第3話:深呼吸
図書館を出ると、さっきまではガラスに仕切られていた向こう側の風が、桃香のすぐ脇を通っていった。今日は結局1時間ほどしかいなかったのでまだ日も高い。真っ白な雲が太陽の光を反射して浮かんでいる。
多少落ち着いてきて、ひとつ深呼吸を置いた。
あたし、よっぽど浮かれてたんだ。
メアドを誰かに聞かれたくらいでアホみたいに舞い上がっちゃって、ほんとアホなんだろうな。
常日頃から、友達に「ウブすぎる」やら「もっと現実を見なさい」やらだめ出しされているが、自分でもそれは納得できる。彼女たちの言うとおり、少女マンガのように理想の男の子が現れるなんて思ってはいないけれど、どうしても夢を見てしまうのだ。
だから告白したことはおろか、今まで誰からも告白されたこともなければ、現在好きな人すらいない状態が続いている。ちょっといいな、と思っても、かっこいい止まりで、それ以上の気持ちがわくことはなかった。
そんな、恋愛に関しては退屈な日々を送っていたところ、いきなり旋風が巻き起こって、整理するには時間が必要だった。
小鳥たちが街路樹の葉から葉へ、歌い上げながら日を浴びている。
土曜日のこの時間帯だと、部活があっても活動真っ最中なので、アーケードを歩く高校生はいない。ただ若い親子連れや、日傘を差した老夫婦が、眠たそうに歩いている。
「今日はもう帰ろ。」
桃香はひとりごちて、浅くうなずくと、駅に向かってとろとろと歩き出した。