異世界召喚編-2
実在の人物・団体・宗教とは一切関係ありません。
「さて、ここについて見覚え、又は、知っていることとかあるか?」
そう、ハルトはユーマとシズクに尋ねる。
「いや、全くだ」
「ごめんね?私もないかな…」
「やはりそうか…じゃあ、ここに飛ばされる前で覚えていることはあるか?」
ほぼ予想通りの答えに表情を変えることなく次の質問に移る。
そんな彼の反応にこちらも普通に答えるユーマとシズク。
ヒロキのやや冷めた物言いは初対面の人物には近寄りがたいイメージを与えがちだが、人生の7割8割を彼とともに過ごしてきた彼らからすればなんてことはないいつもの日常の光景なのだ。
「直前のことは覚えてないが確か俺ら飛行機に乗ったよな?」
「うん、私もそこまでは覚えているよ、出発して早々にユー君寝ちゃったよね?」
「そうだったか?」
「あぁそうだ、確か、寝不足だったんだっけ?全く、旅行が楽しみで寝られないとか小学生かよ」
「で、でも、2週間の海外での修学旅行だもんね、私もなかなか眠れなかったし仕方ないよ」
と、とぼけるユーマにツッコむハルト、そしてフォローをするシズクと、先ほどよりも和やかにやや話が脱線しながら最近の記憶を思い出し始めた。
昨今のグローバリズムにともない、学生のうちから世界の文化に触れるべき!という風潮に対しある一定の(この線引きは公用語である英語を国家の定めた高レベルの教育を行っているという条件付きだが)学力を有する高等学校では2年時における修学旅行に海外を選択する教育機関が増えていた。
そのため藤ノ宮学園でも二年時の修学先を海外にしていた。
つまり藤ノ宮学園は高レベルの進学校であるというわけだ。
(俺らは確か修学旅行のために飛行機に乗っていた、それは確かだ。
だが、おりた記憶がない…さらにこんな大草原に移動してないし、こんなところに来る予定はなかった)
「でも、飛行機が離陸したのは覚えているいけど到着したのは覚えてないかも…」
「シズクもか?」
「うん、それは確かだよ、私は寝なかったし」
ここで同じことを考えていたユズハに確認を取りさらに困惑し始めた。
シズクは一度見聞きしたことは、なかなか忘れないという体質であり、その記憶力はすさまじい。そのシズクが断言したのだ「本当に自分たちはどこにいるのか?」と疑問が疑問を呼びハルトの思考が堂々巡りを始めたとき、ふと静かになっていたユーマを不思議に思い視線を移したときその異様ともとれる雰囲気にハルトは驚き、あたりを見渡した。
ユーマは立ち上がり、ハルトとシズクを背中に隠すように立ち、10㍍ほど先をジッと見つめている。
ハルトもつられてそちらを向くとそこには白髪で長い白鬚を持つ老人が姿を現していた。
ハルトは素早く立ち上がりユーマの横に立ち、老人を見つめた。
老人は70代後半に見えるが、しっかりと両足で立ち、その雰囲気は神々しいと言ってもいいほどでどう見ても日本人ではないことは明らかだった
「注目せよ。」
決して大きな声では無かったがその言霊は有無を言わさないという意思を強く感じられ、ハルトは全身が強張るのを感じた。
ユーマもそうであるのだろう、視線はその老人から外してはいないが、やや肩が震えている。
他の生徒も同様にその老人に視線を移している。
きっと、皆この老人が今の状況の説明があるのだろうと理解しているみたいで、言葉を発する者は誰一人いなかった。
「私の名は『ゼフィロス』貴公たちの言語では『世界の創造主』という言葉が一番あてはまるだろう、もちろん貴公たちの住む地球の神ではないがな。」
そう俺たちに宣言したゼフィロスは俺たちを順番に見まわした。
そして何人かの冷たい、哀れむような視線を受けながら、全く意に返した素振りを見せず彼はある言葉を続けた。
「つい1時間ほど前に貴公達はその命は往生した。」と。
「…は?」
唯一発せられた言葉はそれだけだった。
突然のことに頭が付いていかなくなった。
往生とは仏教用語の一つで『死』ということを表す。
つまり、この老人はここにいる四十余人の学生全員が死んでいると言ったのだ。
そんなことはあり得ない、と考えた時点である仮説が脳内を埋め尽くした、【記憶の中の空白の時間。】【地球上では見ることのない景色】【ここの全員が飛行機に乗っていたという事実】等のことから求められた最悪の事態…
「ひ、飛行機事故…」
そう、無意識に口から出た言葉にこの空間にいた全員(四十余人)がハルトに視線を集めた。
「おい!それはどういうことだ!」
そう怒気交じりにハルトに詰め寄ってくる男子。
名前を『加瀬 紘樹』身長は173㎝の黒髪黒眼で中肉中背。
あまりこれと言って特質することもない人物で、しかもハルトとは今年初めて一緒のクラスになったため、あまり彼の人となりを知らないハルトからすると、あまりにも突然の怒号に驚き、返答のタイミングを逃してしまった。
そしてそんなハルトに変わり横にいたユーマがヒロキを制しさせる。
そしてユーマのおかげで何とか気持ちを切り替えたハルトは、呼吸を整えヒロキに答えた。
「そういう可能性がある言う話だ。俺だってそこの自称神の言葉をすべて鵜呑みにしているわけじゃない。」
そう言い視線をヒロキから老人へと移した。
…もちろん、信じてはいないが消えている記憶が戻らない以上完璧な否定もできない…
それに死んだという証拠もない
そんな時、ある男子が自称神の老人に声をかけた。
「すみません、ご老人よ。我々が死んだという証拠はあるのでしょうか?」
と、この学園きっての秀才の『阿部 健也』がハルトの考えていたことを丁度質問していた。
「やはり、口頭では信じられんか」
そう言うと老人は悔しそうに顔を歪めパチンッと指を鳴らした。
その瞬間ある映像(正確には記憶なのだが)が脳内に流れた。
そこには小学生の男の子を人質に取ったテロリストのような4人のグループが映っていた。
「うああぁぁああ!!!」
その記憶がよみがえった瞬間、周りから多くの悲鳴が上がった。
それもそうだろう、いくら何でもまだ17歳の若者だ、それがいきなり自分の死んだ時の記憶を見せられたら発狂しても仕方ない。
「うおっ!!」
現にハルトもあまりの衝撃に周りを見る余裕も無くし、地面に突っ伏し口を押え、こみ上げる嘔吐感を必死に抑え込んでいる。
この時テロリストの行ったのは自爆テロといわれるものだった。
だが、ハルト達は席を立つことができなかったため、どんなやり取りがあったかは全く分からないが飛行機の落ちる感覚や爆発に巻き込まれる死が確実に訪れる恐怖というものは否が応でも思い出してしまった。
そしてまたパチンッと音が鳴り、こみ上げていた嘔吐感は徐々に消えていった。
きっと神が何かをしたのだろうと、さすがにここまで現実を突きつけられたら信じるしかないだろう。
あの白髪の老人は正真正銘の『神』であり、自分たちは死んだ…という事実を
何とか嘔吐感が収まったことを確認し、ハルトは立ち上がった。
しかし、思い出してしまった『死』への恐怖はそう簡単になくなるものではない。
現に今、立ち上がっているのは5人程で、顔を上げている者を入れても10人いるかどうかだ。後は、うずくまっているか、横になっているかでとても正常とはいいがたい。
そして立ち上がっているものでも皆身体が恐怖で震えている。
「今は私の力で記憶自体は封印してある、もう思い出すことは無いだろうから安心してほしい。だが、これで信じてもらえたであろう…」
「あぁ、これで信じないやつは流石に能天気すぎる!」
「…!」
神の独り言に近いつぶやきにハルトは反応した。
聞こえないと思っていたのか、聞こえても返事ができるような精神状態のものがいると思わなかったのか、どちらにしても驚いた表情を浮かべた神は返事をしたハルトの方を見ていた。
そしてこちらを向いた神は個人に対して初めての質問を行った。
「お主の名を聞いてもよいか?」
「もちろんですとも、ゼフィロス様。 私の名前は『九条 陽斗』です、以後…があるかわかりませんがお見知りおきを。
そしてこちらからも質問をしてもよろしいですよね?」
と、ハルトは先ほどのショックで体はふらふらさせていたが、神の質問に正直に、それでいて強気の姿勢で返答した。
まあいきなり死に際の記憶を見せられたのだ、いくら死んだのがこの神のせいではなく、八つ当たり気味になったとしても仕方はないだろう。
「もちろんだとも。」
そんな彼の気持ちをわかっているからだろうか、神はその態度を気にも留めず、話を進めた。
「では、死んだ我々をここに呼んだのはなぜですか?」
「それは…これから貴公達に異世界…私の創った世界に行ってほしいからだ」
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