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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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予言

「ゴアさん、あんたもアレクサンドリアに行くのか」

「そうだよ。それでちょうど見覚えのある顔を見かけたから思わず話しかけに来てしまったんだ」


 ゴアは目を細めて微笑みながら言う。


「隣の少女のこともよく存じ上げているよ。ニシミヤ・ユウさん、初めまして。ゴアと申します。流浪の老いぼれです」


 ゴアはペコリと頭を下げてユウに挨拶をした。


「あ、どうも初めまして……ニシミヤユウです」


 ユウも簡単に挨拶を返す。

 “邪気狩り”以来、知らない相手に自分のことを知られていることには既に慣れてしまっているようだ。

 しかし、ゴアを見るユウの表情は少し驚きの感情を含んでいた。


「ゴアさんって、もしかしてあの有名な……?」

「おそらくそうかもしれないね」

「やっぱり!」


 ユウの顔がさらに驚きの度合いを増した。


「なに、この人そんな凄い人なの?」

「エイジ、知らないの? ゴアさんは世界的に有名な予言者なんだよ。国の要人達がこぞって頼りにするような凄い人。こんなとこでお会い出来るなんて……」

「え、予言者?」

「ゴアさんには他の人には見えない未来が見えてるって言われてる。ゴアさんの言葉は世界を大きく動かすような影響力を持ってるんだよ」

「ほほほ、そんな大した者ではないよ」


 ゴアはにこやかに謙遜する。


「エイジくんとはちょいと前に一緒にカジノでバチバチしのぎを削ったんだ。あれは楽しい夜だったな」


 ゴアは当時を懐かしんだ。


「ところで君たち、私は君たちを見て見ぬふりをすることも出来たが話しかけずにはいられなかった」


 唐突にゴアの話のトーンが変わった。

 それはまるで海の底のような深さをたたえた声色に変わっていた。


「私は、君たちの行く手に待ち受ける運命を見逃すことが出来なかった。私の話を聞くも聞かないも君たちの自由だが、もしこの心の弱い老いぼれの話を聞いてくれるのであれば出来る限りのことを話そう」


 黒い海がより濃さを増したかのように見えた。

 自分たちを待ち受ける運命?

 一体何が待ち受けていると言うのか。


「どういうこと……?」

「選ばれし者と呼ばれた君達を待つ過酷な運命だよ」

「いったい私達がどうなるって言うんですか……?」


 ゴアはまっすぐに海の上に向けていた目線を下に降ろし、溜息をつきながら目を閉じた。

 そしてゆっくりと口を開いた。


「君たちはこれから到着するアレクサンドリアから2人揃って帰ることはない」


 ゴアの口から語られた言葉は衝撃的だった。


「それはアレクサンドリアに行くということが根本的な理由ではない。行かなかったとしても、いずれその時はやって来る。避けられない運命だ」


 エイジとユウは言葉を失っていた。


「そして大きな危機が世界を襲う。この目の前の静かな水面が嘘のように、世界は激しい混乱の渦に巻き込まれる。だが、決して諦めるな。運命に抗うんだ。もがき、戦い続ければきっと道は開ける」


 ゴアの言葉は静かだが、根底には迫真めいた力がこもっていた。

 エイジがその言葉を飲み込めるようになるまでは、しばらく時間がかかった。



◆◇◆◇



 水平線から日が登り始めた。

 日は少しずつその面積を大きくし、世界を明るく照らし始める。


 エイジは部屋の窓からその光景をじっと眺めていた。

 その夜は結局一睡もすることは出来なかった。

 ゴアの言葉が頭に焼き付いて離れない。

 

 それはただの一人の言葉に過ぎない。

 自分たちの身に何が起こったわけでもない。

 それでもエイジ達には大きな影響を及ぼしていた。


「ふう」


 エイジはベッドに溜息をつきながら倒れ込んだ。

 険しい顔で部屋の天井を睨み付ける。

 ここまでの道中で胸に去来していた安らぎはすっかりどこかへ消え去ってしまっていた。


 エイジはそのまま港に到着するまでその場を動くことが出来なかった。


 船が大きな汽笛を鳴らす。

 いよいよアレクサンドリアに到着だ。


 エイジは重い体を起こし、荷物を手に部屋を後にする。

 ユウと船の降り口で落ち合った。


「よう」

「着いたね」


 どことなく重い空気が流れる。

 そのまま一緒に船から降り、エアタクシーの乗車口に向かう。


「寝れた? あの後」

「ううん、目が覚めちゃって」

「俺も。あんなこと言われちゃったらな」

「そうだよね……でも、まだ何かが起こったわけじゃないし。ゴアさんは有名な予言者かも知れないけど、やっぱり一人の人間だしさ。あんまり気にせずに私たちはこれまで通り過ごそうよ」

「そうだな。神様じゃあるまいし」


 ユウの言葉にエイジは励まされた。

 やっぱりその気丈さには頭が上がらない。


 しばらくしてタクシーが到着した。

 2人はタクシーに乗り込みアレクサンドリアの街の中心部へ向かう。

 窓から見える景色が徐々に都市部のそれに変わっていく。


「すごい、奇麗だね」


 確かにその景色はバーリースとは違った文化を感じさせるものだった。

 表世界で言えばヨーロッパに近いだろうか。

 格調高い雰囲気が街全体を覆っていた。


 タクシーは徐々に高度を下げ、目的のホテルの前で着陸した。

 運賃を払い車から降り、ホテルのエントランスへ向かう。


「今、14時10分か。サミットの開場が18時だから30分前にまたここに集合しよう」


 エイジはフロントで受け取った部屋の鍵をユウに手渡す。

 エイジは1305号室、ユウは1614号室だ。


「うん、了解」

「それじゃ、また後でな」


 エレベーターに乗り、13階に向かう。

 1305号室にたどり着くや早々に荷物をばっと放り投げ、ベッドに身を投げる。


 疲れが一気に吹き出てきたようだ。

 なんとかアラームだけはセットするとエイジはそのまま目を閉じ、深い眠りに落ちていった。



◆◇◆◇



「お待たせー」


 ユウが小走りにやって来る。


「時間ぴったり」

「セーフ。危なかった」

「アリーナまではバスが出てるみたいだな。バス停は……あっちか」


 2人がバス乗り場へ向かうと、既にバスが停まっていた。

 中にはかなり人が乗り込んでいるようだ。

 みなサミット会場へ向かうのだろうか。


 バスは2人が乗り込んで間もなくして出発した。

 バスに揺られること10分、乗客の目に大きなアリーナが映り込んできた。


「でか……」


 アリーナのその大きさにエイジは驚きを隠せなかった。

 何万人も収容出来るほどの大きさだ。

 歴史あるアレクサンドリア・ガーデンは圧倒的な荘厳さを放っていた。


 バスがガーデンから少し離れた場所でとまった。

 エイジは降り口に向かったが、

「いてっ」

 乗客の1人が横から強引に割り込んできて体がぶつかってしまった。


 なんだよ――


 エイジは内心少し憤りを感じながらその横の相手の顔を見た。


 ギロリ。


 男は感情のこもっていないような冷酷な目でこちらを睨んだ。

 口元にはマスクをつけ、その目は血走ってさえいる。


 エイジは背筋を冷たいものが流れるのを感じた。

 男はそのまま乱暴にバスから降りると、凄い早さで前方に歩き去って行った。


 何なんだあいつは……


 このお祭りムードの中で明らかに異様な雰囲気を醸し出していた。

 エイジは薄気味悪い気持ちを感じていた。

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