表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
22/50

贈られた言葉

「おや、あんたは……」


 男はブライスの姿を目にし、独り言のように呟いた。


「エージェント・ブライス、まさかあんたが現れるとはね」

「お前達、自分達が何をしているのか分かっているのか……? まだエージェントとして認められてもいない生徒達が集うこのアカデミーを襲うなど、鬼畜の所業だ!」


 ブライスが男に向かって一喝した。

 烈火の如き怒りを隠そうともしないブライスは、これまでの姿からは想像もつかないものだった。


「俺に言われても困るんだがね。これは偉大なる目的のための道のりだから」

「冗談もそれくらいにしろ! 何が偉大なる目的だ」


 ブライスの顔は怒りに歪んでいた。


「ブライス……どうしてここに……?」

「……たまたま近くでのミッションを終えたところでね。急にSOSを受けたものだから飛んで来たんだが……」


 ブライスは地面に横たわるリンに、険しい顔目を向ける。


「ちょっと遅かったね、エージェント・ブライス」

「黙れ!」


 ブライスは男に射るような視線を向けた。


「そんな怖い顔をするなよ。あんたと今ここでやり合う気はないんだから」


 すると男は、額に手を当てて誰かと通信を始めた。


「あ、もしもーし。ちょっとまさかのエージェント・ブライス登場で困っちゃってさ。あ、そっちも大変なんだ? 分かった、それじゃあしょうがないね」


 男は通信を終えるとこちらに向かって口を開いた。


「さすがだね、エージェント・ブライス。あんたの仲間も続々と集結してくれたお陰で、こっちはいい迷惑だ。残念だけど今回はおいとまさせてもらうよ」


 男はそう言うと一瞬で闇の中に姿を消した。

 ブライスはその後を追うことはせず、素早くリンの体の横に移動してかがみ込んだ。


「リン……!」


 エイジも痛む体に鞭を打ってリンの側に向かった。

 真上の月だけが、静かに変わらず皆を照らし続けていた。



◆◇◆◇



「みんな、揃ったようだね……」


 ホールに集まった生徒達に向かって、ホーキンスが口を開いた。

 場内は水を打ったようにしんと静まり返っている。


「みんなも恐ろしい思いをした通り、昨晩我がアカデミーをテロ集団・グラハムが襲った。開校以来初めての、到底許すことは出来ない卑劣な行為だ。しかし奴らの襲撃は、駆けつけてくれたエージェント達のお陰で幸いにも短時間で食い止められた。彼らに心から感謝の念を捧げよう」


 ホーキンスはそう言うとしばらく間を取った。


「しかし、奴らがすぐに引き下がったことをただ喜ぶことは出来ない……皆に悲しい知らせを伝えねばなりません」


 場内の生徒達は呼吸を忘れたかのように息を詰め、壇上のホーキンスを食い入るように見つめている。


「グラハムの1人の銃撃を受け、リン・フェリックスが命を落とした」



◆◇◆◇



 生徒達がホールに集まりホーキンスの言葉を聞く中、エイジはアカデミーのとある一室の椅子にぐったりと腰を降ろしていた。

 机を挟んで向かう正面には、ブライスの姿があった。


「リンのことは、本当に残念でならない……」


 ブライスの言葉が虚しく部屋に響く。

 エイジは下を向いて俯いている。


「私があとちょっとでも早くあの場に着いていたら……」

「俺のせいだよ」


 エイジが俯きながらも口を開いた。


「俺が弱いからだ……俺がブライスみたいに強ければ、リンは死ななくてすんだんだ」

「何を言ってるんだ。君は何も悪くない……そう自分を責めるな」


 下を向いて俯くエイジの目から、大粒の涙が垂直に落ちていった。


「俺、悔しいよ……何も出来ない自分が悔しい……何がヘッドの息子だよ、なあ?」


 ブライスの目が少しだけ見開かれた。 


「……そうか、知っていたか。そのことはその内私の口から伝えようと思っていたんだがね」

 

 そう言うとブライスは手元のカバンの中に手を入れ、丸い水晶のようなものを取り出した。


「何を……?」

「これはボイススフィアと言ってね。声をこのスフィアに込め、自由に再生することが出来るんだ。このスフィアには……君の父親、サクラバ・ガイから君宛てに贈られた言葉が録音されている」

「えっ……」

「あいつが俺の存在を知る時が来たらこれを渡してくれ、とヘッドから私に託されていてね。その時が来たということだ」


 ブライスはエイジに向かってスフィアを差し出した。


「さあ、受け取ってくれ」


 エイジはゆっくりと手を差し出し、そのスフィアを受け取った。


 この中に、親父の声が……?


「スフィアに向かってエアロを送るんだ」


 エイジは右手にスフィアを包んで念を込めた。

 すると、スフィアがぱっとエメラルド色に光り出し、中から野太い男の声が響き始めた。


『よう、エイジ。元気にしてるか?』


 初めて耳にする声。

 だがどこか懐かしくすら感じるのが不思議だった。


『俺はお前のことを知ってるが、お前は俺のことを知らないだろう? これでもまあ、列記とした血の繋がった親子なんだぜ。だからまあ、めんどくさがらずに俺の話を聞いてくれ』


 声の主、ガイはマイペースに話し続ける。


『お前は今、エージェントになるためにアカデミーに通っているところだろう? はっきり言って俺はお前に期待している。ヘッドである俺の息子なんだ、中途半端なエージェントになるわけがねえ。それにお前には、世界を救う特別な力が眠っている。俺にもない、お前だけの力だ。世界はこれから大きな危機に直面するだろう。その時にお前の力が絶対に必要になる。だからエイジ、いや、息子よ――』


『俺と会うその時までに、ぶっちぎりのすげえエージェントになっていろ。いいか、これはお前の父親からの唯一の言い付けだ。後にも先にも、唯一の俺からの命令だ。ははっ』


『立派なエージェントになったお前と会えるその時を、楽しみに待ってるぞ。じゃあな、息子よ』


 その言葉を最後に、スフィアは声を出すことも、光ることもぱったりとやめた。


「これが、俺の親父……」 

「どうだ、なかなか豪快な男だろう。これが我れらがファミリアのヘッド、サクラバ・ガイだ」


 エイジは父親から贈られた言葉をじっくり噛み締めていた。


「俺、なるよ。ぶっちぎりで凄いエージェントになってやる。自分の親父をがっかりさせるなんて、男じゃねえもんな。それに……もう誰も、俺の弱さのせいで失いたくねえ……あんな惨めな思いはもう懲り懲りだ」

「エイジ……」

「今度親父に会うことがあったら、言っといてくれ。あんたの想像以上のエージェントになって、息子が会いに来るってな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ