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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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ミッションコンプリート

 男の声はぞっとするほど不気味なものだった。

 それはまるで人の心が全くこもっていないかのようであった。


「捕まえられたのはお前たちの方だ」


 男はそう言うと上着の中からガンを2つ、両手に取り出した。


「死ね死ね死ね!」


 男は両手のガンを一斉に発砲させた。

 バンバンバンバン!

 バレットが続けざまに乱射される。


「くっ!」


 エイジ達は咄嗟にシールドを張る。


 パキンパキンパキン―


 間一髪、バレットはシールドに弾かれた。


 ひゅっ!


 息つく間もなく、男がこちらに向かって飛び込んで来る。


 ぶん!


 男は銃を持った右手でエイジに殴りかかった。

 すんでの所でそれをエイジはかわした。

 男は手を緩めることなく追撃する。


 エイジは攻撃をかわすのに必死になった。

 男の動きは常軌を逸した速さと鋭さだった。

 エイジは攻撃をかわし切れず、後ろに大きく飛びのいた。


「おらあ!」


 横からアレフがガンを構え、男に向かって発砲した。

 しかしバレットは男の前でばちん!と霧消した。


「なんだと?」


 男はアレフを振り返ると右手をかざした。


「吹き飛べ!」


 男の手から波動が飛ぶ。

 波動は一瞬でアレフに到達した。


「ぐあっ」


 アレフはうめき声とともに数メートル後方に吹き飛ばされた。


「ユウ、こいつは危険すぎる! 避難しろ!」


 エイジはユウに向かって声を張り上げた。


「嫌だよ! 私も一緒に戦う!」


 ユウは毅然とした態度を見せた。


 じろり。


 男が声を上げたユウの方に振り向いた。


「やめろ!」


 エイジがそう声を上げるよりも早く、男はユウに向かって飛び込んでいた。

 ユウは必死にバレットを放つが、男はわけもなくそれを練り消す。

 男が右腕を左から右に一閃した。


 がん!


 鈍い音を立てて男の右腕がユウの頭部を直撃した。


「きゃあ!」


 頭部から血がしぶき、ユウの体が真横に吹き飛んだ。

 男は吹き飛んだユウを追いかけ、倒れ込んだユウの体を仁王立ちで跨いだ。

 かちゃり、と相変わらずの無表情でガンをユウの顔に向ける。


 ドクン。


 ブオッ……!


 その惨状を見たエイジの中で何かが爆ぜた。

 体の芯から湧き上がる炎がエイジの体を乗っ取り、支配した。


「おおおおおおおおお!」


 エイジは猛スピードで男に向かって飛び、右脚で飛び蹴った。

 余りのスピードに男は避けることが出来ず、右腕で蹴りをガードした。


 ごっ!


 男の腕にエイジの蹴りがめり込む。

 男は衝撃によろめいた。

 エイジはすかさず追撃する。


 その顔はまさに鬼神のそれだった。

 拳と蹴りが目にもとまらぬ速さで乱れ飛ぶ。

 男は必死にそれをかわすが、とうとうエイジの右拳が男のボディーを捉えた。


「ぐふっ」


 みぞおちに鋭い一撃をもらい、男は思わず前にかがみ込んだ。

 エイジは間髪入れず、前のめりになった男の顔を右脚で思い切り蹴り上げた。


 ばごん!という鈍い音とともに男の体が宙に浮き、2~3メートル吹き飛んだ。

 エイジは倒れた男に馬乗りになり顔を殴りつける。

 3発目に入ろうかと右腕を掲げた時、後ろから誰かの手がその右腕をつかんだ。


「ここまでにしとけ。勝負ありだ」


 後ろを振り返るとそこにはアレフが立っていた。

 冷静になって目の前の男を見ると、攻撃を受けて完全に意識を失っていた。



◆◇◆◇



 アレフから連絡を受けてフェルリアンが、そして続けてブライスが屋上に上がってきた。

 屋上の床でぐったりとしている男の体を囲むように一同が集まる。


「完全にノックアウトだな」


 男を見下ろしながらブライスがつぶやく。


「とんでもねえ邪気でしたよ、ボス。エイジが覚醒しなかったらどうなってたことか」

「こちらの想像以上に強大な邪気を抱えていたようだな」


 そう言うとブライスはエイジの方を見た。


「エイジ、よくやったな。だがまだ終わりじゃない。こいつの邪気を炙り出してくれ」


 続けてユウの方を向いた。


「ユウくん、負傷しているところ悪いが、邪気が炙り出されたら浄化を頼むよ」

「はい、大丈夫です」


 ユウは痛々しい傷跡をものともせず気丈に答えた。


「悪いな、君たちにしか出来ないことなんだ」

「わかってるよ」


 そう言うとエイジは男の体に向かってしゃがみ込んだ。


「……じゃ早速いくぞ」


 男の胸の上に右手を置き、目を閉じる。

 エイジは心の中で激しい怒りの感情を呼び起こした。


 ふつふつと湧き上がる怒り、衝動。

 やがてその感情は黒い炎となって燃え上がり、エイジの体から漏れ出した。


「すげえ、これが……」


 アレフはその光景に息を呑んだ。

 黒炎はエイジの右腕に集中し、そのまま男の胸の中にすうっと流れ込んでいった。


 すると男の体が色を帯び赤黒く光り始めた。

 内側から焼かれているかのようだ。

 しばらくすると男の口から紫色のおどろおどろしい色をした気が漏れ出してきた。


「出たぞ、邪気だ」


 ブライスが冷静に状況を伝える。

 ユウはその言葉を聞くと、すっと前に一歩進み出た。


 両手を胸の前でクロスさせ、ぐるんと回転させる。

 すると邪気はその動きにあわせてぐるんと回転した。


 ユウは交差した両手をほどき、今度は胸の前で大きく広げた。

 邪気はぷるぷると小刻みに揺れながら、徐々にユウの体に向かって近付いていく。


 ユウがゆっくりと目を閉じた。

 邪気はそのユウの胸に吸い寄せられ、体の中に溶け込んでいった。

 誰もが固唾を呑んでその始終を見守っていた。


 しばらくして、再びユウが目を開く。


「浄化、完了です」



◆◇◆◇



 ルーキーが邪気狩りのミッションをクリアした。


 その一報はエージェント界に一気に広まった。

 邪気狩りとはそれほど特別なミッションであるのかと、役目を終えた二人は身に染みて感じていた。

 2人の顔は広く知られることとなり、取材の申込も相次いだ。


 たった一日の活動で一躍英雄のような扱いを受けることにエイジは少しとまどいを隠せなかった。

 しかしそんなエイジの内面には構うことなく、その日を境に確実にエイジを取り巻く環境は一変していった。


 エイジに直接ミッションの声がかかることも増えていった。

 初めてのミッションで惨めな姿を晒し、これまで数ヶ月下積みを続けて来たエイジの姿からは考えられないことだ。

ジョーカーパークスの注目度もさらに一層高まり、ファミリアの枠を超え存在感を大きく増していった。


 世間の喧騒を他所に、エイジは舞い込んでくるミッションに集中した。

 無心で目の前の仕事に取り組み続けた。

 そして短期間でエイジのエージェントとしての能力は飛躍的に高まり、それがまた更にミッションを呼び込み自信の成長につながるという好循環が回り始めた。


 スクエアに加入して8ヶ月も経つ頃には既にルーキーとしての面影はなく、大抵のミッションであればほぼ独力で完遂することが出来るほどの力を付けていた。



◆◇◆◇



「お疲れーい」


 エイジがミッション帰りにオフィスのエントランスをくぐると、ちょうどアレフが手を挙げて声を掛けてきた。


「おっす」

「最近絶好調じゃねえか。飛ぶ鳥を落とすとはまさにこのことだな」

「また大袈裟な」


 エイジは口角を上げてアレフににやりとしてみせた。


「そろそろ年末も近付いてくるからなあ。何か良いことあるかもな、エイ坊」


 アレフもお返しとばかりににやりとした笑みを浮かべると、そのまま奥に向かって歩いて行ってしまった。

 相変わらずのマイペースだ。


 エイジはシャワーを浴びて3階の自分の部屋に向かった。

 荷物を置いてスクリーンの電源を付ける。

 いつものようにメールをチェックするが、その中に見覚えのない宛先からのメールがあった。

 エイジは何の気なしにそのメールを開く。


「おめでとう……ございます……?」


そのメールは、年末に大々的に開かれるエージェントサミットへの招待状だった。


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