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眩暈

また、朝がきた。今日は船内休日の日。でもいつもの習慣で朝4時に起きてしまった…。とりあえず、調理室に顔を出してこようかな。すっぴん風ナチュラルメイクを施し、髪は水玉柄のシュシュでハーフアップ(髪の毛束上半分を取って、結ぶこと。気になる人は、ネットで検索してみてね!)にして少し普段よりリラックスモードを演出。いつだって女を捨てちゃいけない。いつもの急な階段を上がる。・・・と、なんだか眩暈がしてきた。あ、ダメ。意識が遠のいて・・・


 ん?見慣れない天井。なんだか甘い、いい匂いがする。ここは…って、私朝起きて階段で眩暈を起こしたんだっけ!ハッ、と起き上がろうとした私の両肩ががっしりした手で抑え込まれた。

「貧血だよ、それに過労だね。睡眠不足と働きすぎ、何よりちゃんとご飯食べてないだろ。」

抑え込んできたのは成田和馬なりたかずま(通称カズ)。確か、チームボイスの人。

「え、ちゃんと寝てますよ。それにご飯だって…」

「足りてないの!だから、こうなってんの!」

・・・怒られました。

「すみません。ここ、どこですか?」

「ここは救護室、急病人とか運んで休ませるとこ。この部屋はチームワッチの人も中に入って様子見に来てくれるから安心なの。君みたいにぶっ倒れた人はここで1日絶対安静ね。」

救護室、あるのは知っていたけど中に入ったことはなかったなぁ。チームママの管理している部屋だけど、下っ端の私には任せてもらえない重要施設。お客様が怪我されたり病気になった時使う部屋。ベッドはふかふか、見る限りとっても綺麗。

「あの、ここ私なんかが利用するの勿体ないです。自分の部屋でしっかり休養しますから…」

「あのなぁ、」

成田さんの語気が強くなる。あ、また怒られそう。

「自分で体調管理できてなくてぶっ倒れたんだよ、わかってる?自分で休養しますから~で、明日包丁持って倒れでもしたら、一緒に仕事してる人にも迷惑かかるんだぞ。」

確かにそうです。その通りですとも。

「あの、そもそもなんで成田さんここにいらっしゃるんですか…?」

「通信室に向かう途中でぶっ倒れてる君を見つけたから、運んだの。」

なんだか溜息混じり。でもきちんと一から説明してくれている成田さん。通信室は、船の運航に欠かせない情報がいっぱいやりとりされている部屋。無線機器や船内外アナウンス機材とかたっくさんあって、私には頭が痛くなるような部屋。やっぱり成田さんはチームボイスの人だ。身長180cmくらい、20代後半、独身。結構なマッチョ体系、顔は濃いめ。でも、本当に残念なのがその声。無線使って交信したりするのにあの声は致命的…なんでそんなにガラガラ声なんでしょうか、惜しいです!

「私、重たかったですよね。本当にすみません。」

怖い顔をしていた成田さんの顔からふっと力が抜けた。

「そこを気にするのか?大丈夫だよ、こういう時の為に鍛えてんだし。」

素晴らしい。無駄に筋肉をつけているわけでは無さそう。


ガチャ。ドアの開いた音。誰かがこっちに近づいてくる。

「お~い、入ります、大丈夫か?」

ん、この声は。

「あ、ヒデさん。お疲れ様です。あれ以降異常ありません。バイタル正常です。」

あー、ヒデさんかぁ。って、私は誰が来るのを期待していたのかしら!

「上が90の下50…低いな。」

わたしの血圧、かな?ヒデさんが急にわたしの首の付け根に手を伸ばす。

「普通にしてて」

「えっ・・・?」

「脈も随分遅いな。なんかスポーツでもやってたの?」

脈を計っていたのか。ヒデさんの問いに答える。

「高校3年まで水泳やってました。」

成田さんがオッ、と声を上げた。

「そうか、わかった。今日ここで大人しくしろよ。俺時々様子見にくるから。」

「え~っ。。。」

あ、出ちゃった本音。って、だから私は一体誰が来るのを期待しているの!?

「俺もヒデさんも救急救命士の資格持ってるから。安心して休んでいいと思うよ。」

成田さんが一言。だからそんなにマッチョなんですか!レスキュー系の男の人って皆ストイックで筋肉隆々ですもんね!…あれ?

「ヒデさんは、筋肉ないのに救急救命士なんですか。」

心の声が心に留まらず現実世界に飛び出してしまった。

「バ~カ、脱いだら凄いんだぞ、俺。」

そんなやりとりを聞いて成田さんが爆笑した。

「筋肉だけが全てじゃないから!」

そう言って成田さんは救護室を出て行った。


 「で、お前。トモとはどうなった?」

ヒデさんが探りを入れてきた。というか、レディのことをお前呼ばわりするなんて、女ゴコロちっともわかっていない大人だこと。

「どうもこうもありませんよ。仲の良いお友達です。」

「そう思ってるの、お前だけかもよ。」

・・・!言葉が胸に突き刺さった。トモさん、本当にわたしのこと好きなのかな。やっぱりデートのお誘いへの返事、しなきゃダメだよね。どうしよう。

「お~お~、考え事始めたか。乙女の悩みは尽きないな!じゃあ。また来るから。」

トモさんとのアメリカ旅行は、絶対楽しいはず。でも、チーフと森田さんとの食事も一度はしてみたい。いろんな話が聞けて今後の仕事に絶対生きてく情報が得られるのは確かだから。それに、トモさんとは“なにも”起こってほしくない。今の関係が心地いいの。“なにか”起こったら、一気に男と女になってしまって、今の心地よい距離感・空気感が無くなってしまいそうで、怖い。

「・・・あれ、ヒデさんがいない。」

ヒデさんがいつ部屋を出て行っていたのか、わからなかった。私の頭の中は、もうトモさんでいっぱいだよ。


 ふとベッド横の机に目をやると、いちご牛乳が1パック置いてあった。誰が置いて行ってくれたのかもわからない。私は一体なにを見ているんだか。恋は盲目、まさに今の状態を言うんだろうなぁ。


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