ニーサーん 側近は見た!
側近サイドの愚痴…げふげふ。
側近サイドの御祓事件とかです。
お初にお目にかかります。
俺は御屋形様の側近として仕えるテミスと申します。
ある時霧隠の里からこの源氏の隠れ里に避難をした際、俺たちは御屋形様に御仕えする事となったのですよ。
因みに、側近は俺とカシャードとメサドナ。
メイドは、カーリフレアとレシャルとアレイヤ。
メイド長に陽鞠様。
文官にキーラとレーヤ。
護衛武官にザナドとシヴァーラ。
護衛魔導師にエレイン。
忍頭に茜様。
などがこの屋敷には居られます。
数少ない大人達は、俺達の訓練や環境整備などを担当して居る時以外、基本的に屋敷の中には、だいたい週に一度の会合位しか来ませんね。
大人達は、前の御屋形様、今の御屋形様の父上に恩が有るとかで。
御屋形様にしのごの口出しする事は、あまり有りません。
俺達とそれ程年は変わら無いのですが。
下手な大人達はよりも大人びて知的で、明るくとても愛らしいお方なのです。
唯一の欠点は、お身体が虚弱気味なか弱い事くらいでしょうか?
その為、余り激しい運動は出来ません。
まあ、我らがその分サポートし、お護りするのですが、ね。
そんなある日の事、事件が発生しました。
愚かしくも不埒者が、彼女の御祓…入浴中乱入したのです!
我らは怒り狂いました。
婚姻前の清らかな、バニマ神様の加護持ちの巫女様でもあらせられる彼女の、す、素肌をガッツリ見るなんて…うらやまけしからん!
俺達だって見た事無いのに!
…ゲフンゲフン。
しかし、その男は少し戸惑っただけで反省して居るのかさっぱり分からない。
ひょうひょうとした変な奴でした。
俺達がお仕置きをしようとした時に、あの麗しいエルフの陽鞠様が、怒れる我らを止められました。
「あらあら、だめよぉ?
そのお方は御屋形様のもう一人の加護神様。
攻撃なんてとんでもないですわ。
って言うか家康様、湯浴みがしたいなら挨拶して下さいませ。
我等も準備や予定が有りますのよ?
それに、適齢期の乙女の柔肌を見るなんて。
イケナイヒト!」
…陽鞠様の笑顔が怖かったです。
笑ってるのに、なんか…うん、怖かった。
説明するのも怖いから、割愛するよ。
だが、男は困った様に頬を軽く掻いて。
「うんその通りだよ、すまなかったね。
後で千早ちゃんに謝っておくさ。」
毒気を抜かれる陽鞠様。
俺達には出来無い対応だ。
てか御屋形様の名前呼びが自然に出るのは、限られた者達だろう。
陽鞠様が注意し無かった事が、神様なのが確定事項だと思われた。
ほんの少し、妬ましさと羨ましさが浮かぶ。
俺達はずっと傍に居ても配下だ。
まるで同等ではなかった。
「仕方ないですね。
それでは、御屋形様が目覚めたらお呼びしますから…服を着て下さいませ。」
最後は目を逸らすと。
あ、取り囲んで居たから、彼を着替えさせてなかった!
「え?わっ!すまん!」
流石に家康と呼ばれた神様は、一瞬狼狽え。
だが次の瞬間服を身に付ける。
グッショリ濡れて居た肌も髪も、一瞬で乾いて何事も無い様な姿になっている。
ヤレヤレと何故か茜様が肩を竦めたのは、みんなスルーして居る。
あれ?この姿…遠い昔に見た様な?
薄っすらと記憶を探るが思い出せなかった。
家康のいつもの、サラリーマンのリクルートスーツ姿なのだが。
幼少の時やり取りして居た時と余り変わらな姿に、何と無く引っかかったのだ。
けれど、曖昧な記憶は忘却の彼方で、結局思い出す事は無かった。
しかし、神様か…。
御屋形様と魂で繋がる神々、何て言うと。
まるで彼女が神々の嫁さんみたいではなかろうか?
奇しくも御屋形様は、俺達男衆には異性として反応しない。
幼さも有るだろう。
それは信頼でもあるのだが。
男としては、多少は意識されたい訳で。
褒められてもからかわれても、俺達は幼子の様にふわりとかわされる。
憧れに似た初恋は、早い段階で崩壊した。
彼女の所に転がり込んで居た、迷い人への対応は明らかに違った。
多分御屋形様は無自覚だったのだろう。
誰よりも依存し、誰よりも甘え。
無邪気に関わった。
そして、男もまるで同じだった。
いや、男の方が依存度合いは何処か深く淀んで居た。
恋と呼ぶには可笑しく、友と言うには依存しすぎる。
まるで、間違った恋愛をおっかなびっくり塞ぐような、不器用な作業にも見えた。
だが、気のせいかもしれないが、御屋形様は深い部分で彼を拒絶して居る風にも見えた。
それは、俺たちへの拒絶より深く暗く苛烈。
まあ、俺も幼かったし。
よくわから無いですがね。
それから、迷い人が居なくなり。
少し抜け殻のような時期を超え、御屋形様は里の為にのみ動くようになっていた。
そして、先程来た神様。
アレの目を見た時、ゾクリと背筋が震えた。
迷い人と同じ漆黒の髪と瞳。
だが、強烈な強者の気配。
御屋形様がこいつに連れ去られる。
何故かそう思ったのだ。
彼はそんな素振りを見せず、ただ困った様に俺達に対応して居ただけだった。
それは、あながち間違えては居なかったよ。
あの神は、御屋形様のココロを軽々と持って行ってしまった。
アレから彼女は上の空が増え。
家康様が用意した側近と共に居る事が増えたと思う。
そして彼女は、俺達とも目を合わせなくなった。
目が合うと、恥ずかしいフリをして、むしろ寂しそうに微笑むのだ。
諦めにも似た苦笑いを浮かべる。
何もかも諦めた者が浮かべる表情だから。
本人も自覚しているのか、誰とも目を合わせなくなって。
必要以外、部屋にこもる様になった。、
あの駄神様のせいだ!
御屋形様は幸せにならなきゃいけ無い人だ。
そう奮起して、立ち上がるが。
何故か目の前には、あの側近がこちらを眺めて居た。
あの側近は、何も言わず俺の肩に手を置く。
すると返事をする間も無く、俺は意識が途切れた。
「うん、気付かなかったよ。
思春期特有の恥ずかしがりやになったかとか、うんそのくらいに受け止めて居た。
参ったなあ、そんなつもりは全く無かったのに…。
でもごめん。
とりあえずテミス、君は忘れなさい。」
小さく聞こえた声は、御屋形様の様子とか、目覚めた時欠片も思い出せなかった。
誰かが俺に毛布を掛けてくれた。
どうもうたた寝をしてしまったらしい。
椅子から立ち上がると、俺は自室に戻って行った。
休憩室に居た誰かの事すら、思い出す事は無かった。




