二十二
「こけこっこ〜!」
「クエ〜!」
リンゴーン!リンゴーン!リンゴーン!リンゴーン!リンゴーン!リンゴーン!
何かもう、色々朝が賑やかになりました。
追加項目は、時計塔でしょうか?
朝夕六時と昼12時に鳴る時計塔の鐘の音。
加護持ちのクレアさんが来た後、魔法で建てられた時計塔から鳴ります。
いわゆる時報です。
アレは便利です。
川の近くに作って水路を作成。
そこから生活上下水道や水路とか、穀物の脱穀とか。簡単な発電とか。
色々地球的な科学要素と、時魔法で構築された物で。
里がかなり便利になりました。
まあほら、隠れ里のどかな ど田舎 ですし。
時計なんて日時計か、空の太陽や星の位置で適当目分量です。
魔法を使えないと生活し辛い面もあります。
まぁ獣人何かは、魔法無くても屈強なので、物理で何とか出来ちゃうからねー。
ワイルドに吠えてますけどね。
さて、義経兄様が帰還してから、わたくし千早ちゃんは16歳になりました。
身長も160位で、スタイルも華奢な割に壁ではなくなりました。
胸は、並と大盛りの間位?になったので、前世の自分よりは少し大きくなった時、謎のガッツポーズを深夜やらかしたのは秘密です。
まぁ、余り大き過ぎてもタレますしね。
そうです、結婚可能年齢になってしまいましたよ。
今の所千早ちゃんの初恋はまだです。
外界の者とは基本隔離ですし。
出会いも少ないから、大人衆がセッティングする見合い結婚とかになるのかな?
まぁ、中の私が精神年齢高過ぎなのか。
枯れてる訳では無い、ハズです、多分。
同年代連中の様に、恋愛でがっついて無気がします。
誠実で自分見てくれて、一緒に歩んでくれる人なら誰でもいいかな?
とは思います。
側近やメイド達が、残念な物を見る目で見てきます。
何故⁉
「だからぁ〜御屋形様、考え事声出してますよ?」
「あら、失礼。」
たいした独り言では無いから良いか。
「っと、禊の時間だわ。
じゃあ今日も一日頑張りましょうね?」
「はい、御屋形様!」
側近達からの元気な声が返ってくると、一斉に仕事に戻って行った。
御祓と言っても、何故か温泉が湧くので冷たい湧き水に浸かる事は無い。
この辺りも、パニマ様の配慮。
まぁ、ご本人から、
「あ、湧き水だと寒いでしょ?寒いよね?
温泉で綺麗にする位でいいよ?
風引いたら大変だし。」
うん、パニマ様の御祓感がイマイチ不明瞭ですが。
まぁ、ご本人から許可取れたからイイよね?
念の為に、御祓後に浄化魔法も掛けるので、御祓の意味も微妙なラインだけど。
異世界の御祓と思っておく。
更衣室で、しゅるっと帯を解き。
メイド達が私の服を脱がし扉を開けたので、そのまま温泉に一人入ると扉が閉じられる。
足にお湯を掛け、下からお湯を掛けて行く。
そして身体を軽く洗ってからゆっくり湯舟に浸かった。
一息吐いてふと微かな気配に気付く。
ギギギと岩風呂の端に視線を向ける。
居るハズの無い先客が、こちらを硬直しながら眺め、湯舟に浸かって居た。
声にならない悲鳴を上げ掛けて、その人に口を塞がれる。
「や、やあ。
千早ちゃん久しぶり…。
ちょっと匿って欲しいんだ?」
その人、家康様は焦って居た。
気配は本来の物を隠した、完全に人間だし。
姿は前回きた頃と変わら無い素敵なお兄さんのままだ。
後で聞いたのだが、焦り過ぎて何故か温泉室に転移したらしく。
落ち着く為にひとっ風呂浴びてただけなんだそうな。
問題は、私は全裸で彼も全裸で有る。
「ん、むぐっ、ん!?」
パニクった私は、身体弱過ぎなのも有って、プツンと意識がそこから途絶えた。
「あっ!ちょ?千早ちゃん?しっかり!」
何というラッキースケベ体質だ?
だがそこからは大変だったそうだ。
中々出て来無いからと温泉室に入ったメイドが扉を開けたら、不審な男が千早に覆い被さるように抱きかかえて居れば、まぁ、お察しですよね。
実際は介抱してただけなんですが。
途中で家康様と面識の有る陽鞠が来て。
側近達が暴れるのを止めなかったらどうなっていたのやら。
彼らも、家康様がパニマ様とは別の加護神様とは知らなかったらしい。
家康様はもう神様なので、小娘の裸なんぞには反応しないだろうとは思う。
思うのだが、超恥ずかしいデスよ。
「本当ゴメン、御祓の時間夜かと勘違いしてたんだよ。」
「はぁ、まぁ不可抗力ですし。
まぁそれは今はイイです。
で、匿うってアレだけ騒がしかったら隠し切れないと思うのですが?」
「ここは結界が強いし、別の義体になるから大丈夫。」
「別の義体ですか?」
「暫く君の側近として側に置いてくれるだけで良いんだ。」
「何から逃げてますの?」
厄介そうな臭いがプンプンするよ。
「別の異世界女神達。」
「女難かよ!しかも複数形⁈」
流石モテる男は違うな。
「ダメ…かな?」
ジッとこちらを見つめる家康様と目が合う。
深淵のようなその強い瞳に、一瞬ゾクリと魅入られそうになった。
ヤメロォー、ヤバイヤバイヤバイ。
この人天然タラシだった!
忘れてたけどな!
危うく裸見られた余分な事まで思い出しかけて頭をふる。
「あーえーっと、その女神様達に見つかるまで…でよろしいですか?」
すると、ぱあっと花が咲いた様に微笑んだから、息を飲む。
だからヤメロォー!
見惚れてしまうわ!
慌てて目を逸らすと、何故かぎゅっと抱きしめられた。
何か良い匂いがする。
くぅ、負けないんだからね!
「それで良い。
うん有難う、助かるよ!
この部屋は結界が強いから、以前少し重ね掛けさせて貰ったけど。
アレからさらに強化されてたからね、隠れるには助かったよ。
義体は、15歳位の俺を銀髪にした感じなんだけど変わるね。」
抑えた輝きの中で変身を遂げる。
そこには、私と然程変わら無い年の少年が、静かに佇んで居た。
それは偽りの姿。
だがわたしの心臓は早鐘の様に煩い。
その姿になった途端、超見惚れた。
本人は平凡な顔立ちだと以前言っていた。
だが違う。
尖ったような、抜きん出た美貌では無い。
けれど、優しげな風貌と醸し出す雰囲気は、魅力的なイケメンの部類に入るだろう。
無自覚で残酷な神様だな、と思った。
私は淡く産まれかけた気持ちを、少し苦い物を飲み込む様に掻き消す。
その気になれば、筒抜けだろうけどね。
女神様達の気持ちが、何と無く察せられたのだ。
隠した事がばれたら、私は恨まれるのではなかろうか?
いや、私は彼の加護持ちだから不可抗力ですよ、いやマジで。
家康様は護ってくれるとは思うが、過信はしない。
アイドルの追っかけの様に、ただ眺めて満足出来無いから、彼女たちは過激に動くのだ。
それとなく、バニマ様にも助けを求めるのも有りだが、それは最終手段だ。
この地が家康様を求める狩場になりそうなら頼むしか無いとはおもう。
少し困った顔で、私は苦笑した。
その日から、家康様を匿った。
彼から預かったヤマハと言う人族の孤児と偽って側近にした。
それから私は、彼の瞳を自分からは見なくなった。
心が取り込まれ無いように、予防線を無意識に貼った。
それは、里で波紋を呼ぶ事となるのだが、この時の私は気付く事は無かった。
フラグを消すつもりが増やす方、家康です!




