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第4話:報告

月曜日。


金曜日に始まり、土、日と彼とメールをしてきたが、まだ誰にもそのことを言っていなかった。そこで桃香は、仲のよい友達と静かに話が出来るチャンスを、朝学校に来てからずっと狙っていた。

が、なかなか、意識しなければたやすい用事なのに、今か今かと待ちかまえているとかえって難しかった。休憩時間、教室内ではクラスの子がみんな教室のあちこちにいて、他の人に聞かれると嫌だし、廊下も野球部の軍団がたむろしていたり、テラスも先客がいるのでダメだった。


桃香が「聞いてほしいことがある。」と言ったきり、まだダメここも嫌と駄々をこねているので、友達たちも待ちくたびれてしまった。

「もう、何なの?朝から何か言いたいことがあるんでしょ?」そう言って、桃香の机をぽんっといい音をさせたのが、友達の一人である河合亜矢だ。すると今度はその隣から、

「あたしも知りたーい。何かイイことあったんでしょ?」

と、目を輝かせて別の子も聞いた。

「桃がそんなに場所選んでるってことは、まさか恋の話題とか〜」

キャハハハと声を上げて、顔をしかめる桃香をのぞき込んだ。この子は藤森かなこ。楽しそうなことがあるとまっしぐらで、恋とつけば尚のこと、興味津々になってしまう子だった。

桃香が黙っていると、

「えっ?そうなの?へえ〜、いいなぁ〜。」

かなこはさらに詰め寄った。

「いや、そんなんじゃないけど、てか今話せないの。」

「なんで?恋だって顔してるよ。そんなにここじゃダメな話なの?」

「だから、場所とかそういうのもあるけど。」

「何?」

「だから…、あの、言うのが恥ずかしいだけっ。」

桃香が照れると、

「え〜、やっぱり好きな人でも出来たか。」

かなこはここぞとばかりに食らいついた。

「こらこら、あんたもほどほどにしなさい。桃、困ってんじゃん。ったく。」

「何で〜。だって、亜矢だって知りたいだろ?」

かなこはぷうっと頬をふくらませると、じろっと亜矢を見上げた。

「桃の一大事だよ?」

「まぁねぇ。」

2人が何やかやと大声で話すので、桃香はあわてて、

「いや、一大事ってほどじゃないし。」

と、二人の会話を遮った。

あんまりもったいぶっていると拍子抜けされてしまうかもしれないので、桃香はやっと報告した。

「実はね、金曜の放課後、男子が教室までやってきて、ワーワー言いながらあたしに用があるっぽかったの。で、そのひとりにメアドを聞かれたんだ。」

「えーっ、桃が?男子に?」

「マジで。」

二人はびっくりして大声で叫んだ。

「すごいじゃん、かっこいい人なの?」

「うん。」

「へえ〜。」

少なくとも、桃香でも他のかたまりくんたちとは違うな、くらいの識別がついたのだから、かっこいいと呼べるのであろう。かなこはまるで自分のことのように喜んでくれているけれども、亜矢はしかめっ面をして尋ねた。

「そいつ、いいやつなの?」

「え、さあ…、まだメールちょっとしかしてないから、よく分かんないけど。でも、いい人。」

「ならいいけど。あんまり調子に乗るようだったら、即あたしに言いなよ。」

「うん。」

「あんたは、警戒心なさ過ぎ、プラス超鈍感、プラス心配の種だよ。」

「そんなことないし。ちゃんと相手見るよ。」

「じゃあ、今まで誰かに見られてるなって感じたことは?ないでしょ。」

首を振る前に断定されて、桃香は口を突き出した。

「ちょっと、亜矢。心配しすぎだって、おかあさんみたいだよ。今は桃の春の訪れをみんなで祝福してあげるんです。だいたいね、そんなに怖がってたら一生恋なんて出来ないよ。恋は直感と(かけ)ですから。」

かなこは自信たっぷりに言い放つと、桃香の方を見てニッと笑った。

「これから恋してこうね。」

「うん、できるといいな。」

「ま、あんたはともかくあっちはもうその気でしょ。」

「うん、だけど悪い人だったらすぐ縁切ってね。」

そう言ってから、かなこはしまったと亜矢の方を振り返った。おまえも同じこと言ってんじゃん、と亜矢は鼻で笑って、かなこはごまかすように「まぁ、やっぱり友のことは心配だし」とむにゃむにゃつぶやいた。

桃香はそれがなんだか嬉しくて、吹き出してしまった。

「ありがと。」

二人に向かって目を細めると、彼女らも、

「は?何で礼言うのよ。」

「意味分かんなーい。」

と、笑顔で、びしばし否定した。

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