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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
29/50

ヘッドの言葉

 ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴp。


 部屋中に鳴り響いていた音がやんだ。

 エイジはその音の発信源の上からゆっくりと手を離した。

 眠い眼をこすりながら、手をどかしたその物体の中を覗きこむ。


 17:18


 そこには黄色い4文字の数字が並んでいた。


「やべっ!」


 エイジは慌てて飛び起きる。

 総会の集合時間までもう残り僅かな時間しか残っていないことに気付いた。

 昨日遅くまでカジノに熱中し、ホテルに帰ってきたのは空が完全に明るくなってからだった。


 そこからひたすら眠りを貪り今に至るというわけだ。

 エイジはベッドから飛び降り、急いでシャワーを浴びて出発の準備に取り掛かった。

 着替えを終えて小走りに部屋を出る。


 1階のロビーに降り、表示されたマップを確認するが幸いにもホテルからアリーナまではそう遠くない。


 まだ十分間に合うな――


 エイジはほっと一息付き、少し歩幅を広げてアリーナまでの道のりを歩き始めた。


 集合場所に着くと、もう既に大半のメンバーが集まっていた。


「こっちこっち!」


 ユウが手を挙げてエイジを招く。


「結構ぎりぎりだったね。さっきまで何してたの?」

「寝てた。ずっと」

「さては朝までカジノに熱中してたなー?」

「俺結構カジノのセンスあるみたいなんだよな」


 エイジに続いて2人が到着した。

 これで新人18人全員が揃ったことになる。


 しばらくして、アリーナの中からホーキンスが姿を現してこちらにやって来た。


「素晴らしい、皆揃っているみたいだね。さあもう開場の時間は過ぎている。中に入ろうか」


 ホーキンスに先導され、エイジらはアリーナの中に足を踏み入れた。

 通路を抜けると、圧倒的な開放感に包まれた。


「すげえ」

「ひろっ」


 思わず声を上げる者達も出始める。

 アリーナ内のホールは、ちょっとした街の人々なら簡単に収容出来てしまえそうなくらい広々としていた。

 中央の大きなステージをぐるっと囲むように、座席が無数に設営されている。

 その数、数千、いや数万は優にあるだろう。


「ほら、君たちの座席はこっちだ」


 ホーキンスはホールの大きさに見とれる新人達をスムーズに誘導する。

 連れて行かれた席はステージの真下、数多の座席の中でも最前列の座席だった。

 ステージ上が容易に目に入る。

 エイジら新人達は大人しく誘導された席に腰を下ろした。

 

 開場してまもなくということもあってか、エイジ達が席についた時は席の入りはまばらであったが、次第に続々と人が場内に入りだしアリーナは熱気と緩やかな喧騒に包まれ始めた。

 アリーナ内には何か期待と緊張がないまぜになったような微妙な感情が渦巻いているように感じられる。


 時刻が19時を迎えようという頃、いよいよアリーナ内は満席に近いほど人が入り切った。

 これほど多くの人を一度に見るのは初めてかも知れない、と思うほどだ。


「こんなにたくさんの人の前で私達紹介されるんだね……なんか緊張しちゃう」


 隣のユウは少し緊張しているようだ。


「エージェントの人達だけじゃないからね。総会は一般の人達も注目するイベントで今日もたくさん会場にやって来ている」


 近くに座るホーキンスが補足する。

 確かに場内の席には仕切りがあり、概ね前方の3割ほどの席がエージェントに割り当てられているようだった。


 ぱっ――


 急にライトが落ち、アリーナの中は暗闇に包まれた。

「わっ」とユウが小さく驚く。

 いよいよ開幕の時間だ。


 唐突に五感を揺さぶられるような音楽が流れ出した。

 表世界で言うとクラブで流されるEDMのような曲調だ。

 それにあわせてスポットライトが場内を縦横無尽に駆け回り始めた。


 まるでショータイム。

 内側の熱い気持ちを揺り動かされるような演出。

 エイジは気持ちの昂ぶりを感じていた。


 しばらくするとライトの動きがステージ上に集約され始め、やがて一つの円に落ち着いた。

 光の中に、純白のスーツをまとった1人の男性が後方から現れた。

 左手を上に掲げ、右手に持ったマイクを口元に近付ける。


「ようこそ、皆さん。エージェント総会の開幕です! 私、今回の総会で司会を務めさせていただきます、トレイシーと申します。どうぞよろしく!」


 場内から割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。


「ありがとうございます。この1年を振り返るこの総会、果たして栄冠に輝くのは誰か、どのチームか、今から発表が待ちきれません。早速、プログラムを進めて行きたいと思います! まずはこの方からお言葉を貰わなければならないでしょう。我らがヘッド、サクラバ・ガイ!」


 ―――!

 

 エイジはその言葉に思わずぴくりと反応した。

 壇上で読み上げられたその名は、紛れもなくカイゼルやブライス達から伝えられていた自分の父の名前だった。


 遂に親父が――

 エイジの頭の中には様々な感情が渦巻いていた。


 壇上が一面ライトに照らし出される。

 ステージ後方には縦長い机が置かれ、その後ろに7人の男が座っていた。

 中央の男がゆっくりと椅子から立ち上がり、前へ進み出る。


 男はそのままステージ前方中央に用意された演説台に着いた。


 名前しか知らなかった父。

 その父が遂に自分の目の前に姿を現した。

 ステージ下、最前列のエイジからはその顔がはっきりと視認できた。


 精悍で勇ましい顔立ち。

 まっすぐ射るように前方を見据えるその目からは、内に秘めた強い意志を感じ取ることが出来る。

 何か、父からは獅子のようなイメージを感じ取ることが出来た。


「みんな、久しぶりだな」


 ガイの声がマイクに拡張されてアリーナ中に響き渡る。


「今年も、こうしてここにみんなで集まれて嬉しいよ。まずはみんなの頑張りを讃えさせてくれ。一年間本当によく頑張ってくれたな、ありがとう」


 ガイは聴衆に向かって語りかける。


「みんなの頑張りのお陰もあって、今年も我がファミリアは大きく飛躍を遂げた。受注数・収益ともに大きく伸び、構成員もさらに力をつけますます組織は磐石となった」


 エイジは場内をぐるりと見回してみるが、みな誇らしげな顔を浮かべていた。


「一方で、ここ数年現れ続けている厄災の兆候、邪気の氾濫、テロ行為の横行など、国際的には不安と緊張が高まりつつあるのも事実だ。我々は確固たる決意でこれらの不安要素と向き合い、徹底的に戦っていく。この素晴らしい組織を誰にも壊させはしない。みんなも、引き続きどうか力を貸してくれ」


 ガイがそうスピーチを締めくくると、会場から割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

 ガイは演説台から降り後方の自席へと戻っていった。

 父親の雄姿がエイジは少し誇らしかった。


「ヘッド、ありがとうございました! では続いて、エージェンシー統括のティム・バイロン幹部より一年間の業績総括をお願いしたいと思います。バイロン統括、よろしくお願いします!」

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