にい
おや、誰か来たようだ?
「チィ〜っす!
お届けものですよ〜ん。」
鮮やかな赤髪を掻き上げる。
年に二・三人訪れる歩き巫女と呼ばれる諜報部隊の長、霧隠夕日さんが楽しげに馬車から降りて、門番に声をかけて居る。
たまに彼女やその配下が訪れる日なのだ。
夕日さんは、千早ちゃんとは別口で隠れ里を持っているのすが。
命の恩人である千早ちゃんのご両親への恩義から。
時折外界情報や、長期保存の効く物資などを届けてくれたりします。
ちょっとガラが悪いが、天真爛漫でナイスバディな美人の天狼族の歩き巫女様です。
大した能力も無い、至って普通の幼女である千早と違い。
チートさんですた。
戦闘能力も高く、魔力も高い。
何よりお友達多そう何ですよね、彼女。
モテモテっぽいし。
きっと私が適齢期になったら、イケメンの一人や二人連れて見繕ってくれそうなくらいには面倒見もいい方です。
男子や戦闘能力の高めの女子に、師範の霧隠鈴さんを付けてくれたのも彼女でした。
鈴さんは夕日さんの弟さんで、涙脆い脳筋さんです。
初めて会った日は、両親の訃報を届けてくれたのですが。
それより、鈴さんが泣いて私を抱き潰しかけたので、私は彼が暑苦しくて苦手です。
「あ、夕日さんご苦労様です。
いつも助かりますわ。
御屋形様は、少し前から奥の間で調合始めたので暫くは動けないと思いますから。
こちらでお茶でも飲んで、少々お待ちくださいませ。」
ニコニコと陽鞠が出迎えて、夕日を縁側に案内した。
初夏の日差しはまだ涼しく過ごし易い。
お茶と茶菓子と漬物を摘まみながら、夕日が15分程待った後、千早が現れた。
「お待たせして申し訳ない。
お久しぶりです夕日さん。」
「いいっていいって!
ん?
ちょっと見ない間に、又少し大きくなったみたいだね。」
「え?本当ですか?嬉しい。
同年代の子達より小さいみたいだから、大きくなったの自分だと分からなくて。」
「これからもっと大きくなるさ、成長期だしね。
ああ、それより今回は、新しい種や苗木の種類を増やしてみたから。
どれが育ちがいいのか実験するといいよ。」
「はい、有難うございます。
ここは林が近いので、肥料には困らなくて何か作る時は助かります。」
「いやぁ、まさか農業を勉強して居たとは恐れ入る。
むしろ、こちらが参考にさせて貰らわせて助かってるぜ。
ああ、勿論色々確定するまでは門外不出にして外界には情報流してい無いさ。
こりゃ下手したら、これまでの旧農業が荒れるだろうしなぁ。」
それまでの農業は、植える・耕す・掘る・切る・刈る。
ここから先はなかった。
だから肥料の概念が無くてビックリしたものだ。
そりゃ大量に育たないよ。
肥料は、動物の糞尿と焼いた草や家畜の骨の灰を砕き、更に枯れ草を混ぜる。
その上に蓋をして、時々魔法で攪拌。
小さな穴を開け、管を作り。
そこから溜まったガスを燃やしてお風呂を温める燃料にした。
攪拌して暫くすると肥料になるので良く地に混ぜて放置する土地と、農作業する土地に分ける。
空いた所に又肥料の材料を入れるから、なんちゃってリサイクルだ。
まぁ、これを隠すのは。
やり方を間違えると、肥料にならずに病原菌の元となったり。
ガスが出て爆発する可能性が有るからだ。
この一定の作業の専門家では無いので。
私は他人への上手な説明が出来るまでは、夕日さんに情報止めて貰って居る。
まぁ、土地だけは膨大に有るからね。
実験は大事。
水田は、ありがたい事に先人が作ってくれたから。
ここの隠れ里も米食だ。
パンもいいけど、米だよね。
ここは米食と日本食に使えそうな野菜は扱っていたんだけど。
じゃがいもとかトマトとか胡椒とかは無かった。
塩は海が近いので塩田作り放題だったし。
砂糖は、さとうきびとメープルシロップと蜂蜜は何故か全て採れるから。
大量に作れるので困らない。
家畜は、ニワトリは居るけど豚の代わりに猪が飼育されていた。
豚や牛は大陸では飼育されて居るが。
ここでは輸入すらされてい無い為、ヤギの乳が牛乳やチーズの代わりになって居た。
何故か羊や兎は居て、これも食べたりもふもふ毛皮を剥いだりしていた。
蚕と小さな土蜘蛛の魔物が飼われ。
吐き出す糸が高級品としてどちらも重宝されて居た。
土蜘蛛さんは喋るし、そのままだとちょっとグロいけど。
まぁ慣れれば何とかなるし。
何故か小人に変身すると可愛いので蚕のシルクとは別の意味で人気が有ります。
ペット感覚?
今後開発して作るとしたら、麻とかコットンか?
ただ、麻は大麻の茎の部分の繊維だから。
大麻は流石に手出したくないなぁ。
やれるなら、麻見たいな茎のある安全な草を探す所からだな。
なんちゃって麻。
コットン…木綿は、綿毛みたいなのがゴルフボール大の大きな種の中に有るんだけど。
あれと同種類の物がこの世界に有れば欲しいよね。
紙は遅れて居た為、精巧な物は輸入品でも少なかった。
なので紙も研究しようと思う。
隠れ里のみんなの生活向上の為に。
まだまだぴちぴちのハ歳ですんで、私たっぷり時間有るしね。
それから、夕日さんにお昼を食べて貰って。
私は又調合へ。
まぁ、調合と言っても。
隠れ里に代々受け継がれしレピシの簡単な丸薬作りだ。
真新しい物は作って居無い。
と言うか、幼女に小難しい作業が出来るわけないじゃん。
一、生薬草をすり潰す。
二、乾燥させた薬草をすり潰す。
三、乾燥させた滋養に良いキノコをすり潰す。
四、生毒消し草をすり潰す。
五、乾燥させた毒消し草をすり潰す。
六、生は生、乾燥は乾燥で適量混ぜる。
七、最後に蜂蜜と小麦粉を居れて練り固め。
丸薬を作る機械に居れて練り出して乾燥させて完成。
胃薬と疲れ止めと吐き気止め。
あと頭痛や風邪に効かせるには、固める前に更に生薬も混ぜる。
ぶっちゃけ正○丸的な何かだ。
分量さえ分かって居たら、本当私みたいな餓鬼でも作れる代物だ。
しかし、これが結構効くとかで。
夕日さん達外界の人には特に喜ばれて居た。
ぶっちゃけ、彼女達が食中毒で体調おかしくして居た時、この丸薬を見かねて両親が与え、命を永らえたそうだ。
以来、この丸薬を大量に買って、歩き巫女達の健康維持に貢献していた。
その付き合いは今でも続き、私からも買ってくれる。
夕日さん曰く、世代が変わっても薬の効き目が変わらない優れた丸薬だそうな。
苦くてまずいんですけどね、これ。
完成していた薬を纏めて小瓶へ移す。
そして大きな木箱に詰めて、夕日さんに渡した。
やはりとでも喜んで再び旅立って行った。
本当はポーションとかファンタジーっぽいおしゃれな薬作りたいけど。
知識無いから無理だな。
錬金術師は海の向こうに結構居るらしいから、こんな僻地で会えるとも思えないけど。
まあ、想像してニヤニヤして置く。
「コケコッコー!」
再び庭先で茜が鳴く。
「なに?」
「あの、御屋形様〜、茜今日は煮物作ったんですけど。
何故食べて下さら無いのですか?」
「やだなぁ、それ里芋の煮っころがしなのに砂糖だけ生で掛かってんの?
そんな毒物食べるわけ無いじゃないか。」
「細かい事はいいんです!」
「よくねぇよ!
私を糖尿病で若くして死なす気か?
だからモテナイんだよ茜は。」
「御屋形様の茜の扱い、何やらどんどん酷くなってません?」
「細かい事はいいんです!」
「パクられた!」
今日も隠れ里は平和である。
夕日さんは、千早の遠方の保護者さんです。
彼女達が来なければ、本当にここは陸の孤島状態かも。
それでは又。