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メール屋さんの?ハイテンション カウントゼロ パート3

 アリサの部屋に言って事情を話すと、ややかぶせ気味に「マクウィルの現場とか行かないわけないでしょう、何バカなこといってんのよ」と言われたので、15分後に集合なことを伝えて、自分の部屋に戻った。ちなみにあたしは組み合わせるとしたらマク×ウィルじゃなくて、ウィル×マクの方が萌える。いや、ウィル×カイが好きだったんだけどさ。


 とりあえず仕事着を脱いで、ジャージに着替えると、部屋の冷蔵庫と、棚から、食材を適当に見繕ってトートバックに入れた。あ、一昨日焼いたピロシキもお土産がわりに持ってこう。冷蔵庫に入れてたとはいえ、たぶん今日か明日が最後だろう。

 時間を確認するとまだ少しだけ余裕があったので、はじめてしたメイクも落としてから、あたしは部屋を出た。


「おー、きたきた」


 待ち合わせ場所に向かうと、すでにアリサとウィルの他にマックとカイリーもいた。どうやらマックはラウンジの宴会に参加して今までも飲んでいたようで、顔が少し赤く目尻もいつもより下がっている気がする。


「ごめん!お待たせ!」

「いえ、時間よりも早いですから」


 聞くと、カイリーもラウンジの宴会に参加していたらしく、マックが一緒に連れてきたとのことだった。


「お酒も飲まないのによく参加できるわねぇ」

「え、あの雰囲気がいいんじゃん」


 下町育ちのカイリーは飲み会の雰囲気が楽しいらしく、だいたい毎週あの場にいるらしい。今日は、腕立て伏せ飲みをして、負けた側が強めのお酒を飲み干すというゲームをしていたそうだ。何その大学生みたいなノリ。


「こいつが負けた時は俺が飲むってなってたんだけど、なっかなか負けなくてさー…最後の方はむしろ喉乾いちゃったよ」


 飲んでる男の人VS素面のカイリーだと、同じ戦闘職種でもなかなか敵わないようだ。学園でちょっと見た時も彼女の剣技は素晴らしかった。男女別に評価されていたけど、もしかしたら男性にも引けを取らないのかもしれない。


 マックがポケットから鍵を取り出し、がちゃっと音を立ててドアを開けるとウィルとカイリーはさっさと中に入って行った。

 もしかしたら、カイリーも来慣れてるのかなとちょっと胸が痛くなって、身の程違いだと首を振った。

 そりゃあ確かに最近三人とちょっと仲良くなったけれども、三人は仕事もいつも一緒だし、硬い絆で結ばれたメインキャラ様なのだ。モブの私が仲間外れ気分なんて調子に乗っていいはずがない。


「お邪魔しまーす」


 中にはいると短い廊下の先にリビングがある。

 カウンター型のキッチンはあまり広くないけれども、十分しっかりしていて羨ましい限りだ。


「で、何作ってくれんの?」


 あたしの持ってきた袋を覗き込まれて、思わず反射的に中が見えないように抱え込む。


「たいした物じゃないし、マックはもう夕飯食べたでしょ!」

「いやー、食べたけどさぁ、アテがほしいっつーか」


 そう言いながら冷蔵庫からお酒の瓶を二本取り出すと、ウィルに向かって一本差し出した。


「いや、俺は腹減ってるからとりあえず酒はいいや」

「ちぇ、付き合いわりーな」


 そう言いながら自分の分だけ蓋を開けると、マックはソファに腰をおろした。見るとウィルは手ぶらだし…


「もしかしてウィルの分もまとめて作っ…ていいの?」


 作った方がいいの?と聞くのはなんか悪くて、ちょっと戸惑いながら聞く。


「あの…ご面倒でなければ、そうしてくださると助かります」


 控えめに言いながら、そうしてもらう気満々の笑顔で返された。仕方ない。パスタも肉も袋ごと持ってきたからたしかに作れないことはないし。


「いーなー、俺もー」


 ウィルのために出してきて瓶も開けながら、マックが言う。もう一本開けたのか、早いな。


「こないだ焼いたピロシキあるから、あっためるし、それ食べて。じゃ、キッチン借りるね」


 滅多に使われてなさそうなそこに一通りの設備が揃っているのを確認するとあたしは料理に取りかかった。





 先に温まったピロシキを出してからミートソースパスタを作り、二皿に盛ってリビングに戻る頃にはマックはだいぶ飲んだのか、寝てしまったようだった。

 そこそこ大きいソファなのに、彼のガタイだとちょっと狭そうだ。


「あら、マックおねむなんだね。」

「今日一番活躍したし疲れてるんですよ」

「あたしもウィルも感知系の魔法ってそんな得意じゃないしね。まさかあんな雑草のせいだとは思わないし…」


 そういえば、マックはなんでもできる…というか、なんでもできるように頑張る努力の人だったもんなぁ。


「そっかそっか。お疲れ様だねぇ」


 ウィルの前に一皿おくと、あたしはアリサの横に腰かけた。


「…頂きます」

「はい、召し上がれ」


 きっちり手を合わせて挨拶をしてくれたウィルに返すと自分もフォークで食べ始める。うん、可もなく不可もなし不可もなく、普通のミートソーススパだ。欲を言えば粉チーズが欲しいけど、この世界じゃ一から削らなきゃいけないから今回は我慢だ。


「どうっ?」


 黙々と食べるウィルに楽しそうな顔でカイリーが尋ねる。アリサは心なしか…いや、間違いなく笑いを堪えている。なんだ二人ともそんなにまずそうに見えるのか。失礼なやつだな。


「…うまい」

「そっかー!ピロシキも美味しかったもんねぇ」


 カイリーがうんうんと頷く。なんかよくわかんないけど、なんとなく、料理を作った彼女とそれを食べる彼氏の図に見える。作ったのあたしなんだけどな。とりあえず美味しいんだったらいいか。

 そんな二人のやり取りを正面に見てたら、アリサが横からフォークを伸ばしてきたので手を避けてやると、一口とっていった。


「そういや私、あんたのパン以外の料理はじめて食べた気がする。パン以外も作れたのね」

「パンはよくもらってくれてたもんねぇ」

「パン作りが趣味なの?」

「カイリーたちには言ってなかったっけ。あたしの実家、パン屋なんだよ」

「腕が鈍らないようにって、毎日色んな種類作ってたもんねぇ」


 その癖、友達いなかったからほとんどがアリサか先生に貰ってもらってた。先生へのお裾分けは、成績良くしてもらうための賄賂だとか、何色目使ってんだとか言われてから辞めたけど。


「へー…じゃあ将来は継ぐの?」

「うーん、まだわかんないけどね。みんなと違って魔力とか特技があるわけでもなし、この組織に必要不可欠って話でもないから、まだこれから考える感じかな」


 親が継がせてくれるのかとか、そう言うのもこれから相談だし。ただ、今まではもしも生き残れたらって言う、もしも話だったけど、今日からは現実の話なのだから、ちゃんと考えなくちゃいけない。


「そっかぁ。でも将来の事を考えてるのっていいね」


 カイリーの一言は、きっと考えてるなんて偉いねとかの意味なんだろうけど、今日のあたしにとっては、将来を考えられる事って幸せねって言葉に聞こえた。

 その優しい一言にちょっと涙が出そうで、残りのパスタを口に詰め込むと、パスタと涙を一緒に飲み込んで、彼女に微笑み返した。

カウントゼロはこれで終わりです。詰め込み過ぎちゃった一日のお話。

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