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メール屋さんの女子会 カウントファイブ

 ウィル達が就職してから、六ヶ月がたった。9月に入っても世間はまだまだ暑いが、ここ本部は山の上にあるために少しひんやりとしてきた。本部内を仕事で歩き回っているとちらほらと冬服の隊服を着ている人も見かけるようになった。


「で、カイリーはどっちが好きなんだろうね」


 アリサはペタペタと美容液を塗りながら言った。今は住居塔内のアリサの部屋で、彼女は鏡台の前、あたしは彼女のベットにもたれかかって座っている。


「あーまぁ確かにねぇ…」

「作戦中はインカムがオンになってるじゃない?もうね、なんかあったら司令部が甘酸っぱいような雰囲気でいっぱいになるのよねぇ…」

「みんなに聞かれてること、気づいてないのかな」

「知ってるでしょうけど意識できてないんでしょ」


 ちなみに今日は1ヶ月に一回位開いている女子会という名のお泊り会である。大抵の場合、あたしより部屋がワンランク上でちょっと広いアリサの部屋で開かれる。


「そんなにラブラブな感じなの?」

「いーや、もどかしい青春って感じ?オタクのあたしだけじゃなくて司令部全体がやきもきするくらいだからよっぽどだわ」


 数日前からアリサに聞く話はこうである。基本的に班で調査や警護にあたる彼らは、作戦中は常に本部と通信ができる魔力がこめられたインカムをつけている。本部からの指示がいつでも拾えるよう、基本的には就寝時などに自分でオフしない限り両者間は通信しっぱなしになっているのだが、ウィル達の班の内容が司令部で話題だというのだ。

 その内容は主にカイリーたちの班の恋模様の話だそうだ。詳しく聞いたわけではないから詳しくはわからないけれど、アリサ曰く「ご飯三杯はいける内容が三日一回はある」そうだ。


「いっそはっきり本人に聞いてみたら?もうちょっとしたら来るんだろうし」

「あまい、あますぎるわね、カナ。下手に刺激して、さっさと上手くいっちゃったら、嫌じゃない。学園を卒業した今、あんな甘酸っぱい雰囲気を楽しめる場なんてないわ。」


 この世界は大人になるのが早い。18歳になれば成人したと見なされ、お酒もタバコも許されている。女性は16歳が結婚平均年齢だ。

 学校に行かないで家の手伝いをする子がほとんどだし、あたしたちみたいに13歳で就職する子も少なくない。

 あたしはなんとなく前の前の人生の感覚で生きているから16歳なんて子供だけれど、この国ではあながち子供とも言い切れないのだ。


「まぁ、カナもあの子の事言えないわよね」

「おっしゃるとおりでございます…」


 これまでの人生―1回目も2回目も―彼氏がいたことないあたしは、この人生でもまだ彼氏がいた事がない。年齢=彼氏いない暦で考えるとまだ許せるが、記憶=彼氏いない暦で考えると44年間いないことになる。恐ろしい。


「さっさと作ったらいいのに」

「だって出会いがないんだもの」


 そりゃああたしだって、彼氏の一人は作ってみたい。いくらオタクって言えどもそこには憧れがあるし、今回の人生の目標は長生きすることだ。彼氏を作って、結婚して、子供を生んで…人生の楽しみは慎ましくでいいから一通りやりたいと思っている。


「あんた本部内で顔も広いんだし、一日中本部の中歩き回ってるんだから、なんかしらあるでしょうに」

「ないない。誰もメール室なんて気にしてないって」


 苦笑で返すと、こんこんとドアをノックする音が聞こえた。


「はーい」


 アリサの代わりに立ち上がってドアを開けると、夜着にパーカーを羽織ったカイリーがいた。


「いらっしゃい」

「お邪魔します。遅くなってごめん。これ、食堂からもらってきた」


 そういうカイリーの手にはお盆があり、上には小さなパイが3切れのっていた。


「わ、わ!ありがとう。入って入って」


 部屋の中に招き入れるとスキンケアが終わったのかアリサが鏡台を離れ、カイリー分の紅茶を入れ始めていた。


「カイリー、いらっしゃい。訓練で疲れてるのに悪かったわね」

「とんでもない。お招きありがとう」


 ローテーブルにお盆をおいて座るように促すと、アリサもちょうどカップを持ってきて座った。

 例のエレノアの件から仲良くなったあたしとカイリーはちょいちょい食事をとったり、お茶をしたりしている。必然的にあたしと仲の良いアリサとも仲良くなって、今日はこの女子会という名のくっちゃべるだけの会に初参加をしてくれることになったのだ。


「あたしチェリーパイもらいっ」

「ほい、カナはどれにする?」

「あんまり甘くないのが良いから、レモンパイでもいいかな」

「もちろん」


 それぞれにパイの皿を取って食べ始める。この時間からパイっていうのは体重的にちょっと恐いが、まあ一ヶ月に一回の事だしよしとしよう。


「この会っていつもって何の話してんの?」

「んー、仕事の愚痴とかも話すけど、主に本部内の恋愛事情とか噂話とか」


 それが妄想だったりBLだったりするのだけれど、そこは伏せておく。食堂でも話せないレベルのシモネタ満載だし。


「今はね、カナが出会いがないって嘆いてたのよ」

「ちょ、嘆いてはないよ、嘆いては」

「え、カナ顔広いしありそうなのに」


 カイリーにアリサと同じ事を言われてがっつり肩を落とす。確かに人の名前と顔は覚えているし、向こうも覚えてくれているけれど、それはあくまでメール屋さんとしての話だ。


「そりゃあそうだけどさ、仕事中になんかあるなんて、そんな恋愛小説みたいな話滅多ないよ」

「まあそれもそっかぁ」

「そーいう、カイリーはどうなのよ」


 待ってましたとばかりに横からアリサが口を挟むと、ぼんっと音がしそうなほどカイリーが真っ赤になった。


「ど、どうって別に…あたしだってカナと一緒で仕事ばっかしてるし、班行動が基本だから出会いなんてないしっ」

「いやいや~その班行動がいいんじゃない。班の中で紅一点…しかもイケメンと四六時中一緒なんて、すごい贅沢よ?」

「そ、そりゃあイケメンかもしんないけど、仕事中なわけだしっ」


 耳まで真っ赤になって必死で否定するカイリーが可愛い。なにこの生き物。


「そーお?あたしが同じ班だったら絶対アプローチするけどなぁ…ねぇ、カナ?」


 確かにカイリーの恋事情は気になるけど、アリサと違って恋愛事には疎いあたしには彼女を煽ってからかうなんて力はない。


「あ、あ、うん。まぁ…」


 あたしが曖昧に答えると、カイリーがなぜかこちらをガン見してきた。そういえば、カイリーには一回マックに海に誘われた時にもこんな風に見られた気がする。


「…例えばカナがあたしの立場だとして、誰にアプローチかけるの?」


 問いかけてくるカイリーの顔は真顔だ。なんだかまずい気がする。ここは無難にもう一人の班員、先輩キャラの名前を出したいところだがこんな時に限ってまったく名前が出てこない。


(暗記するほど読んだじゃないかよーーー!あたし!)


 どんなに焦っても出てこないキャラ名に私は焦って口を開いた。


「りょ…両方?」

「え?」

「だってさウィルは落ち着いてて紳士的だし、マックは明るくていいやつだしさ!あたしがカイリーだったら両方狙っちゃうなー!なんて…」


 苦し紛れの言葉だったがカイリーはほっとしたような顔をしたので、どうやら正解の答えだったようだ。ミーハーな女と思われた日がいない。


「まぁ、そうよねぇ、あたしでもそうするわ」


 ニヤニヤと笑いながらアリサが同意してくれたのがきっかけで、話は二人の他にいる本部内のオススメのイケメンから好みのタイプの話になった。

 よかった、とりあえずメインキャラの恋路を邪魔して馬に蹴られて死ぬフラグは回避できたに違いない。

前話から女子話ばかりですみません。

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