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第5話:A組

「あ、そうだ。もう一つ聞いておきたいことがあるんだけど。」

亜矢は真面目な顔つきに戻って尋ねた。

「そいつって誰?」

あ、ホントだあ、忘れてたと、かなこも答えを促した。

「早坂(そう)くんってひと。」

「早坂蒼…。ん〜、聞いたことある気がするなぁ。」

「あ、まえチコたちがかっこいいって言ってたよ、たしか。へえ〜、そういう風に騒がれてる人ってナルシとかかと思ってたけど、案外見る目あるんだね。」

「え?何で?」

聞いてから、桃香は褒められたということに気が付いて、「見る目がないの間違いでしょ。」と言った。

「まぁ、それはおいといて。」亜矢は顎に当てていた手を外して聞いた。

「それってA組の人?」

その言葉でようやく、桃香は亜矢が何をこんなにも心配していたのか分かった。

「ううん、違う。だから全然そんな人じゃないよ。4組だって。」

「4組?ああ、ならよかったわ。」

ふうっと肩を下げるのを見て、桃香は安心してもらえてよかったと思いながらも、心の奥の方にもやもやとした(わだかま)りを感じていた。




実は、桃香たちが通うこの学校はある事情を抱えていた。


ここ、東城(とうじょう)高校は県内一の進学校と呼ばれていて、そのシステムも少し変わっていた。A組と4組―また、桃香たち3人の属する7組。ここに違和感を感じる人はないだろうか。

そう、A組だけおやっと思うだろう。

東城高校は各学年普通クラスが8クラス、そして特別クラスと呼ばれるA組を合わせて一学年につき9クラスという編成である。8クラスのうち、1組から4組が理系、5組から8組が文系となっていて、理系は8割方男子が、文系は7割方女子が占めていて、そこは何ら他の高校とかわりはなかった。

しかし、この学校が進学校として名をあげているのも、また毎年10人近くを東大に送っているのも、この特別クラス―A組の存在に他ならない。

A組はこの学校でも一番成績のよい二十五人が厳選されている。年度末ごとに特別テストがあり、そのテストの上位二十人ほどと、残りは先生たちが運営する委員会が選んでいた。そして、普段の授業から優秀な先生が当てられ、使っている教材もワンランク上のものだった。そこの生徒たちは、完璧な環境のもと、東大・京大を目指して日々勉強にいそしんでいる。

選りすぐりの生徒たちには勉強以外の不安も何もなく、凡人クラスの生徒には雲の上の存在だった。

まず、教室の前を通りにくい。非常に通りにくい。

そこのクラスだけ雰囲気が違い、妙な団結感があって、他をよせつけないオーラを放っていた。穏やかに見えて、実はお互い腹の探り合いをしているような緊張感が走っているのだ。



そんなクラスだったから、もちろん他の生徒たちには嫌われていて、目の前を彼らがすぎたなら冷たい視線を送った。A組の生徒の方もそれを分かっているのか、普通クラスのことを嫌っていて、自分たちとは世界が違うのだと思っていた。

お互いが歩み寄ることはなく、嫌いという気持ちはエスカレートして、2年にもなった今は憎しみに近いかもしれない。


桃香も普通クラスの身として、A組が大嫌いであった。A組の子は成績を上げることしか頭にないように思われたのだ。

ただ、その嫌い方が少し変わっていた。

桃香は元々頭はよかった。しかし、A組なんかに入るもんかという意地で、特別テストはかなり力を抜き、自ら二十五人の枠を外れる努力をしていた。もし本気でやったなら、悠々入れるのだろう。でも、どうしてもプライドが許せなかった。



ぐるぐるぐると沈んでいて、桃香は唇をきゅっと結んでいたが、もやもやを振り切って言った。

「あははっ。蒼君はそんなんじゃないよ。それに、いくらあたしでも、Aの人に聞かれたら教えないし。」

「いやぁ、そうだよな。悪い悪い。」

亜矢は長い髪をかき上げて謝った。







かなこだけは、そんなふたりの様子を心なしか悲しそうに見ていた。

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