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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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衝撃と焦燥

「君は……我らがファミリアのヘッド、サクラバ・ガイの息子だ」


 エイジの体内を雷に撃たれたような衝撃が走った。


 俺の親父が、ファミリアのヘッド……?


「何ふざけたこと言ってんだよ……俺の親父はもう死ん」

「本当にそうと言い切れるのか? 本当に自分の父親が死んだと、証明できるか?」


 カイゼルがエイジの言葉を制す。

 エイジは反論することが出来なかった。

 頭に浮かぶのは母親の顔だ。


 あなたのお父さんはもう天国に行っちゃったのよ――


 幼い頃にそう母親から伝えられて以来、その言葉を疑うことすらなかった。

 自分の父親はもうこの世にいない、そのことを揺るぎない事実だと受け入れて生きていた。


 しかし、それは事実ではなかった……?


 母親は自分にこの世界のことも隠していた。

 もしかしたら、親父のことだって――


「ユウ」


 エイジは、側で言葉を呑んで2人のやり取りを見つめていたユウに呼びかけた。


「なに……?」

「ファミリアのヘッドの名前、本当にサクラバ・ガイなのか……?」


 ユウは一瞬言葉に詰まったが、意を決したように口を開いた。


「……うん、ほんとだよエイジ。エイジの名字を聞いた時、もしかしたらって思ったんだ……」


 入学の日のユウの驚いた顔を思い出す。


「でもエイジはお父さん死んじゃったって言ってたから……私そういう話に疎いから何が本当かわかんなくて混乱しちゃって……それで後で他の子達にも聞いてみたんだ。そしたら、あいつはヘッドの息子だって言う子が何人もいてね……ごめんね、なんかこそこそと……」

「いや、全然いいよそんなのは。言い辛いことだろうし」


 どうやらカイゼルの話の信憑性は高いようだ――


「はあ、まいったな。いきなりこんなこと言われちゃあ。頭がクラクラする」

「やっと自分が置かれた立場が分かったか。これ以上恥ずかしい姿を見せるのは勘弁してくれ」


 カイゼルはそう言葉を吐き捨てると、踵を返してその場から立ち去った。



◆◇◆◇



「さあ、みんな揃ってるかな?」


 教官のオンドルがアリーナに集まった一同を見渡しながら口を開いた。

 昼休憩が終わり、午後の講義が始まった。

 

 エイジは先程カイゼルに言われた言葉の衝撃を引きずっていた。

 

 親父が、生きてる――? 


 いつも以上に講義に入り込めない。

 そんなエイジの内なる動揺はどこ吹く風で、生徒たちはオンドルの言葉に興味津々に耳を傾けていた。


「いよいよみんなのお楽しみ、魔法の力“エアロ”についての講義だ。人知を超えた目に見えざる神秘の力、それがエアロだ。その力は使い方次第では天使にもなれば悪魔にでもなる」


 オンドルの顔が幾分か真剣さを増した。


「唯一その力を自由に使うことを許された存在であるエージェントは、当然ながらこのエアロを自在に制御して使いこなせねばならない。これはエージェントにとって避けては通れない最優先の課題だ。だが、そのエアロについて学ぶ前に知っておかなければならないことがある」


 オンドルがそう言い、右手を後ろのパネルにかざすと“クラウド”という文字が浮かび上がった。


「クラウド……この存在について理解しなければエアロを使いこなすことは出来ない。このクラウドとはいったい何なのか? それは、私達の中に存在するもう一人の内なる自分だ」


アリーナが少しざわついた。


「固い言い方では分人と呼ばれたりもする。この内なるもう一人の自分・クラウドは、人格も感情も持っている。そして何より、そのクラウドが有する特殊な力がエアロに他ならない。クラウドはあらゆる人の中に存在している。ただそれが目覚めるか、永遠に眠ったままかの違いだけだ。後者の場合、エアロを使うことは叶わず、このアトランティスに存在することは認められない」


 自分の中にもう一人の自分がいる……?

 そんなことが本当にあるのだろうか?


 他の生徒たちも驚きと戸惑いがないまぜになったような表情を浮かべている。


「君らはこの世界で暮らしている以上、少なからずこのクラウドが目覚め、エアロの力が体内を巡っているということだ。今からその力の存在を確かめていこう」


 エイジは徐々にオンドルの言葉に引き込まれていった。

 ブライスと出会って以来、さんざんこの力の理解を超えた凄さを目にしてきた。

 その力に自分も本格的に触れる時が来たのだ。


「クラウドは大きく7種類に大別され、その種類によって使えるエアロの力も変わってくる。その7つの区分を“カラー”と呼ぶ。もちろん同じカラー同士でも個々人でエアロの力は変わって来るがね」


 オンドルはそう言うと教壇の下から大きな麻袋を取り出して机の上に置いた。

 袋の中に手を伸ばし、中から手の平サイズの透明な玉を取り出した。


「じゃあ、こいつを皆に渡そうか」

 

 オンドルはその透明な玉を1人1人に配り始めた。


「みんな、この玉を持ってるな。こいつは虹玉と呼ばれる玉でな、エアロに触れると色が変容するんだ。見ててくれ」


 オンドルはふっと虹玉を宙に放り投げた。

 しかし虹玉は重力に従うことなく、空中に浮遊している。


 その虹玉に向けてオンドルが右手をかざした。

 すると次第に、透明だった虹玉が色を帯び始め、やがて鮮やかな藍色に染まった。


 おお、と一同から歓声が上がる。


「どうだい、色が変わっただろ。私の色は藍。この色は高潔・神秘を表す。藍色のエアロの持ち主は自らや周囲のものを隠すステルス能力に秀でている。潜入系のミッションでは重宝される能力だね。さあ、みんなもやってみよう。私みたいに浮かべたりしようとしなくていいから、手に持ったまま念じてみよう」


 早速各々が手の平に虹玉を乗せ始めた。

 その後目を閉じる者、開けたままじっと虹玉を見つめる者それぞれタイプが別れたが、皆一様に虹玉に向かって集中して念じ始めた。

 エイジも例に漏れず虹玉に意識を集中させた。


「変わった! 黄色だ!」


 少し離れた位置から興奮した声が上がった。


「俺も変わった! 赤色だ!」

「私は紫!」


 続々と歓声が上がり始めた。

 エイジはちらりと横を見やった。

 ユウの虹玉は全く色を変えず、透明なままだった。


「あれ、お前まだ色変わってねえのか」

「そっちこそ」


 確かにエイジの手の虹玉も色を変えず透明のままだった。


「よーし、自分の色が分かった者から私に報告に来るように」


 周りの同期達はぞろぞろとオンドルの元へ向かい、色の報告を始めた。

 オンドルは報告内容を手元のタブレットに入力している。

 エイジはあせった。


 なぜ? なんで色が変わらない?


 それは隣のユウも同じようだった。


「あれっ、何で」


 戸惑いを顔に浮かべながら必死に虹玉に念を送る。

 しかし2人の虹玉は一向に色を変える気配はなかった。


「さて、まだ報告に来てないのは……」


 オンドルが手元のタブレットに目を通し、顔を上げた。


「エイジとユウ、2人だけだね……あれ、どうした二人とも?」

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