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デス・エージェント―死の代理人  作者: 金城 ユウ世
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空飛ぶタクシー

 ホーキンスは口角を上げて微笑むと、右手で階段下のとある一角を指差した。

 そこには空中に液晶パネルが浮かび、数名の人々が列をなして並んでいる。

 パネルに表示されている文字は全ては視認できなかったが、一番上に大きく表示されているエアタクシーという文字は読み取ることが出来た。


「エアタクシーって言うのか?」

「そうだ。そしてあそこがその乗車エリアさ。順番待ちのようだが、エアタクシーは頻繁にやって来るからそう長く待つことにはなるまい」


 2人は階段を降り、エアタクシー乗り場の列に並んだ。 

 列に並び待つこと数分、前の乗客がエアタクシーに乗り込み、エイジらが列の先頭に出た。


 前方にはバーが水平に降りており、それより先には進めなくなっている。

 バーの向こうは長方形の駐車スペースで、待機列以外の3方には先がなく、空中が待ち受けている。

 さながら、ヘリポートならぬカーポートだ。


 その100mほど下にはハイテクノロジーに支えられる大都市が広がっている。

 バーの横に浮かぶ電子パネルが次の到着までの時間を示す。

 あとわずか30秒後にタクシーがやって来るようだ。


「いよいよだね。ワクワクするかい」

「これ、落ちたりなんかしないよな……?」

「はっはっは、安心したまえ。エアタクシーの開業以来そんな事故は未だかつて起こったことはないよ」

「いや、そうは言っても……」


 エイジははるか眼下に広がる景色に目を向け、顔を引きつらせた。

 エイジがなんとか心の準備をしようとしている最中、頭上の空中からエアタクシーが接近して来るのが目に入った。


 タクシーは徐々にスピードを落とし、やがてゆっくりとポートの上に停まった。

 電子パネルがポーンという軽快な音を鳴らし、水平に降りていたバーが上に上がった。


「さあ、乗ろうか」


 ホーキンスがポートの中に足を踏み入れると同時に、車の後部座席のドアが空いた。

 慣れた様子で車に乗り込むホーキンス。

 エイジも恐る恐るそれに続き、ホーキンスの隣に腰を降ろした。

 ばたん、と独りでにドアが閉まる。


「ご乗車ありがとうございます。目的地は、どちらでしょうか?」


 運転手がこちらを振り返り尋ねた。


「モンサンシティの2番街、23番地までお願い出来ますかな。ちょうどホライゾンストリートに面した3階建ての家の前まで」


 見たことも聞いたこともない地名だが、運転席の男は「かしこまりました」と意図が伝わったことを示した。


「そうだ、この隣の彼はこれが始めてのエアタクシーなんですよ。ちょっと怯えているみたいだから、安全運転でお願いしますね」

「それはそれは」


 男は声を1トーン高くして答えた。


「初乗りのドライバーとなれて、光栄でございます。快適な旅となるよう尽力致します」


 男は運転席の横のレバーを握り、「よっ」と声を発した。

 するとレバーが青白く光り始めた。

 光を確認すると再びレバーから手を離し、ハンドルを両手で握り締める。


「それではエアタクシー、出発致します。しばらくは万が一に備え、それぞれ左右にある手すりにおつかまりください」


 エイジは言われるがまま、左にある手すりを掴んだ。

 再び男が「よっ」という声を発したかと思うと、車がぐんっと勢い良く前に進み始めた。

 すぐ目の前は何もない空中だ。


 落ちる――


 エイジは咄嗟に目を閉じ、手すりを強く握り締めた。


 数秒間の漆黒。


 しかし、車体は平行のままでバランスを失っていないようだ。

 エイジは恐る恐る目を開けた。


 車は、文字通り空を飛んでいた。

 エイジらは何100kgもあるはずのこの鉄の塊とともに空中に浮かび、人が全力で走る何倍ものスピードで前に進んでいた。


「すっげー、ほんとに空飛んでるよ……」

「空の旅はいかがですかお客さん」

「いや、まだ全然慣れないな……」

「ハハハ、しばらくの辛抱ですよ。慣れてしまえば何てことない、自転車にでも乗ってるくらい気軽になりますよ」


 エアタクシーは進む。

 そのわずか数メートル横を、こちらに向かって進んできたもう1台のエアタクシーがひゅんと通り過ぎた。


 ほんとにぶつかったりしないのかこれ……?


 エイジは内心冷や汗をかいていた。



◆◇◆◇

 


「ホライゾンストリート、見えました」


 運転手の男が前方を指差しながら声を上げた。

 エイジは少し身を乗り出しながらその方向に目を凝らした。


 すると、多くの人が行き交う大通りが視界に飛び込んできた。

 カラフルな建物が散見され、通りは賑やかさ・華やかさで溢れている。


「すっげー……」


 エイジはその光景に思わず声を上げた。

 もとの世界で例えるならどこだろう、ロサンゼルスだろうか?


 改めて通りを行く人々に目を向けると、何やらキックボードのような乗り物に乗って道を進む人々がいることに気付いた。

 地上が近付いてその姿がより近くに見えるようになると、その乗り物がキックボードとは似て非なるものであることが分かった。


「う、浮いてる……」


 キックボード似の乗り物には車輪がなく、ボードが地面から水平に20cmほど浮き上がっていた。


「何を驚くことがあるかね。今まさに君は空飛ぶ車に乗っているというのに」

「どうしてこの世界はこんなに簡単にものが浮くんだよ……」

「常識を疑う心、ここから先は常にその心を忘れずにいよう」


 車はいよいよ地上に近付き、スピードを大きく緩めていた。


「あそこのお家で間違いないですかね?」


 運転手が右手を上げて、前方に見える一戸建ての家を指差す。


「はい、ご名答」

「かしこまりました」


 車はゆっくりと地上に向けて高度を落とし、家の前の通りにある円形のカーポートの上に着陸した。

 周りを見渡す限り、このようなカーポートはある一定の間隔で街中や通りに設置されているようだ。


「いやあ、ナイスドライビング。快適な旅でしたよ」

「何をおっしゃいますか、プロとして当然のことですよ」

「またお世話になる時があればよろしくお願いしますね」


 ひとりでに扉が開き、エイジとホーキンスはエアタクシーから降車した。

 カーポートは通りから1mほど高い場所にあり、階段で地上とつながっている。

 階段を降りると目の前にはモダン調の三階建ての家が待ち構えていた。


「さあ、着いたぞ。ここが私の家だ。なかなか洒落てるだろう」


 ホーキンスはそう言うと家の門の前に向かった。

 門の入り口には電子パネルが埋め込まれており、ホーキンスは例の如くそのパネルに向かって手をかざした。

 パネルは虹色の光を放ち、直後、門の扉が両側に開いた。


 この世界ではセキュリティを解除する際に、この一連の流れが慣例になっているのだろう。

 それにしても、あのパネルは何を元にその人を判断しているのだろう……?


 エイジはホーキンスに続いてその門をくぐった。

 門を入ると小奇麗な庭が広がっており、玄関まで石畳の道が続いていた。


 石畳の道の上を進み家の中へ入ると、背の高い女性がエイジらを待っていた。

 黒髪の綺麗な顔立ちの美人だ。


「ようこそ、待ってたわよエイジ」

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