路上に咲く花
この都市では人が見えない。
目の前では確かに人が行き来しているのに、彼らの目に人は映っていない。映っているのは動く障害物だけ。この都市では、誰が誰であろうと関係ない。皆他人という存在に一切関心を示さず、イヤホンで耳を塞いで、自分だけの世界というより強い存在に浸る。
俺はこの都市と星が似ていると思った。
俺たちの頭上には、常に星が存在する。昼間だろうが夜だろうが、そこには星がある。その事実だけは揺るがない。
しかし存在するからといって、それが必ず見えるとは限らない。太陽光や、看板のネオン光や、駅やビルの照明の光によって、都市の頭上には星が見えない。より強い光に、その存在が隠れてしまうのだ。
そこには確かに存在していて、命の光を懸命に灯しているのに、誰にも気づいて貰えない。誰からも見て貰えないのは、寂しいことではないだろうか。
俺は、路上の片隅でひっそりと咲く花に目をやった。
誰のためにそこで芽吹いたわけでもなく、誰かに魅せるために花を咲かすわけでもない。しかしその花には、そういったことなど関係のないことなのだろう。その花に、他のものが関係する存在理由などありやしない。
そしてそれは人にも言えることだろう。自分がその道を歩く理由など、他者にはまったく関係のないこと。
だから人の目には障害物しか映らない。
でもそれはやはり悲しいことで。もし人の目に人が映れば、この世界はもっと変わるのではないだろうか。
俺はイヤホンを外し、路上に揺れる小さな花に手を伸ばす。
俺の目には映っている。そこで輝く君の姿が。