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第7話:出会い(1)

つい二日前も行ったばかりだったが、あのときは全く読めなかった。


高校から図書館までは歩いて15分ほどの近さにあるので、こうやって不意に暇になったときに寄る場所としては、最高の場所である。もちろん、本の虫の桃香にとっては、ということだけれども。



日が長い季節なので、四時すぎとは思えない明るさだ。

帰宅部の人たちがちらほらと帰っていく中、ひとり違う方向へ曲がって、軽やかに歩いていった。集まらない美術部に対して不機嫌になっていたのはきれいに忘れていた。


館内に入って、桃香は鼻歌でも出そうな勢いで、本棚から面白そうな本を一冊選び出した。そして悟られぬようにほくそ笑むと、窓際の机に腰掛けた。

平日の夕方なせいか、席はがらがらに空いている。

それを確認して満足し、いよいよ本の世界に落ちていった。






どれくらいたったのだろうか。

誰かの視線を感じて、ふと顔を上げた。

まだ現実に戻りきれておらず、心が宙にさまよっているようだ。ぼんやりと視線の元を探すと、机の前に人が座っている。

あ、(とう)高の人だ。

ぶるぶるっと頭を振り、意識をはっきりとさせた。

こんなところで高校生に会うなんて珍しいなぁ。この人も本が好きなのかな。

そんなことを考えながら、あれ、と気が付いた。

何でずっとこっち見てるの?

「あの、」と聞きかけると、続きを言うより前に、その人が口を開いた。


「君、東高だよな。」

「え、あ、はい。」

「俺も。」

そう言うと、その男子は生意気そうにほほえんだ。桃香は、

「それは、見れば分かります。」

と、率直に答えた。すると、彼は気の強そうな目をわずかに見開いて、

「何で。」

と聞いた。

「え、だって校章ついてるから…。」彼の制服に付いた校章を指さした。彼もそれを見て、

「あ、それはそうだな。」と納得した。それきりなかなか次の言葉を言わないので、桃香は沈黙を破ろうとして、

「それで。」と、促した。

「ああ、俺が東高って分かるなら話は早いや。あのさ、きみ何年?」

「2年です。」

「じゃあちょうどいい。俺も2年なんだけど、頼みがあるんだ。本当はこんなこと、会ったばかりの人に頼むなんておかしいって思ってる。けど、他に頼れるやつもいなくて、どうしようかなって考えていたときに、たまたま同じ東高の人に会えたんだ。無理は言わないけど、ひきうけてくれない?」

「それは話によりますけど。」

「実は、今度の選挙で立候補しようと思ってる。」

「選挙?それってまだまだ先の話じゃないですか。だって今5月でしょ。次っていったら9月になりますよ。」

桃香は目を丸くした。

「そんなこと知ってるよ。まあ話を聞けよ。

で、その選挙はおまえも知ってるだろうけど、応援者ってのが、応援演説するだろ。普通は前生徒会長とか、立候補者のダチとかがやるもんなんだけど、俺の場合、おまえにやってもらいたいんだ。」

「あたし?え、何でですか?}

「今日、こんなところで会えたから。」

「何それ。意味分かんないし。」

「いや、そうなんだけど。」

「もしかして、あなた友達いないんですか。」

言ってしまってから、桃香はしまったと口をつぐんだ。いくら何でも、初対面の人に失礼だったかもしれない。しかし、向こうの言い分も訳が分からない。なぜ初対面の人に応援演説などを頼むのだろうか。本当に友達がいない人なのかも、と思って、桃香は相手を観察した。


座っているから分かりにくいが、背はそこそこ高そうだ。顔は整っていて、髪型も制服も、清潔感あふれている。かといって、真面目一点張りというのではなく、センスがいいといった感じだ。これなら友達も多そうで、女の子たちにも好かれていそうだ。


「いない訳じゃない。」

彼は渋い顔で視線をしたに逸らした。

「ごめんなさい。そんなつもりじゃ。」

「あ、別に正直に言ってくれていいよ。その方がラクだし。

ってか、やっぱりいないのかも。みんな表面だけっていうか、俺がホントに信頼してるやつはいないかもしれない。」

そんな悲しいこと言わないでほしい。桃香はそういう世界は女子だけだと思っていたので、男子の世界も大変なんだと、少し驚いた。

「じゃあ、何であたし?」

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