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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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響くベルの音

「まだ始まって30分も経ってないのに……」

「もう動き出してる奴らがいるってことだ。そしてこの速報を聞いて全体の動きはさらに加速していくだろうな」

「どうしよう……」

「落ち着けお前ら。ゲームはまだ始まったばかりだ。あと30時間以上もあるんだぞ。それに虹玉は奪われたって終わりじゃない。取り返すことだって出来るんだ。とにかく明日の17時時点に照準を合わせろ」

エイジは冷静にチームを仕切る。


 直後、速報を伝え終わったかと思った虹玉が再び音声を発し始めた。


「続いて、ここだけのマル秘プレミアム情報をお伝えします」


 ……!


 一同は一斉に虹玉の方に振り返った。


「とある公園のベンチの裏に、このゲームを有利に進めるヒントがあります。その公園は暗がりととっても仲が良い。繰り返します」


 虹玉から流れる音声は同じ言葉を繰り返した。


「とある公園のベンチの裏に、このゲームを有利に進めるヒントがあります。その公園は暗がりととっても仲が良い。では、今回のマル秘プレミアム情報はここまでです。幸運を祈ります」


 そう言うと虹玉の音声はぷつりと途絶えた。

 しばし沈黙が流れる。


「プレミアム、情報……?」


 ユウがぽつりと言葉をこぼし、沈黙を破る。


「ゲームを有利に進めるヒント……」

「罠という可能性もあるな」

「えっ」

「全員をその場に集めて戦わせようという罠かも」


 フォックスは今の放送を聞いて訝しげな表情を浮かべている。


「どうだろう、俺はこの情報は活用したい」


 エイジはフォックスと異なる意を示した。


「まず、さっきのプレミアム情報が全ての虹玉に共通だという確証はない。色によって得られる情報が違うのであれば玉を多く集めることにはさらにメリットがあることになり、ゲームは活発化するだろう。俺が運営側だったらそう働きかけるな」

「確かにな」

「これからもこの虹玉からは定期的に情報が発信されるんだろうな。玉を失うということは、大きなハンデを負うことになるみたいだ」

「持つ者、持たざる者でどんどん格差が出来ていくわけか」


 オーリーが合わせる。


「なんだか、この世の縮図みたいだな」

「へっ、かっこいいこと言いやがって。まあ何にせよ、俺はその公園を目指したい。機会を逸することこそ最大のリスクだと思う」

「うん、そうしよ。賛成。でも、暗がりととっても仲が良い公園って……」


 ユウが唇に指をはわせて考え込む。


「あっ、そう言えばこの建物に入ったとき、1階のホールにマップがあった気がする!」

「さすが。よし、見に行くぞ」


 エイジ達は階段を降り1階へと向かった。

 小広いホールを見渡すと、正面奥にパネルが備え付けられマップが表示されていた。


「公園は……っと」


 マップに近付くと4人はすぐさま公園と思われる場所を探し始めた。


「ん、何個か公園があるみたいだな……」


 フォックスが素早くマップを見渡して告げる。


「となると鍵になるのは……」

「暗がりととっても仲が良いっていうワードか」


 4人は各々マップ上の公園を見渡していく。


「ん……」


 オーリーがとある公園に目を留めた。


「ここじゃないか? サンセットパーク」

「サンセット……日没か! 暗がりととっても仲が良いってのと確かに一致するな」


 フォックスも同意する。


「さすが、オーリー!」

「おそらくサンセットパークを指してるとみて間違いないだろうな。よし、そこに向かうぞ」


 エイジが号令をかけ、一同はサンセットパークに向けて出発した。

 サンセットパークまでは距離にして2kmほどと、幸いにもそこまで遠くはなかった。


 先ほどの速報によれば、既に虹玉を奪われたチーム・奪ったチームが出ている。

 それが戦闘によるものなのか、何か他の経緯を経てのものなのかは分からないが、既にチーム間での接触があったことは間違いない。

 エイジらは用心深く辺りを伺いながら歩を進めた。

 公園までの道中は開けた道が多かったが、幸か不幸か他のチームには遭遇しなかった。


「ここだね」


 ユウが公園の入り口に立て付けられた看板を見つけた。

 そこには確かに“サンセットパーク”の文字が記されている。


 一同は公園の中を見渡した。

 所々に木々が立ち並び、中央にはモニュメントのような像が造形されていた。

 他の人の姿は見当たらない。


「おっ、あそこ」


 フォックスが公園の中の一角を指差した。

 そちらに目を向けると木製のベンチがぽつんと1つたたずんでいた。


「あれか」


 公園内には他にベンチらしきものは見当たらない。

 フォックスが見つけたベンチが、先ほどの放送で指示されたベンチとみて間違いはなさそうだ。


 エイジを先頭にそのベンチのもとへ向かう。

 何の変哲もない、3人ほどが腰掛けられるシックなベンチだ。


「さっき何て言ってたっけ? ベンチの下?」

「確か裏だったような……」


 オーリーはそう言うとベンチの裏に回り込んだ。


「おかしいな、何もない」


 エイジ達もオーリーに続いてベンチの裏へ回ったが、特にこれといったものは何もない。


「ここじゃないのか?」


 エイジも頭をかしげる。


「ちょっと待って、もしかしたら……」


 そう言うとユウはベンチに手を置くと、目を瞑り念じ始めた。

 ベンチにエアロを送り込んでいるようだ。


「おっ!」


 フォックスがいの一番に声を上げた。

 ベンチの背もたれの上からたらされた糸が、上から徐々に姿を表していった。

 そしてしばらく糸が続いた後、それにつるされた小箱が現れた。


「なんだ、これ?」


 ユウのエアロのお陰で、それまで隠されていたものが皆の目に露になった。

 ユウがそっと目を開け、ベンチから手を離す。


「早速、アカデミーで学んだことが試されたね。エアロの残滓みたいなものがちょっと目に入ったんだよね」


 エアロの力を上手く使いこなせば、今ここにないものを作り出すことも、今ここにあるものを隠して見えなくすることも可能だ。

 俗に、“ボックス”と呼ばれる能力だ。

 一流のボックス使いは、その能力が使われていることに気付かれないよう完璧にエアロの痕跡をなくしてみせる。


 今回はボックスの使用者が二流であったか、もしくは意図的にその後を残したかのどちらかだ。

 試験ということを鑑みて、恐らくは後者――


 しかしエイジら3人はそのエアロの残滓に全く気付くことは出来なかった。

 一面に広がる砂利の中から、一粒の砂金を見つけ出すようなものだ。

 ユウは本来目に見えないエアロを知覚することにかけては天才的な才能を持っていた。

 今回のように誰も気付けないようなエアロの痕跡に気付いたり、誰かのエアロの本人も知らない特徴を的確に言い当てたりといったことはざらにあった。


「でもお前ほんとによく気付いたな。普通見逃しちまうぜこんなの」


 エイジは半ば呆れながら、姿を現した小箱を手に取った。

 蓋を開けて中を覗くと、何やら小さなベルのようなものが目に入った。

 ベルはしきりに細かく揺れ、カランカランカランと小さな音を立てていた。


「なんだ、これ」


 エイジは箱の中からベルを取り出して皆に見せる。


「ベル?」

「しかし、なんかめちゃくちゃ忙しなく鳴ってるな。音は大きくないからうるさくはないけど」


 ベルは一同の視線を一身に浴びても変わることなく揺れ続ける。


「ん? ちょっと速くなった……?」


 オーリーがベルを注視しながらつぶやく。

 エイジもベルの動きに目を凝らす。


 気のせいではなかった。

 確かにベルの揺れのスピードが徐々に速まっている。


 カラカラカラカラ……

 ベルは一層スピードを増して鳴り続ける。

 エイジはその光景に何か不気味めいたものを感じ始めた。


「何だろう、何か伝えようとしてるのかな……?」


 ユウがぽろりと言葉を漏らす。


 バン!


 不意に派手な音とともにベンチの表側に衝撃が伝わった。

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