試験結果
ジーー!!
試験会場全体に鋭くアラームが鳴り響いた。
続けて、アナウンスが流れる。
「17時となりました。試験はこれにて終了となります。繰り返します。17時となりました。試験はこれにて終了となります。」
卒業試験は全ての時間を消化し、終わりの時間を迎えた。
最後まで粘るチーム、覚悟を決めて終わりの時間を待つチーム、様々だったが、皆一様に一縷の開放感に包まれた。
「終わった、ね」
ユウがチームの一同に語りかける。
「ああ。みんな、本当にお疲れ様。2日間ありがとな」
エイジはチームメンバーの労を労い感謝の言葉を伝えた。
「試験生の皆さんは、試験開始場所にお集まりください」
アナウンスがこの後の集合場所を告げる。
「さあ、最初の広場に移動しようか」
候補生一同が広場にぞろぞろと集まり始めた。
疲れた顔、やり切った顔、悔しそうな顔。
皆の表情は悲喜こもごもだ。
やがて教官達が前方に集まり始め、最後にホフマンとホーキンスが姿を見せた。
まず、ホフマンが演説台に上る。
「みんな、最終試験ご苦労さん。2日間の長丁場、しっかりやり切ってくれたみたいだね。くたくただろうけどこの興奮冷めやらぬ内に結果発表に移りたいと思う」
ホフマンはそう言うと後ろを振り向き右手で合図をした。
後ろに控えていた教官2人が何か布の被せられた台を運んでくる。
台は演説台の横に置かれた。
「ほいと」
ホフマンが台に被せられた布を一思いに取っ払った。
布の下からはパネルが7色に分割された色鮮やかなルーレットが現れた。
各色のスペースは綺麗に7当分されている。
生徒達はみな、場に不釣り合いにポップでカラフルなルーレットに視線を奪われた。
「お待ちかね、レインボールーレットだ。こいつが指し示した色の虹玉を持っているチームが、晴れて勝利チームとなる。さて、その虹玉なんだがどのチームがいくつ持ってるか教えてもらってもいいかね」
ホフマンが候補生をぐるりと見渡した。
しばらくの静寂の後、一番右の列のカイゼルがホフマンに向けてすっと片手を上げる。
「カイゼルチーム、3個所有しております」
おお、と一体にざわめきが走った。
中には悔しそうにうつむく者達もいる。
「3/7を占めたか、お見事」
ホフマンもカイゼルチームに賛辞を送った。
「他のチームはどうかな?」
ホフマンが全体を見渡しながら問いかける。
「はい」
カイゼルに続き、エイジが手を上げた。
「サクラバチーム、4個です」
先ほどよりもさらに大きなざわめきが起こった。
エイジ達は2日間で4個の虹玉を集めていた。
勝率は4/7、50%を超えている。
きっと勝てる、とチームの誰もが信じていた。
「これはこれは、さらに上を行くチームがいたとは。虹玉を半分以上集めるチームなんか滅多に出てこないからな、これは凄いことだ」
オンドルも驚きの顔を見せる。
最終試験は結局、7個の虹玉をサクラバチームが4個、カイゼルチームが3個ずつ分け合う形となり、残りの5チームは全て虹玉を失うという結果となり、明暗がくっきりと分かれた。
エイジはちらりとカイゼルの方を見やった。
運命の悪戯か、エイジ達は結局カイゼルチームと合間見えることはなく、結果お互いが虹玉を独占する形となっている。
果たして試験を突破するのはどちらか。
その答えは前方のレインボールーレットに託されている。
「さて、それでは勝者を決めるとしようか。ルーレットを回すのは、ホーキンス学長にお願いする。ホーキンス学長、こちらへどうぞ」
後ろの列に控えていたホーキンスがゆっくり前に進み出て、ルーレットの横についた。
ホーキンスは右の拳を口に当ててコホンと咳をすると、ルーレットを回す前に一同に話しかけた。
「ホフマン教官からもあったがみんな、本当にご苦労様。この試験を通して、みんなの成長をまざまざと見せ付けてもらったよ。みんな本当によく成長したね。ありがとう」
ホーキンスは一同に向かって軽く頭を下げた。
「しかし、勝負は勝負。勝者はしっかり決めねばならない。僭越ながら私がその役目を果たさせてもらおう。さて、それではいくぞ」
ごくり。
エイジは生唾を吞み込んだ。
これまでの数ヶ月の努力が報われるか否か、その答えがこのほんの一瞬で決まってしまう。
エイジの心臓はドクドクと鼓動を早くしていた。
ホーキンスがルーレットの端を掴み、力いっぱいぐいっとルーレットを回した。
ルーレットは勢い良く回り始めた。
7色が空中で溶け合い、混ざり合う。
誰もがルーレットを穴が開くほど凝視している。
視線を一身に浴びながらルーレットは回り続けるが、やがて少しずつ回転スピードが落ち始めた。
混ざり合っていた7色が少しずつ単色に戻り識別出来るようになっていく。
エイジの心臓はさらに鼓動のスピードを上げた。
頼む、頼む――
後ろのユウも両手をぎゅっと組み、ルーレットの行く末を不安げに見つめている。
いよいよルーレットの回転スピードは落ち、とまるタイミングがまもなくとなってきた。
赤、白、青――
ルーレットの針の下を各色が順にゆっくりと通過していく。
緑、黄――
紫。
ルーレットはとまった。
「決まりだ。勝者は紫の虹玉を所持しているチームだ! 該当のチームリーダーは挙手されたし!」
エイジは両手に握り締めていた虹玉をハッと見つめる。
青、黄、白。
そして、赤。
「はい」
最右列のカイゼルが右手を上げた。
その手には紫色の虹玉がしっかりと握り締められている。
エイジは絶句した。
「そんな……」
「うそだろ……」
ユウとフォックスの悲痛な声が後ろから上がった。
俺達が負けた……?
「紫の虹玉を所有していたのはカイゼルチーム! おめでとう、君たちは晴れてこのゲームの勝者となった! プロのエージェントとしての立場を保証しよう」
ホーキンスが高らかに声を上げた。
エイジは目の前が暗くなるのを感じた。
頭の中では落第の二文字がぐるぐると巡っている。
その後浮かんできたのはブライスの顔だった。
ブライスに合わせる顔がない――
エイジの落胆は一層深まった。
選ばれし者だと言ってくれたブライスの期待を大きく裏切ってしまった。
俺は何をしにこの世界に来たんだろうか――
「さて……」
まるで頃合いをはかっていたかのようにホーキンスが口を開いた。
「それでは続いて、我がエージェントアカデミー95期の卒業生発表に移らせていただこう」
エイジは一瞬、ホーキンスが何を言っているのか理解出来なかった。
卒業生発表?
たった今終わったばかりじゃないか――
周囲も俄かにざわめき始めていた。
「えー……君たちは何か勘違いをしていないかね? 先ほどまで取り組んでもらったゲームは卒業試験には間違いないが、あくまでゲームだ。ゲームの勝ち負けと卒業の可否はまた別問題だ」
ざわめきが一層大きくなり、一面を包んだ。
生徒達の顔に希望の灯が再び点る。
やられた――
エイジは思わず苦笑いをしたが、一方で体に力が戻って来るのを感じた。
まだ、終わりじゃない――
「卒業認定者を発表する! アカデミーの終了成績順の発表とさせてもらう。まず一人目――」
ホーキンスは演説台の上に置かれた紙を両手に持って広げた。
「最終試験での勝利は残念ながら逃したが、圧巻のパフォーマンスを見せてくれたサクラバ・エイジ!」
おおお!
場内から大きな歓声が上がった。
「きゃあああ!」
後ろのユウは悲鳴ともとれるような声を上げてエイジに抱きついた。
フォックス、オーリーもエイジのもとに駆け寄り祝福する。
「やったな、エイジ!」
「おかしいと思ったよ、お前が卒業できないなんてな」
「……ありがと、な」
エイジはまだ現実味を感じられていなかったが、周囲の祝福に一応の反応を返した。
「次点、最終試験でリーダーとしてチームを見事勝利に導いた、カイゼル・ジョイス!」
再びの歓声。
だが、エイジの時に比べれば幾分小さかった。
それも当然、文句なしの選出でサプライズ感はない。
ホーキンスは続々と卒業生の名前を呼び上げた。
その中にはユウ、フォックス、オーリーと、同じチームで戦った4名の名前もしっかり含まれていた。
最終的に読み上げられた名前は18名。
ここに、新たに18人のプロエージェントが誕生することになった。