異世界生活編 3
遅くなりまして申し訳ございません。
最新話更新です。
ようやく話が動き出しそうなそんな予感です。
少しでも楽しんでいただけると幸いです。
「さて、ジャック君でいいか?君はあんなところで何をしていたんだ?」
ハルト達はブラスターウルフとの戦闘地から10分ほど離れた所を街の方へ歩きながら簡単な自己紹介の後、本題へと入った。
ハルト達はあの場所でと思っていたのだがジャック君が血の匂いに誘われてあたらしい魔物が襲ってくるかもしれないと言ったので、近くの街を目指し歩きながらハルト達は話を始めた。
この時、旅人ならこれくらい知っているだろ?的な目を向けられたがそこは華麗に無視した。
「ジャックでいいよ、ハル兄。」
「そうか?じゃあジャックは何をしていたんだ?ここが危険なことは知ってるようなかんじだったが?」
ハルトの疑問に少し答えづらそうに俯いたが、すぐに顔を上げ詳しく話し出した。
「…ここに来た目的ってのはこの森の奥にある教会に行っていたんだ。」
「教会ってあの古びた教会か?女神像のある?」
「そうだよ。ユー兄知っているのか?」
「そりゃあ、まぁ…な」
…驚くのも無理ないか、十中八九ジャックの言う教会は俺たちの召喚された教会だろう。
まさかあそこに人が来るとは…召喚時に居合わせなくて幸運だったな。
そんなことをハルトは思いながらジャックの話を聞いた。
「そっか、そこの教会がこの世界を作った女神様が自分の力の一部を使って建てた教会ってことでそこに行けば願いが叶うって古い言い伝えがあるんだよ。…まぁ今そんな言い伝えを信じる奴なんていないけどな。」
そうジャックは自嘲しながら答えた。
「でも、ジャック君はそれを信じたってことは、そこまでしても叶えたいものがあったんでしょ?」
「まぁ、そうなるのかな?」
ジャックはやや顔を紅潮させ、口ごもるように答えた。
「あっ、その反応は女の子関係かな?好きな子のこと考えてた?」
「なっ!?ちげぇよ、シズク姉!誰がマシューのことなんか!」
「おぉ、マシューって誰かな?その様子だと彼女って感じではなさそうだけどぉ?」
「マ、マシューは家族だ、か・ぞ・く!そんな関係じゃねぇよ!」
「えぇ!?きょ、兄妹はダメだよ!?そんな禁断の恋なんて!?」
「だ~だからマシューは同じ孤児院の家族だから血のつながりは無いの!だから結婚もできるよ!」
「「おぉ~」」(パチパチ)
シズクの天然の誘導尋問に見事に引っかかり、教会に行った目的と好きな子の名前を暴露し、そしてその子とどうなりたいかまで男らしく宣言したジャックにそばで聞いていたハルトとユーマは感嘆の声と惜しみない拍手を送った。
「はっ!嵌めたなシズク姉!」
「?嵌めた?」
余計なことまで口走ってしまったことに気づいたジャックは、涙目でシズクを睨むが当の本人は何を言っているかさっぱりわからないという表情で首を傾げていた。
「諦めろ、ジャック。シズクのアレは天然だ。嵌めようなんて全く考えてない。怒るだけ損だぞ。」
「ユー兄…」
「それに孤児院だったんだな。悪いな変なこと聞いて。」
「そこは別に気にしてないぜ。孤児院って言ってもシスターは優しいし、家族もできた。毎日楽しんでいるからな!」
「それと大切な人もか?」
「ユ、ユー兄までそれ言うか!?」
「ハハハ、悪い、悪い。なんとなく人の恋路は興味があってな。」
自分の心情を理解してくれたと思っていたユーマに裏切られ最後の一人ハルトの背に隠れ、2人を猫のように威嚇し始めた
「ハル兄は変なこと言わないよな?」
縋るような目でハルトを見るジャックの頭をワシャワシャと撫でてから伝えた。
「大丈夫だ、それにそういう気持ちは大切にしたほうがいい。
2人もいい加減に悪ふざけはやめてやれ、年下をそんなに苛めてやるな。」
「はーい。ジャック君ごめんね?」
「スマンかった。」
そう言い2人はジャックに頭を下げた。
「お、おう。わかったよ。許すから頭を上げてくれよ、こっちがいたたまれないぜ。
…ハル兄ありがとうな。」
ユーマとシズクの謝罪を受け入れたジャックはハルトに小声でお礼を言った。
「気にするな、こいつらも悪い奴らじゃないんだ、たまにバカをやるが…でも許してくれてありがとうな。」
「おう!俺は大人な男になるからな、これくらいなんてことはないぜ!」
そう言って笑うジャックを見て、ハルトは地球に残してきた弟を思い出し、フッと笑うとジャックの頭をもう一度撫でた。
ジャックの恋愛話からジャックの過ごす孤児院のことやこの先の街のことなど様々なことを話ながら歩いていたため街の城壁に着いたころには空は日が山の向こうに沈み、逢魔が時から夜の帳へと移り変わっていた。
「すっかり遅くなっちまったな。」
「やばいな、絶対シスターに怒られる…」
「確かに門限とかあったら完璧に過ぎている時間だよね。」
「まぁ、そうなったら一緒に怒られよう、こんな時間になったのは半分は俺らのせいだし。」
「ごめんな、ハル兄…こんな時間まで」
「気にするな、俺たちはそんなこと気にしてないから。」
「でも、宿とかないだろ?この時間からだと宿とるのも厳しいかもよ?」
ジャックのその一言でハルト達はハッとした。
「そうだった、この街には家がないから宿を取らなくちゃいけないの忘れていた!」
「ユー兄バカだな」
「なんで俺だけなんだよ、2人も忘れてるじゃねぇか」
「まぁまぁ、じゃあ街に着いたらまずは宿屋探しだね。」
「あぁ、流石に今日は疲れたから早く寝たい。」
そんなことを話ながら城門に向かって歩いていると、城門にはいかにも【門番】というような格好の兵隊らしき2人組とその脇のかがり火に女性2人と少女1人が立っていた。
何ともその場に不釣り合いな雰囲気で20代後半ほどの女性が俯き肩を震わせている。きっと泣いているのだろう。その女性をハルト達とそう変わらない年齢の女性が慰めるように寄り添い、ジャックと同じくらいの少女も泣いてはいないが今にも泣きそうな顔で俯いていた。
そんな彼女たちを目で追っているとフッと俯いていた少女が顔を上げ、ジャックを見つけると驚いたように目を見開き、泣いている女性の服の裾を引っ張り何かを伝えている。
すると、泣いていた女性も顔を上げ、ジャックを見るとハルト達の方へ駆け寄ってきた。
「ジャック!!」
その声に反応してユーマと話していたジャックが声の方へ視線を送ると驚いた顔をした。
いきなりの女性の声にユーマとシズクは驚き、女性たちを見つめていた。
そして未だに状況についていけないジャックは駆け寄ってきた女性に抱きしめられ、困惑の声を上げた。
「シ、シスター?なんでここに?」
「なんでじゃありません、門限までに帰ってこないから探しに行ってみれば、『リムヴァイアの森』に行ったなんて言われて、魔物に襲われてないかと心配したんですからね!」
「そ、それは…ごめんなさい。」
「本当に…本当に無事でよかった。」
ジャックにシスターと呼ばれた女性は彼を泣きながら抱きしめ、頬を撫でたり、ケガがないか確認したりと、ジャックをとても大切にしていることが見てとれてた。
ジャックは恥ずかしそうに顔を紅くしているが、心配かけたことを自覚しているのか大人しく撫でまわされていた。
そんなジャックを微笑まし気に見ていたハルト達の視線に気づいたのか、少し居心地が悪そうにジャックはシスターへ声をかけた。
「シ、シスター今日は本当にごめん。でも、そろそろ離してよ。ハル兄たちが見てる…」
「ハル兄?」
ジャックの言葉で顔を上げたシスターは目の前のハルト達と目が合うと顔を赤くしながら頭を下げた。…ジャックからは手を離さずに…相当心配したのだろう。
「すみません、気が動転してしまい、挨拶もなく…」
「いえ、お気になさらず、こちらこそ彼を門限までにお送りすることが出来ずに心配をかけてしまったみたいで、すみません。」
「いえ、あの『リムヴァイアの森』から無事に送っていただいただけでも有難い事です。」
「そう言っていただけるとこちらも幸いです。しかし、彼も今日は走り回ってクタクタだと思うのでお説教の続きは一旦帰ってからというのはいかがでしょうか?もう辺りは真っ暗ですし」
ハルトはここでジャックの説教が始まるのは流石にかわいそうだと思い、シスターにそう提案した。
するとシスターは辺りを見回し。
「確かにここは城壁の外でしたね。ありがとうございます。えっと…」
「ハルトです。そしてこっちの男がユーマ。女性の方がシズクです。」
ハルトに名前を呼ばれたことでシスターのいきなりの登場で驚き固まっていた2人はハッとしそれぞれ頭を下げた。
「なぁなぁ、シスター。ハル兄達今日ここに来たばかりでまだ宿もないんだって。
うちに止めてやることできない?」
「え、そうなのですか?」
その時捕まって身動きの取れないジャックがシスターにそう報告した。
「えぇ、まぁ。でもこれから探しに行くので大丈夫ですよ。」
「いえ、流石にこの時間では空いてる宿もないでしょう、ジャックを送っていて遅れたのならこちらに非がありますしお礼もしたいので泊まっていってください。」
「いえ、しかし…」
なかなか決めかねるハルトに後ろからユーマとシズクがこっそり耳打ちした。
「いいじゃん。ここはお言葉に甘えてさ泊まっちまおうぜ?」
「そうだよ、なんならお金は払えばいいしさ?」
「だが…」
「それに俺たちこの街も世界も初めて尽くしだし、何かと教えてもらえるかもしれない。」
「まぁそれもそうだが…。
しょうがない、申し訳ありませんが、今晩1晩よろしくお願いします。」
2人に背中を押される形でハルトはシスターの好意に甘えることにした。
そしてハルト達が何とか今日の宿が決まり気を抜いていた時、シスターの後ろにいた綺麗なブロンドの髪の女の子がシスターからジャックを奪うとそのまま白く細い手で彼の頬にビンタをかましたのだった。
『パチンッ!!』
なんとか和やかムードにしようとしたハルトの思惑は早くも崩れ去り、場に一種の緊張感が廻った。
叩かれたジャックはなにが起きたのかわからず呆然と立ち尽くし、叩いた少女はその綺麗な海の様な蒼い目から大粒の涙を流し、キッとジャックを睨んでいた。
「いい加減にして、ジャック!どこまで人を心配させれば気が済むのです!」
「ご、ごめん…マシュー」
「私は謝罪が欲しいんじゃありません!身の程をわきまえてと言っているんです!
貴方が居なくなって数時間。たった数時間です!にもかかわらず、こんなにも不安で押しつぶされそうになったのは初めてです!」
「…」
「家族を失う悲しみは貴方だって知っているでしょう!それなのに!それなのに…」
今まで気丈に振舞っていたためか感情の防波堤が決壊したようにマシューと呼ばれた少女はジャックに抱き着き、彼の胸で泣き続けた。
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