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メール屋さんの秘密事情  作者: いたくらくら
第二章 メール屋さんの恋事情
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女子会スモール

 ウィルたちが任務に出て早一週間、まだ初期の調査段階のそれは、各隊が調査をするための拠点を作ると言う一番最初の山が終わると、調査が進むまでは膠着状態でやや暇になるらしい。アリサの久しぶりの休みとあたしの休みがタイミング良く重なったこともあり、のんきな話と思われるかも知れないが、息抜きで女子会と言う名のお茶をすることになった。

 あたしが昇進したことにより二人とも部屋のグレードが同じなので、今日はあたしの部屋で集合している。


「……ってことがあってね、正直、すごい反省した」

「なにそれ、イケメン。いやー、そっちか!そっちなのか!」


 先日ラースに叱られたことをアリサに話すと、彼女はにんまりと笑いながら話を聞いている。なんとなく、なにを考えているかはわからないでもないが、ここはもちろん、元(?)オタクとして、あえて聞こう。


「そっちって?」

「マルサンってわかる?」

「あ、うん。ラースと一緒の極東支部から来た人でしょ」


 何回か届け物をしたから、顔と雰囲気はわかる。40代くらいの縁の細いメガネをかけた男性で、優しそうな雰囲気がある素敵なおじさまだ。細身だが体型ががっしりしていたから、きっと元戦闘職種だろう。イケメンで外見だけでもキャラ立ちしてるあたり、もしかしたらメインキャラになる人だったのかもしれない。あたしが読んでた巻まででは名前が出てなかっただけで。


「そうそう。なんかさー、ラースって飄々としてるっつーか、よく読めないところあるでしょ?だるそーな顔とか嫌そうな顔とかはするけど」

「確かに。頼りなさいって叱られたとき、怒ったり、気を使ってくれたりしてちょっとびっくりしたもん」

「で、彼さぁ、よくマルサンに会いに司令部に来るんだよね。それこそ2日間にいっぺんくらいのペースで」


 アリサがペンと紙を出せというので、手頃なとこにあった紙を取って渡すと、ペンを片手に中央に絵を書き出す。だいぶ簡略化された可愛らしいその絵柄はメガネをかけてニコニコしているとこからするに、マルサンさんのようだ。


「でさ、うちに来るとさ、必ず一直線にマルサンのところに行ってなんかこそこそ話して嬉しそうに帰っていくんだよね。あと、休みの日も会ったりしてるみたいだし、あれはもう出来てるんだと思うの」


 ごくごく真面目に言い切って、マルサンらしき似顔絵の横に、今度はラースらしき絵を書く。


「でさー、インテリおっさん×ヤンキー青年だなって思ってたんだけど、あんたの話聞いてヤンキー青年×インテリおっさんで、頑なな態度だったやや枯れインテリおっさんが、仕事でお馬鹿ヤンキー青年に怒られて、絆されて心を開いて落ちていくっていうのも萌えるなぁと思って」


 やや枯れとかお馬鹿ヤンキーとか酷い言いようだ。


「いや、怒られたのあたしだし」

「なによ、じゃああんたラースに絆されるの。その場合は男になってくれなきゃ困るわよ。ただでさえ、マック×ウィルがなくなって楽しみがないんだから」


 身も蓋もないことを言われてあたしは肩を竦めたみせたが、当の彼女は書いた二人の似顔絵の間に矢印やら小さな文字やらを細かく書き込んでいて、こちらを全く見ていない。その横顔はとても楽しそうだ。


「っていうか、本当に絆されて惚れちゃったの?あんたにはウィルっつー王子様がいるっていうのに。あ、例えのつもりで言ったけど、あいつ本当に王子様だったわね」

「……ラースに惚れるとかありえないから大丈夫。あ、そういえば、ウィルたちが今回行ってる任務ってどんなのなの?」

「ウィルのところは誤魔化したわね。今までどんな事件が起こっても興味なかった癖に」


 胡乱げな目をしてこちらを見るアリサに慌てて首を振る。


「ううん。今日会ったら聞こうとずっと思ってたの」


 一週間前、ウィルたちが出かける時から聞こう聞こうと思っていたのだが、あたしが聞きやすい人たちはみんな揃って忙しそうでなかなか聞くことができなかった。仕事をしていて聞こえてきたのは、どうやら広範囲にわたって起きており、アリサの言っていた通り、調査が難航しそうだという話だけである。


「あら珍しい。今まで一度も気にしたことなんてなかった風だったから、うちの組織の人間としては珍しく、悪魔とか事件とか興味がないのかと思ってたわ」


 今までは小説で読んだことがあるからなんでも知っていた……知っていたつもりになっていたから必要がなかっただけで、事件の話は興味がなかったわけではない。吸血鬼事件が起きるのが遅くなったせいで順番がおかしくなったが、ウィルの出生の秘密がわかって、その後、半年かかる大型の事件を一つ解決するという流れから考えると、この間の長期派遣で最新刊までの内容が終わったことになる。


「みんながどんな事してるのか、興味わいたの」

「そうよね。あんたも魔力が芽生えたし、どこに異動になるかわからないもんねぇ。事務系以外に配属になったら興味ありませんじゃ済まされないし」

「え、あ、あるかな異動…」

「そもそも異動がまったくないって保障はないわけだし。ほら、第一研究室のボッツさんって冴えない人いたじゃない、あの人も研究職だったのに志願して情報部員に職種転換したし」

「え!?そうなの!?」

「司令部もマルサンが来たから、次のタイミングで誰か異動かなって話も出てるし……。人事なんて玉突きなんだから、ありえない話ではないでしょ。あんたのとこだってラースが来たんだから、代わりにあんたが諜報部員とか情報部員とか研究職になるかもしれないわよ」


 自分が他の仕事をするなんて想像がつかないが、確かにラースは元諜報部員から半事務職のメール室に来たのだから可能性がないわけではないのだ。


「あたしが諜報部員とか想像つかない……」


 小説に出てきたこの世界ならではの特殊な仕事をする登場人物たちはキレ者で能力も高く、メインキャラ・サブキャラ問わず、いいキャラといい仕事で活躍していた。それがそう言った職種の人たちの全員ではないと思うけど、あたしがそんな風に物語りに関わっていくなんて到底思えない。

 確かにこの世界に転生した当初は、あたしはそういった登場人物の中の一人としてこの世界に生まれついて、主人公達と一緒に戦うんだと信じていたものだ。いつ頃あたしのチートな力が目覚めるのかしらと、碌に勉強もしたことないにも関わらず、毎夜こっそりと小説に出てきた呪文を唱えて魔法が使えるかどうかを試していたのが懐かしい。結局ただの被害者モブだったあたしにとって、その時期は、俗に言う中二病、超がつくほどの黒歴史でしかない。

 転生二回目の今になってやっと、チートとまでは言えないけれど魔法が使えるようになったわけだから、人生とはわからないものである。


「もしそうなったら、あたしの手足としてこき使いまくってやるわよ」


 にっこりと外向けの見事な笑顔で言うと、アリサは今までマルサンとラースの顔を書いていた紙をひっくり返した。


「で、話は戻るけど、今回の事件ってのはね」


 アリサは白紙の紙に地図を書き始める。

 転生して早30余年、すでに見慣れた形の世界地図の一部に彼女は大きく点線で丸を描いた。


「ここら辺の範囲で行方不明者が多いって話があって。とは言っても数カ国にまたがる範囲だし、最初は人攫いが横行してるんじゃないかってことで、それぞれの国が自警団とか騎士団を使って捜査をしていたの―――……」


 だが、いつまでたっても人攫いの現場どころかそれらしき組織の影も抑えることはできなかった。

 少しでも手がかりを求めて、攫われた人達を探してみるかと捜査方針を変えてはみたが、自国だけではなく近隣他国にも攫われた人達はおらず、人身売買の形跡も見当たらない。

 しばらく調査を続けたものの一向に成果をあげられないため、自国での捜査はお手上げとイーリス治安部隊に捜査協力願いが出されてきた。


「それが、複数の国から、ほぼ同じタイミングであげられてきたの」


 さきほど点線を書いた中にある国をコンコンとペンの頭で叩く。簡略的な地図なので正確にはわからないが、叩いた回数から言って、ざっと十カ国弱くらいだろうか。

 それだけの国からほぼ一斉に上がってきたら、不可解な点がまだ見つかってないとはいえ、イーリス治安部隊も動かない訳にはいかない。ウィルたちが行く前に少数の諜報部隊と情報部隊で拠点を作り、各隊を派遣する準備と平行して調査をはじめたそうなのだが、まったく尻尾がつかめていないそうだ。


「奇妙なのがさ、まったく何の手がかりもないのに、消える人は一定のペースで消えて行ってるのよね」

「見つかった人はまだいないの?」

「そー、それもうちが調査をはじめてからも一人もいないのよ。これはいよいよ悪魔の仕業が濃くなってきたってことで、『神隠し事件』と名づけて、取り合えず数投入して、面で調査を開始したわけ」


 特にウィルたちが投入された地域で消える人が多いらしいが、消える人や場所、地域になんの関連性や規則性も見つかっていないらしい


「こんだけ数百人規模で人が消えてたら、生きてようが、死んでようが、どんな姿であれ居場所位はつかめそうなもんなんだけどねぇ…」

「ちょ、死んでようがって…」

「いまさら何言ってんの。就職してから今まで、事件なんて呆れるくらいあったじゃない」


 そう言われると、主任や白い部屋で吊るされていた女性たちを見た事件を思い出す。正直、今でも思い出すと背筋が寒くなる、あの光景。あたしにとったらあれがこの世界で死に初めて触れた瞬間で、良くない意味でだけど、あたしが生きているのは現実なんだって実感させてくれたでき事の一つだった。

 そういえば、と、同じ場所に囚われていたエレノアの妹さんのことを思い出す。彼女もまた死神の遣いとしてこの世界に生まれていて、正確にはこの世界の住人ではない。彼女自身にその自覚はないと白い死神の彼は言っていたが、この世界の穢れを取って短命で死ぬと決まっているなんて可愛そうだと思うのは、的外れで余計なお世話な感情だろうか。


「ま、またあんたにもまた緊急の荷物の仕分けとか速達とか頼むかもしんないし、なんか進展あったら教えてあげるわよ」

「あ、うん!ありがとう!」

「じゃ、そろそろ夕飯食べに行きますか」


 あたしが事件のこととか色々思い出して少し落ち込んだのを察してくれたのか、アリサは明るい雰囲気に変えてそう言う。それに笑顔で頷くと、あたし達は部屋を後にして食堂に向かった。

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