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メール屋さんの秘密事情  作者: いたくらくら
第二章 メール屋さんの恋事情
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夢を思う

 ここ最近は部活がないから幸せ。

 うちはよくある一般的な中学校だから、何か必ず一つは部活に入らなければならない。特に熱い思いがなかったあたしは、最初に仲良くなった友達が入るという理由でくっ付いて陸上部に入った。そんな理由で入部した奴が活躍することは当然なく、サボることなく真面目に3年間続けたが、公式試合にでるための部内の選抜にも漏れ、最後はユニホームを着たマネージャーと化していた。


「かな、今日は?」


 あーちゃんは最近新しくしたカーディガンの中に、セーラー服のスカートを折り込んで短くすると、あたしの方を振り返った。薄いピンク色のカーディガンは濃い紺色のセーラーには若干合わないが、彼女の行くお金持ち学校のベージュのブレザーにはきっと良く似合うだろう。


「今日はねー、夕方のアニメの間にテレビCMが初めて流れるの!」

「はいはい、つまり帰るってことね」


 大きな声で答えるあたしに、恥ずかしいからやめてくれと言わんばかりの視線を向けてくる。


「声は入っているのかな~…ウィルは誰だろうね!」

「言っとくけど、あたしに同意を求めてもまっっったくわからないからね」


 同じ陸上部でスプリンターとしてエースを務めていたあーちゃんこそ、あたしが学校に入って最初に仲良くなった友達だ。

 あたしがローファーを選べば、彼女はスニーカーを選び、好きな食べ物も魚と肉。あたしがファンタジー小説が好きなのに対して、彼女はヤンキー漫画が好き。なによりあたしはオタクで彼女はリア充だ。

 まったくと言っていいほど趣味が違うが、3年間ずっと一緒にいた親友。高校に行ったら離れてしまうが、きっとずっと仲良くし続けるだろう。


「あんたは本当にその小説好きよねぇ」

「だってすごい面白いんだもん!あーちゃんも読めばいいのに」

「はいはい」


 下駄箱で上履きからローファーに履き替えると、あたし達は外に出た。


「あたしは本とかまったく読まないからあれだけど、ずいぶん面白いんだなって事だけはあんたを見ててわかったわ」

「アニメ化したら見なよ!今年の夏からだよ!」

「あたし、アニメとかドラマとか毎週同じ時間に見なきゃいけないとかってやつ嫌いなのよねぇ。ちょっとずつしか進まないし」

「えー…でもね、ウィルっていう主人公がね!めちゃめちゃかっこかわいいくて!ハーフサキュバスの息子…あ、正確にはインキュバスのクオーターなんだけど…」


 小説を読むのも嫌、アニメを見るのも嫌という彼女に、いかにウィルがかっこよくて素敵かという話をしようとして、あーちゃんにしっと止められた。


「もう聞き飽きたわよ。なんだったらそのまま言えそうだわ。本当、あんたこんなんであの高校行ってやってけるのかしら」


 あたしが行く高校は偏差値は中の上くらいではあるものの、比較的新しい学校で、行事などに力を入れている。そのため人気が高く、ワルじゃない類の派手な子、つまりリア充が多い。


「わかってるよぅ。来年からはちゃんと高校デビューするもん」


 そう口を尖らせるあたしに、あーちゃんはどうだかと苦笑する。

 その後も中学校生活を惜しむように、くだらない話を続けながら歩いた。

 駅前につくと、あたしは徒歩、アーちゃんは電車に乗るために別れた。


「じゃあねー」

「また明日!」


 そう大声を出した瞬間、笑って手を振ってくる彼女が、いや、彼女だけでなく周りの全てがすごい勢いで右に流れていく。

 最後に青い空が視界いっぱいに映って、ああ、あたし投げ飛ばされたんだと思ったところで目が覚めた。






「…あー…もう…」


 最近では声を出して飛び起きることもなくなったが、それでもやはりこういった目覚めは気分が悪い。

 天井を見つめながらゆっくりと鼻から息を吸って吐くを数回繰り返し、あたしは上半身を起こした。パジャマ代わりのジャージは暑くもないのに汗でぐっしょりと濡れている。


 一番最初の人生の夢を見たときは、必ず最後投げ飛ばされて終わる。授業を受けていても、映画館にいても、夕飯をたべていてもそうだ。右から何か強い力に押されて、室内でも青い空が視界に入り、地面に打ち付けられる前に飛び起きる。

 それが、トラックに撥ねられた実体験の記憶なのか、そうやって死んだと思い込んでいるからかどうかはわからないが、それでも毎回撥ね飛ばされたような衝撃で目が覚めるのは気分がいいものではないので、いい加減勘弁して頂きたい。

 起き上がって、水差しにいれていた水を取りに行く。なんとなく夢の内容を思い出しながらゆっくりと常温の水を流し込んだ。


(そういえば、あたしウィルが一番好きなキャラだったんだよね…)


 しかしそれは恋とか言うより憧れで。いうなれば絶対に会える筈のないアイドルにきゃあきゃあ行っているようなものだった。

 半年たった今でも、彼に「好き」と言われたのが信じられない。信じられなさ過ぎて、これはよくある植物状態のあたしが都合よく見ている夢でしたオチなんじゃないかと思ったけど、何度寝ても覚めても、あたしの部屋はイーリス治安部隊本部、住居棟一階にある狭い部屋のままでだった。もちろん、アリサに頬を抓られたら痛い。

 そうして、ようやくその事が実感を伴った頃、今度は疑問と不安という感情が心の奥から顔を出してきた。




 どうしてあたしのこと好きなのかな。

 …あたしなんて魅力無いのに。


 いつからあたしのこと好きなのかな。


 …一緒にいる時間はあたしが知ってるみんなよりも短いはずだ。




 そうして袋小路に陥った思考は、最後に一番大きい不安の穴にすとんと落ちるのだ。




 本当に、まだ好きなの?


 …半年前に「好き」と一度言われてから、一切そのことに触れられていないじゃないか。

 



 好きと言われた翌日に廊下で見かけた時、あたしは酷く緊張して目も合わせられなかったけど、彼は普通に挨拶をしてくれた。あたしは、それに辛うじて頷けていた…と思う。

 そこから暫く彼は長期の駐在任務に出て、ずっと本部にいなかった。

 やっと帰ってきたのはその五ヶ月後で、また少し大人っぽく綺麗になったかれにあたしはさらに緊張してしまった。

 帰ってきてからも彼は相変わらずで、重たい荷物がある時はあたしが仕事をしている第四研究室まで持ってきてくれる。カイリー達と飲み会(といってもあたしやエレノアは飲めないけど)をした時も、ごくごく普通に話をしてくれる。

 でも、酔っ払った時に二人になっても前みたいに甘えては来なくなった。自意識過剰かもしれないけどじっとあたしを見ることが少なくなった。

 時間がたった分、以前より良く話したし、相手を良く知るという点では以前より格段に仲良くなったと思う。しかし、彼から距離を大きく縮めて来る事はいまやもうまったくと言っていいほどなくなってしまった。




 ねぇ、あたしをどう思ってる?



 


 最初にその答えを相手に渡すことを放棄したあたしに、それを聞く権利はもはやない。


結局はじめてしまいました…すみません、よろしくお願いします。

反省点と頂いた感想と参考にしつつ、もっと楽しんでもらえるよう、頑張ります。

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