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メール屋さんのハイテンション カウントゼロパート2

 化粧をしたことをからかわれまくったお昼ご飯をすごした後、あたしはいつもどおり真面目に仕事をし、あと10分で定時という頃には仕事がほとんど終わっていた。


(帰ったらどうしよかなぁ。今日は共同キッチン借りて、自分で夕飯作ってもいいなぁ…)


 あたしの部屋はグレードが一番低いから、お風呂とトイレはあってもキッチンがない。同じ階にあるもう一つ上のグレードでもキッチンにはコンロが一口しかないため、あたし達若手は自分で料理をしたい場合、階に一つある共同キッチンを借りることが多い。

 共同キッチンの横はラウンジになっている共用スペースの隣にあり、夜は自分で料理をする人がそこで食べる以外にも、飲むために集まる人が結構いるため、まだ飲めないあたしは自分で作るのが面倒なこともあって食堂で食べて帰ってしまっていた。

 と言っても、まったく共同キッチンを使わないわけではない。休みの人が少ない日が自分の休みになると、ちょいちょいパンを焼くために借りていた。


 なんてったってあたしはパン屋の娘。吸血鬼事件を生き延びてから後、もしクビや結婚したとかで組織を辞めることひなっても手に職はつけておきたい。

 幸い一人っ子だから、学園に行ってしまったけれど、父母が許してくれたら家を継げるかもしれない。前世は継がせる気まんまんでパン屋の英才教育を受けてたし。

 そのためには前世で培ったパン屋の娘としてのスキルを今からカンを鈍らせないようにしておかないといけない。そう思ったあたしは学園にいた頃からちょこちょこ少量ずつパンを焼いていたのだ。


 急にパン以外のご飯を作るとか、知り合いに見つかったらまた昼間みたいに色気づいているとか言われるかもしれないけど、気にしない。なんてったってあたしはこれからは将来のために生きていかなきゃいけないのだ。


(こないだピロシキ作った時のひき肉がそろそろ危なそうだし…パスタとかトマト缶とかあるから…とりあえずミートソース的なやつかな)


 すっかり仕事が終わった気分で、惰性的にデスクの片付けをしていると、ぱたぱたと人が走ってくる音がする。


「あの…すみません」


 聞いたことある声だなぁと振り向くとそこにはウィルたんがいた。


「おお、どうした」

「終業時間間際にすみません…。研究室が緊急で支部に発送したいものがあるみたいで…明日の荷物の出荷、もう行ってしまいました?」

「さっき警備室に預けに行っちまったけどなぁ…まぁ引き取りは明日の朝一だから間に合うっちゃあ間に合うが…」


 そう言いながら主任はちらっと時計を見る。帰りたいオーラ満載だ。

 主任はここ一週間ほど前から主任は必ず定時になると飛ぶように帰っていった。今日もいつもよりてきぱきと仕事をこなし、先ほどからはあたしと同じように時間潰しでデスクの整理をしている姿が見て取れた。…もしかして彼女でもできたのかな。


「ほんとですか!?申し訳ないのですが、もうちょっと待っていただけるとありがたいです」


 あからさまに時間外の労働を嫌がっている主任にウィルたんは頭を下げてお願いする。

 困り顏で、息こそきれてないもののうっすらと浮かぶ汗がセクシーだ。

 思わずこちらから頼んでなんでもやります!と言ってしまいそうなフェロモンはサキュバスの血なのか、それともやっぱり主人公だからかな。

 そんな、主人公オーラにも負けず、腕を組んだまま首を縦に振らない主任をすごいなぁと思いながら、あたしは横から声をかけた。


「あ、じゃああたしが待ちますよ。というか梱包とか手伝います」


 そう主任に向かって声をかけると、彼は待ってましたとばかりに頷いた。


「そうか!悪いな…よろしく頼む」

「すみません…ありがとうございます」

「いえ、とんでもないです」


 ちょうど終業時間になったため、主任と三人で部屋を出て施錠をすると、あたしとウィルたんは研究室に向かった。





「ああああ、つっかれたぁ…」


研究室を出ると、あたしは思わずそう吐き出した。時計を見るとウィルがメール室に来てから早四時間はたっていた。


「すみません、僕たちが新しい呪いを見つけたばっかりに」

「ううん、それも仕事だし。むしろおてがらじゃない、気にしないで」


 そう、残業する羽目になったこの騒ぎの発端は、ウィルチームの回収物なのだ。


 今日の午後ウィルたちがここからほど近い町を巡回をしていたところ、街全体にうっすらと魔法がかかっていたことに気づいたらしい。

 威力こそ強くはなかったものの、魔力を持っている者のみからその力を少しずつ吸い取るようなその魔法に、ウィルたちはその魔法の根元となっている魔方陣か道具がないかを探索。町にたくさん咲いている一見タンポポのような植物が、その魔法の根元だと気づき、とりあえず目に付く範囲は駆除、一輪だけ回収して研究室で解析してもらったという。


(四巻で人喰い植物の話があったから、その序章かなー…)


 確かに、小説の中では人喰い植物が風に乗せて種子を飛ばし、世界中に小花を咲かしている記述があった気がする。しかし、その大元の存在はまだ本部も見つけていないようだ。


(まぁ、三巻の事件もまだ解決していないしね)


 ウィルたちから花の種子を預かった研究室は、その花の出どころやらはおいおい調べることにして、その草花の特徴と対処方法、一滴巻くと広範囲でその植物だけを除草してくれる魔法薬を作って、支部に配ることにしたそうだ。


 梱包を手伝うと言ってきたけれども、みんな緊急で解析したり調合したりしてたから、バタバタしてる中、魔法薬を一つ一つ割れないように梱包したり、やれ「これ追加」「これやっぱり回収」と言われながら抜け漏れないかをチェックするのは結構気を遣った。

 結構な量になったので何往復もするのを覚悟していたら、連絡を受けた警備室のおじさんたちが回収しに来てくれたのは助かった。


「これから食堂でご飯食べてから帰られるんですか?」

「うーん、どうしようかなぁ」


 とりあえず研究室の前を離れ、なんとなく一緒に住居棟の方に向かっていると、ウィルたんに聞かれた。

 本当は作る気満々だったんだけど、もうすぐ10時だし、面倒な気もして迷っているとウィルたんが首を傾げた。


「あれ、先輩いつも食堂じゃなかったでしたっけ。それとも、お腹空いてませんか?」

「あー、いやぁ、今日は作ろうかなぁと思ってたんだけどねぇ。ほら、ちょっとは自炊もできるようにならないとかなぁと思って」


 あたしが本部をあんまり出ないことと言い、この子達は意外に良く知ってるなぁと思いながら答えると、ウィルたんはいつもよりちょこっとだけ険しい表情になってしまった。


「それは…今日のお昼の…そろそろ彼氏でも欲しいってやつですか?」


 アリサとかいない時に、そんな真面目なテンションで確認されるとなんだかすごく恥かしい。そんな娘の恋バナを聞いて複雑な父親みたいな表情しないでほしい。


「あ、いやいや。そんなことなく!こないだパン焼いた時の材料が余ってて、そろそろ悪くなりそうだなぁと思ってたんだよね」


 ちょっと慌てて誤魔化すと、ウィルたんは顎に手をあてて、何かを考えこみ黙っててしまった。


「でもこの時間だとラウンジはもう大宴会かなぁ」


 今日は土曜日だから、明日が休みの人は多い。こんな日は遅くまで結構な人が宴会をしている。若手に混じりたいちょっと上の人とかもあたし達のフロアに来たりして、ちょっとしたパーティのようになっていることが多い。

 あそこに入って行って、いつも作らないあたしがご飯作ってたら確実にどうしたと絡まれそうだ。


「この時間だし、そうですね…あの…もし先輩がよければなんですけど、マックの部屋のキッチン使いませんか」


 住居棟についてしまって、また食堂に戻るのは面倒だなぁと思っていると無言から復帰したウィルたんがそう提案して来た。

 なんで、ウィルたんがマックの部屋のキッチンを進めるのだろう。てか、この場に本人いないのにいいのかな。


「や、あいつの部屋が俺らより一つ上の階だからコンロも二口だしリビングもあるしっ。明日休みだからどーせ俺の部屋勝手に来て一人だけ飲みながらだらだら話してくるだけだから、部屋使いたいとか先輩が来て飯食うとかって言ったら喜ぶと思うんです。あ、アリサ先輩とかも誘って!」


 そういつもより早口で言うウィルたんはちょっと赤くなっている。しかも緊張しているのか、一人称がいつもあたしが聞く時とは違い俺になっている。

 なるほど。あたしをダシに、アリサとプライベートなお付き合いをしたいのだろう。まぁ、誘ってる部屋は自分のじゃないけど。


「あぁ、確かに借りれたら助かるなぁ。アリサに聞いてみてもいい?」


 普段から色々と言い寄られるのは嫌がる彼女だが、ウィル達とは仲良くしているし、彼女のことだからマックの部屋に入れるよと言ったら絶対付き合ってくれそうだ。しかもウィルたんもいるとか言ったら、いい妄想の種だと飛んで来るかもしれない。


「あ、はい!」

「じゃ、あたしアリサに聞いてみるから、ウィルはマックにお邪魔してもいいか聞いてもらっていい?」

「はい!絶対大丈夫だと思いますけど」


 それぞれ確認を取って、結果を持って15分後に階段のところで落ち合う約束をすると、あたしは先にアリサの部屋にむかった。


 うーん、マックもアリサの水着を見たがってたようだし、カイリーとは青春みたいだし…三角とか四角とかみんな大変だなぁ。


カウントゼロはもう一話だけ続く予定なんですが…長いかな…

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