転生モブのやり直し
とりあえず、自己紹介回です。メインキャラ出てこなくてすみません…!
「カナぁ、こっち終わったぞー」
気だるげにかけられた声に、あたしは封筒の束を持ったまま顔をあげる。
すでに背を向けている声の主の横には、キャスターがついている棚があり、四段中三段がすでに埋まっていた。
「はーい。ありがとうございます。」
あたしはお礼だけ言うと、また自分のデスクに向き直り、持っていた封筒の仕分けを始める。
同じ階、同じ人。それらで分類すると、決められたクリップで左上を閉じ、ボックスに収めた。
「配布いってきまーす」
二人しかいない部屋で、もう一人に声をかけると、彼はこちらに顔を向けないまま小さく頷いた。
部屋を出てカラカラとあまり質のよくないキャスターを押しながら建屋内を歩く。すれ違う人にお疲れ様ですと挨拶をしながら、それぞれの執務室やデスクに書類や手紙、時には小包を置いていく。
そう、あたしの仕事は、所謂メール室というやつだ。日々出される社内便を回収、仕分けして届ける仕事。外部からの小包や手紙は安全検査もする。
といっても、皆さんの考える一般企業とはちょっと違う。
なんせ、ここは世界自体がファンタジーなのだから。
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あたしには過去二回の人生の記憶がある。うち一回は、俗にいう転生ってやつだと思う。
最初の記憶では、2000年代の日本で生きる、ゲームとファンタジー小説が好きな女の子だった。公式カップル万歳!だけどもちろんBLも読むよ!目の保養になるからね!くらいの、どこにでもいるオタク女子。
なんの変哲もなく暮らしていたけれど、中学校を卒業した15歳の春、高校に入学する前日に私はトラックに引かれて死んでしまった。普通に青信号を渡ってたらトラックが突っ込んできたのだ。
大きく投げ飛ばされて、あぁ、あたし死ぬんだなぁ…せめて大好きな小説の最終巻が出るまで生きてたかった、なんて呑気なことを思って目を瞑ったら次の瞬間には、赤ん坊になって、女の人に抱かれていた。
何これと驚いてるのも束の間、偉そうな真っ白い服を着たとっぽいにーちゃんが覗き込んできて言ったのだ。
「ごめ~ん。間違って殺しちゃったから、転生させといた!」
あたしにしか見えない様子のそいつはへらへら笑いながら軽い口調で謝った。そして、生まれてすぐで体を洗われたり服を着させられてるあたしについて回りながら、事の経緯を説明しはじめたのだ。
「やー、俺死神っていうんだけどさ、日本人の名前って難しくって、間違えちゃった☆」
どうやらそいつが言うには、前世であたしが死んだのは人違いだったで、お詫びに死ぬ間際に思ってた小説の世界に転生しておいてくれたそうだ。これで結末までわかるね☆と軽くウインクしたそいつにはものすごく腹が立ったが、赤ん坊のあたしは文句を言うことも殴ることもできなかった。
あたしが転生した小説は、魔法が存在する世界で、悪魔が起こす怪奇事件を治安部隊に所属する主人公たちが力をあわせて解決して行くファンタジーライトノベル。
人の心の闇につけいった悪魔が起こす事件はグロテスクな描写がされていて、それがなんともまた怪しげな雰囲気を醸し出していて、ファンも多い。二次創作大盛り上がりは勿論、アニメ化も予定されてた人気作だ。
そんな世界に転生できるなんて!と喜ぶこと数年。一向に魔力も芽生えなければ、メインキャラとも接触しないうちに、あたしは気づいた。
(あたし…モブだ!)
そうあたしはなんの能力も持ってないどころかメインキャラとも関わらない、ある国の王都にあるパン屋の娘として生まれたのだった。
気づいてから暫くは、折角転生したのに!と嘆いていたけれど、生まれ変わってしまったものは仕方ない。
メインキャラの様子は事件の噂を聞くだけで知る。そんな人生でもこの世界に生きているだけで、幸せだった。15歳まで。
そう、15歳になって向かえた春、またもあたしは死んでしまった。第三巻に描かれていた事件、吸血鬼事件の被害者として。
その日、あたしは我儘な貴族の急な注文により、父母がイレギュラーで夕方に焼いたパンをお屋敷に届けた帰り道だった。
(あ、このイケメン吸血鬼、挿絵で見たことあるーーーー)
なんて、呑気に思っているうちにあたしは首筋をがぶりと噛まれた。あっと言う間となく、あたしは意識を失い、最後はたぶんミイラになったのだろう。
そうして理解した。第三巻の内容にあたしは出てきていたということを。
そう、それはたった一行だけのメインキャラのセリフ。
『被害者はすでに七人。雑貨屋やパン屋の娘など…みな若い女性ばかりです。』
つまり、あたしはモブはモブでも被害者モブとして、物語にも名前もでてきやしない役だったのだ。
成仏しろよというのを粘りに粘り、あたしは前回あたしを転生させた死神を呼びつけ、なんでまた15で死なせるのかと叱りつけた。
なによりメインキャラと接点も無いし、物語を最後まで見てないから、もっかい転生させなさい、としつこく…それはそれはしつこ~く迫った。
叱りつけはじめてから一昼夜はたっただろうか。彼は疲弊した顔で言ったのだ。
自分は本来死を司る神様で、別の転生先を探したり、器を用意するのはとても力をつかう。前回はこちらに非があったから転生を行ったけど、その時にだいぶ力を使ったためにこれ以上力を使うと通常の仕事に支障が出る、と。
「同じ人間としてもっかい最初っから生きるってならなんとかするからさ、それで勘弁してよ」
これまた仕返しのように一昼夜かけて説得された私は、別の人間として転生することを諦め、仕方ないから同じ人間として生まれることにした。
死亡フラグは自分でへし折ることを決意しながら。