


「その時が来たら俺の口からしっかり話をしようと思っていたが、今回のテロで全てが狂ってしまった。このテロをしっかり防ぐことが出来なかったのも俺たち幹部陣の責任だ」

「いえ、そんな……」

「トップってのはそういうもんだ。全ての物事に責任を持たなきゃならない」


 ガイはそう言うと咳払いをしてしばらく間を置いた。


「さて、お前らもよく分かってるだろうが、今この世界は大きな危機に瀕している。過激派組織・グラハムの力は、悔しいが俺達の想像を遥かに越えていた。奴らは水面下で急激に軍事力を高めていたようだ」

「既に3つの国が奴らの侵略を防ぎ切れず、占領されてしまった。犠牲者の数も日に日に増えている。このままではこの世界は地獄と化すだろう」


 ブライスが横から説明を加えた。


「奴らの最大の脅威が、厄災・ラッセルだ。こいつを葬らねえと俺達に明日はない。そして厄災を殺すだけじゃ同じことが繰り返されてしまう。根底から邪気を消す必要がある。そのためにお前ら2人の力がどうしても必要なんだ。頼む、世界の為に力を貸してくれ」


 ガイは再び頭を深々と下げた。


「そんな、やめてください……当然です。私の大好きな世界の為なら、なんだってやりますから」

「ありがとう。本当に。何と礼を言えばいいか……」

「いえ……」

「エイジ、お前も協力してくれるな?」


 ガイは視線をエイジの方に向けた。

 エイジは少し間を置いた後に口を開いた。


「ああ……仕方ないだろ」

「……ありがとう」


 ガイは神妙な面持ちでエイジを見つめる。


「2人とも島からの長旅で疲れてるだろうから、しばらく休んでくれ。その後改めて、このミッションの詳細を話させてくれ」



◆◇◆◇



「エイジ、お前には少し話がある。ここに残ってくれ」


 一通りの話が終わり、皆が席を立とうとした時にガイがエイジを呼び止めた。

 ブライスとユウ、カイゼルはそのまま部屋を後にし、部屋には2人だけが残った。


 しばらく沈黙の時間が続く。

 おもむろにガイがその沈黙を破った。


「すまないな、こんな過酷な決断をさせて」


 エイジは俯き、机の上の1点を見つめた。

 ガイはエイジを険しい顔付きで見つめている。


 エイジはやがて、机の上に置いた左右の手を強く握り締め始めた。

 肩も小刻みに震え始めた。


 バン!


 エイジは左右の拳を机に振り下ろした。


「なんでだよ! なんで俺達なんだよ!」


 エイジの両目からはぼろぼろと涙が溢れていた。


「なんでユウが犠牲にならなきゃいけない!? なんで俺がユウの命を奪わなきゃいけない!? そんなのおかしいだろ……! 何が選ばれし者だよ……ふざけんな!」


 エイジは思いの丈をぶちまけ、それまでずっと抑えていた感情を爆発させる。

 行き場のない怒り、遣る瀬無さ、そして悲しみが体の中を暴れ回り、どうにかなってしまいそうだった。


「ああああ!!!」


 バンバンバン!


 続け様に机を拳で殴りつける。

 拳の痛みなど全く感じられなかった。


「ハア……ハア……」


 エイジは肩で息をしていた。

 ガイは目をそらすことなくじっとエイジの様子を見守っている。

 やがて、ガイの目からも涙が幾筋にもなって流れ出した。


「つらいよなあ……エイジ。それがどれだけつらいことか……当事者じゃない俺だって胸が張り裂けそうだ」


 エイジは顔を上げてガイの顔を見つめた。

 ファミリアのトップたる男が、息子の前で涙を流している。

 その光景はエイジの激情にも似た気持ちの高ぶりをそっとなだめた。


「でもな、エイジ。こんなこと言ってほんとに俺は最低だと思うが、俺はお前がちょっとだけ羨ましいんだ」

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