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7.その夜は少し暖かかった

戦闘パート



 飛沫を上げ、ゴムのような体が弾けとんだ。凍える夜気を切り払い二対の双剣が疾走する。右から袈裟懸けに一閃。上から唐竹割りに二閃。それだけで、事足りた。

 斬、とあっけない手ごたえが伝わってくる。

 斬った対象を見据える。それは、実体の無いアメーバのような物体だった。

 透明な身体をナメクジのように這い回らせて襲ってきた、ぐねぐねとうごめく、軟体である。

 

 断末魔に身体を震わせ、のた打ち回り――そして、動かなくなった。

 弱い。

 これが、誰かの恐怖だというのか。恐らくこれは、忘れかけていた物なのだろう。もう、無いに等しい物なのだろう。恐怖は不思議なほどに無い。なぜか、怖さを感じなかった。弱い、と理解していたのだろうか。


「あらら……早い」


 間の抜けた声が耳朶を打つ。苦笑しながら振り返った先に、白い私服を着た白眉芳乃が立っていた。

 夜気が肌を撫でる。


「こんばんわ、故烏くん」


 夜の最中に白眉芳乃の声はよく響き渡る。鈴が鳴るような声。流麗な声。

 学校で関係を聞かれたことを思い出す。どんな関係なんだろうな、と胸中で苦笑することしか出来ない。彼女と恋人になった関係を思い浮かべることができなかった。


「こんばんわ、白眉さん」


 手にまとわり付くゲル状の物体を振り払いながら、挨拶を返した。


「…………違うでしょ」


「は?」


 まさか否定されるとは思わなかった。要因がわからず思わず間抜けに聞き返してしまう。するとなぜか白眉芳乃は唇を尖らせ、ぶすーっとした顔になった。

 それでも美人なのが変わらないのは彼女の愛嬌がなせる業なのか。


「よ・し・の!」


 呆れたかのような表情を顔に浮かべ、鼻先に指を突きつけながら白眉芳乃は声を発する。


「あ、あ〜あ〜あ〜……あれってまだ有効なの?」


 慌てる。


「一日限りだと思われてたのが心外だなあ」


 鼻先の指を下ろし、今度は拗ねたような仕草をとる。物腰静かな学校でのイメージがすごい勢いで崩れていく。溌剌とした態度。こちらが本当の彼女なのだろうか。


「はい、復唱!」


「よ、よしのさん……」


 気迫がこもった追撃に思わず従ってしまった。

 ……ものすごく恥ずかしい。


「さんは無し!」


「ええっ!?」


 しかしさらなる追撃が迫ってきた。顔に集中した血液のせいで手がやけに寒く感じる。まずい、これ以上やられると赤面して死ぬかもしれない……


「いや、まって!? そんな、ほら俺達会ってからそんな日にちたってないじゃん! それはちょっと問題が……」


「むう……そうね、私が故烏くんって呼ぶから堅苦しいのよね」


「話がずれてるよ芳乃さん!?」


「んじゃ……」


 こほん、と芳乃は咳払いをして。


「……雄平」


 まっすぐこちらの眼を見据え、少し節目がちにしながら口ごもるように言葉を発する。名前を呼ぶのが予想外に恥ずかしかったらしい。

 たどたどしく小動物的なオーラを発散して、体が少し縮こまった。雪のように白い肌がほんのりと桜色に染まる。

 ……え? 何この状況?

 ものすごい勢いで顔が赤面していくのが解る。『夜』の真っ只中、檻のように圧迫感を持ち、寒風吹きすさぶ四方が完全な闇の閉鎖空間で、何故にこんなことになっているのか。


「…………」


 沈黙が降りる。


「あの、私名前言ったよね?」


 このままうやむやになるかな〜と淡い期待を抱いていたのだが、どうやら流麗雹華はどうしても卑小私めに名前を呼ばせたいらしい。……意外と頑固なようだった。


「…………」


 それはまあ、確かに、友人取り巻き親友家族教師ファン渦巻く流麗雹華ならば二回しか会ったことのない人間を臆面も無く呼び捨てることが出来るのかもしれないけど、17年彼女友人なし、家族も遠出中の俺にとってはビルから飛び降りるが如し難易度なのである。

 故に、口ごもったまま、ああ、とかええ、とかいう中途半端な言葉を発するのがせいっぱいなのである。


「不公平! 今のちょっと恥ずかしかったんだから! ……同年代の男の子、さん付けしないで呼んだの……初めてなんだから」


 尻すぼみになっていく口調はもはや検事の弾劾や法的拘束力よりもこちらの心を攻め立てる圧力へとチェンジ。美人って……得だよね。


「う……」


 この罪悪感。自分の心が狭くなってしまったような錯覚。正直恥ずかしさよりも堪える。ああ、計略だろうよ! 解ってるよそれぐらい! でも、人間には多分、わかっていても回避するのが無理なことってあると思うんだ、うん。


「よ……しの」


 蚊の羽ばたくような音がようやく自分の口から放たれる。


「……聞こえないよぅ」


「芳乃!」


 もうやけくそだった。かなりやけくそだった。顔が熱い。風邪を引いた時の額と同じような熱さがかーっ、と駆け上がってくる。


「はい。雄平」


「〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」


 破壊力。もうそう形容するしかなかった。にこり、と満点の笑顔になって返された名前は、脳の奥を直撃する衝撃となる。頬から、熱が上がっていく感覚。のぼせているような感覚になる。

 どこか夢見心地。……まあ、眠った後ここに来ているわけだから間違ってないのかもしれないけど。あまりの恥ずかしさに、顔を逸らす。

 脳はどうにかこの気持ちを静めようと回転を始める。

 そうだ――


「あの、芳乃さ……芳乃」


 思わずまた、呼称が戻りかけて、芳乃の不満げに変わる表情を見て、慌てて言い直す。


「ここで、何かを探すんだよね?」


 それは最初に出会ったときに聞いた、ここから出る方法。


「ええ。ただ……」


 それが何かはわからないけど、と芳乃は本当に困ったように苦笑した。


「芳乃は俺より早くここに来ている。何かめぼしい手がかりというか……何か、無いのか? 行動の指針になるようなものが」


「さあ……化け物の戦いに背いっぱいで……こんなにゆったりしてるのは始めてのことだから……」


 申し訳なさそうに芳乃は視線を落す。


「まあ、それはしょうがないことだよ…………じゃあ歩いてみよう」


 その芳乃の仕草に罪悪感が沸く。出る方法がわからないのは自分も芳乃も同じはずなのに――とにかく留まっていても得られるものは何も無い筈だと思い立つ。

 芳乃を牽引するように一歩を踏み出した。


「そう、するしかないよね……」


 こうして二人で歩き出す。芳乃は小走りで隣に追いつき、それから歩調をあわせてくれた。

 なんともなしに沈黙が芽生える。胸の動悸も治まりをみせ、今度は居心地の悪さが侵攻してくる。とにかく沈黙を続けることは得策ではないと考える。

『夜』の底なしの闇が、会話の無い状況だとすぐに恐怖となり襲い掛かってくる。軽口をたたいていたさっきは気づかなかったが、とてつもない圧迫感が胸中に生まれてくる。

 そういえば――『夜』にじっくりと居座ることは初めてかもしれない。

 一度目はあわただしく、二度目は化け物が消えたらすぐに『夜』から吐き出された。

 この時間の差はなんなのか……それもまた疑問ではあるが、常識が通用しないこの空間においてそれを問うのは無意味なのかもしれない。

 考えられる要因としては、今こうして感覚を持って『夜』を認識している自分の身体は、日常を過ごしている体と違うらしい。

 この『夜』用の身体に適応するのに時間が必要なのかもしれない。感覚、記憶、全てを移植するのだから。

 まあ、考えても詮無きことだ……が、なんとなくこの理論で正解だという確信があった。

 芳乃の言う。『夜に入れば解る』という感覚なのだろうか。これが。――最初から、もう頭にあるという感覚。九九を改めて反芻するような――当然のことだ、という認識。

 なるほど、これは説明しにくい。喫茶店の時の自信のなさそうな表情の意味がようやく理解できた。

 もう動じないのも、この『夜』に存在するのがこの身体にとって当たり前なのだろう。


「ええと、それじゃあ……」


 会話を続けようと記憶を手繰る。

 思い出されるのは今日の放課後。


「文化祭なんだけどさ」


「え?」


 『夜』の中でそういう話をするのが予想外だったのか、芳乃の顔がぽかんとした表情に変わる。

 停滞した空気を換えるには十分だった。


「え、それって、あの……誘ってる? 一緒に文化祭を廻ってくれとか……」


 しかしその声はどんどん尻すぼみになっていく。後半の声はほとんど聞き取れないほど小さくなっていった。

 だが、何を勘違いしたのか、もじもじと手を組み合わせながら、何かを期待するような――困惑した表情になる。

 そこを突っ込んだらまたこっちも赤面しそうなので、気づかないフリをして話を進めることにした。


「それでミスコンテストがあるじゃない。俺、文化委員なんだけど、それで他の文化委員から白眉さん……じゃない。芳乃を誘ってくれないかって言われたんだ」


「あ、そうなんだ……」


 勘違いは解けたらしく、なぜかどこか残念そうな表情で芳乃は相槌を打った。


「え、でも……なんで故烏くん……じゃなくて。雄平が頼まれたの?」


「どうやらそれなんだけど……喫茶店に入ったところを誰かに見られたらしい」


「ええっ!?」


 芳乃は信じられない、といった表情で大仰に驚いた。


「そんな……そういうことには人一倍気をつけてるのに……」


 確かに、見られるようなことは無かった筈だ。尾行の気配も無かった。まあ、自分の感覚など尾行など受けたことも無い素人の弁ではある。気づかなくても矛盾は発生しない。

 だが、芳乃はそういう方向には特に気をつけているはずだ。2年生に至るまで、何のスキャンダルもなく学校生活を送っているということはそれなりに気をつけていたということなのだ。

 疑念はある。だが……現実に起きてしまっている。


「まあ、だからその喫茶店で芳乃にミスコンに出てくれるように頼んだことになってる」


「ああ、なるほど……だから朝から皆の視線がちょっとおかしかったんだ」


「芳乃はクラスメイトに何か言われなかったの?」


「雄平は……言われたんだ」


「まあ……ね。その口ぶりだといわれなかったみたいだね」


「ええ。気を使ったのかしら。信じたくなかったのか……」


 二人して苦笑する。


「解ったわ。んじゃ返答を。私は……ミスコンに出る気は無い」


 ひとしきり笑った後、芳乃は眼を見据えて、はっきりと自分の意思を口に出した。


「そっか……」


「人に見られるのはそんなに好きじゃないの。『流麗雹華』とか言われてちやほやされてるけど……別にそういう風になりたかったわけじゃあないし……」


 何かを思い起こすように芳乃は眼を伏せながら、自嘲気味にため息をつく。


「…………」


 その様子を見て、話しかけられる人間が居れば見てみたい。それほどまでに話しかけづらい空気だった。


「あ、ごめん……そういうわけで出れないの、ミスコン」


「いや、それは良いんだ。もともと言い訳の為についた嘘だから……」


 はたり、と会話が途絶える。隣で歩く芳乃を見ると罪悪感にとらわれた表情をしていた。

 何故こんなにも気まずい雰囲気が連続してしまうのか。これまでの芳乃との会話でこういう空気にならなかったことは無いのではないか。

 口を開いたほうがいいのはいたいほど理解できる。しかし開く理由が無い。嗚呼、ジレンマってこいう状況なんですね。

 歩く。ただ歩く。それしかすることが無い。視界は濃淡な闇しか無く、まるで同じところをぐるぐる廻っているのではないかという錯覚と不安に陥る。


「うぐっ!?」


 不意に、衝撃が走った。見えない壁。そうだ、これがあった。以前『釘』と戦った時にぶつかった壁。もんどりうって地面にひっくり返ってしまう。

 恥ずかしい。頭を抱えてしまいたくなるほど恥ずかしい。しかしそんなことをしたらもっと惨めになるだろう。


「だ、大丈夫?」


 芳乃の心配そうな声がする。


「ああ、大丈夫大丈夫……」


 なんとか平静を保って声を返した。


(平穏を保て……ここでテンパったらそれこそ負けだ……って何に?)


 頭が混乱しているのを認識する。しかしまあ認識してもどうにもならないというか、そもそもその認識が狂ってるから『混乱』というのではないか……

 思考を断ち切る。無駄だ。いくら考えても。そんな平穏を保とうとしてる努力はまたも簡単に粉砕された。


「雄平……立てる?」


 芳乃の顔が、視界を席巻した。


「あ、え?」


 疑惑の声が出るのを押さえ切れない。状況を把握。芳乃が屈みこんで、座り込んだような体勢のこちらに目線を合わせるようにしているらしい。


「怪我とかない?」


 すっ、と膝の辺りを撫ぜられた。


「わっ!?」


 突然の状況に眼を白黒させてしまう。


「あ、ごめん。痛かった?」


 どうやら自分のとった行動の効果をわかってないらしい。この寒い空間で奇跡のように芳乃の手は暖かく、そしてやわらかかった。


「ほら、手、掴んで」


 さらにあろうことか、芳乃は立ち上がり、すっ、と手を伸ばしてきた。脳裏に浮かぶのは、先ほどひざを撫でた手の感触。滑らかな絹のように暖かくて――


(うわあああああああああああ!?)


 脳内をめくりめく妄想が次第に肥大していく。なんとかそれを殴り飛ばし蹴り飛ばし、粉砕撃滅しようとするも不可能だった。

 なんせこれがほとんど初となる女性の身体に触れるという行動なのだ。母や幼稚園などのお遊戯を除けばこれが本当に始めてである。そんな状況で、しかも対象が学校一の美少女。


(いやいやいやいや、もう無理! もう無理よ!)


 正直逃げ出したかった。顔が平穏を保っているのは、あまりの事態にフリーズしているだけに他ならない。

 恥ずかしい。恋愛漫画を読んで、こんな状況になって恥ずかしがる主人公をじれったいと思っていたが、同じ状況になって分かる。これは、きつい。


「あの……御免。ちょっと、時間をおかれると……恥ずかしい……」


 限界だった。フリーズがとけ、思わず視線を逸らす。赤面した芳乃はまさに青少年にとっては凶器というレベルで、もはや直視できない。

 地面へと視線を移す。それは特に意図しない行動だった。


「あ、れ……?」


 違和感。

 手に触れてくる寒色は冬のアスファルトのように平坦なものだけの筈なのに、何か、凹んでいる跡がある。


「雄平?」


 芳乃もこちらの異変に気づいたようで、不思議そうに問いかけてきた。


「ここに、なんか書いてある」


 これは恐らく文字だ。

 どくん、と胸が高鳴る。得体の知れない感情が胸の中に去来していた。


「え? どれ?」


 かがみ込んでくる芳乃も気にならない。胸を締め付けられるような感情だ。解らない。最近味わった感情のはずなのに、なぜか思い出せない。

 この思いは、なんだ?


「暗くて、見えないね……ちょっと待ってて」


 ぱちっ、という音が『夜』の静寂を刹那破る。芳乃の手にある布が雷撃を放ち、『夜』を照らしだした。


「え――?」


 戸惑うような声が重なる。芳乃もまた、戸惑いをあらわにしていた。

 どくん、とまた胸が高なる。


「これ……は」


 かすれたような芳乃の声がやけに遠くに聞こえる。そう、それは間違いなく文字だった。


『ここからさきはかべ。いけない』


 照らされた床もまた闇色で、其処にかすかに文字が残されていた。

 ひらがなだった。何か刃物で引っかいたような文字跡だった。筆跡が弱い。何か癖がある。汚い文字と言ってしまった方がいいかもしれない。

 そんな文字からなぜか眼が離せなかった。

 何処かで、これを――


「これ――解らないけど、知ってる……気が、する」


「つっ!?」


 芳乃は呆然とそう言葉を発した。その言葉に驚く。なぜなら自分もまた、この文字を知っているような気がするからだ。


「俺も……」


 そこで一端言葉を切る。喉に何かつっかえているような――本当に言うべき言葉を取り違えているような――一瞬、そんな錯覚に陥った。

 

「これを知っている気がする」


 結局その錯覚はすぐに消え去り、もったいぶるような形で言葉を発することになってしまった。


「これ、ここのことだよね」


 芳乃は思案するように顎に手を当て、眼も前に広がる壁を指差しながら問いを発する。


「ああ。多分」


 おそらくそのとおりだろう。壁のように硬く勧めなくなっている地点――書いてある内容に一致する。


「これ……一体誰が?」


 難しい顔で芳乃は声を発した。おそらく問いではないのだろう。自問自答に近い。


「解らない……けど、これ……なんか……」


 不意に、イメージが浮かぶ。


「子供が書いたみたいだ」


 頭に浮かぶのは子供。何かを求めて、歩き回る。

 『夜』の中を、誰か、と、一緒、に――


 次の瞬間、ぐらりと身体が傾いだ。


「あ――」


 今日は、ここまでらしい。


「終わるのか……」


 残念そうな口調になってしまった。眠気が徐々に意識を奪っていく。イメージが霞がかかるように消えていく。何かを得られそうな、そんな気がしていたのに。


「雄平!」


 芳乃の声がする。


「また、明日」


 それは『夜』会おうという意味なのか、明日学校で会おうという意味なのか解らなかったが――笑顔で放たれたその言葉に強い嬉しさを覚えた。

 まぶたが落ちる。

 残ったのはいつものように、華のような笑顔。





 それは要らないモノなのに――


 影のように『夜』に立つ少女はため息をつき、二人を見つめていた。


 その長い髪が風にざわざわとざわめくように、自分の心が蠢いていくのを、少女は感じていた。

 大きくため息を付く。意味のないものなのだ。あれは。

 まだ残っていたのかと懐かしさがこみ上げてくると共に――少女の胸に言いようのない感情が去来した。

 もう消えなければならないものなのに。

 自分と同じように消えなければならないものなのに。

 まだ、あった。あんなところに。

 自分の心のようだ――捨てたと思っていたのに、捨てきれぬ想いが刻まれている。

 浮かんだ思考をかぶりを振り、振り払った。

 不要なものだ。感傷も、憧憬も、微笑ましさも――感情さえ不要なのだ。

 自分を構成する要素において、自分に課したあの『役割』以外全てが不要なのだ。

 感情?

 正に不要の最筆頭だ。

 あの時、考えてしまったからこそ全てがおかしくなって、

 あの時、思ってしまったら全てが変わってしまって、

 だから、自分はここにいるのだ、

 だから、彼らは『また』ここにこなければならなかったのだ。


 何もかもを捻じ曲げて、

 何もかもを消し去って、

 それでもなお、心を持って笑おうとするのか、お前は?


 滑稽にすらならない。

 ――無様。

 否、悪逆。

 奪って、奪って、何もかも奪って、それでもまだ笑うというのか?


 だから要らない。

 ――全部全部要らない。

 私なんて要らない。

 私なんて『役割』以外要らない。


 嗚呼、それでも――。


 あの人を見ると笑顔になる。




次は日常ー

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