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王と王妃の婚姻契約  作者: 澤野アイ
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03 王妃の素晴らしき結婚生活

 

 砂漠の国ユパーナから、大国ジグジアに嫁ぎ早半年。王妃の結婚生活はこれ以上ないほど充実している。



 王妃とはいえ所詮は属国の姫に、ジグジア国内ではこの婚姻に反発や疑問視する声も多い。

 その上、もし両国の関係がこじれたならば命すら危うい立場だ。

 悲痛な覚悟で嫁いだ王妃だが、待ち受けていたのは、予想もしていなかった王からの『婚姻契約』の提案だった。


 考えるまでもなく、二つ返事で受け入れた。ユパーナ国からただひとり伴った侍女のサーナは、

「こんな男に都合の良い契約がありますかっ! 姫さまを馬鹿にしていますわ!!」

 と怒り心頭で喚いていたが、王妃には自らに都合の良い契約に思えてならなかった。

 私生活に干渉されないので、自由に友人を作ることが出来、趣味に興じても何を言われることもない。

 公で仲の良い夫婦を演じることなど造作もなく、王妃が望まぬ限り体の関係を結ぶ必要もないとは、何と素晴らしい話だろう。

 それなのに、王妃としての地位待遇は保証され、献上金の減量まで約束してくれているのだ。


「私の姫さまはこんなにもお美しいのに、蔑ろにされて黙ってはおれませんわっ」

 実際、王は寵姫の元で生活を送っている。決まった日にしか王妃を訪れないので「冷遇される王妃」と皆には認識されていた。

 ゆえに蔑みの声も届くが、栓無きことと諦めてしまえば、さして気にもならなくなった。

 何より、王妃は王を好ましく思っている。

 寵姫への愛を貫く、誠実で素晴らしいお方だ。高圧的なところはあるが、常に良い友人のように接してくれているし、申し訳ないほど気遣ってもらっている。



 王が苦悩しすぎて倒れたその日。王妃は友人を居室に招き、午後のお茶を楽しんでいた。


「うーわー何だこれ、すっげ美味いっすよ王妃。何入れたんすか、何使ったらこんな深い味わいとコクが出るんすか。不思議な味、でもチーズの風味を少しも邪魔してない。むしろ相乗効果で至高の味に近づいている……っ」

 リッツ・ハルマンは大げさに天を仰いで髪を掻きむしった。

「だぁーだめだっ。分かんねっ、降参!」

「もう降参ですか?実は、ほんの少し煮出したお茶で風味を付けただけなのですよ。もう一口食べてみて下さいな」

 お茶?!

 リッツは一口食べて、再び唸った。ここ最近、王妃には負けてばかりだ。今日のチーズケーキも文句なく美味い。

「そう簡単には負けられません。なんと言っても王宮専属菓子職人との合作ですから」

 晴れやかに笑う王妃の顔は、子供のように輝いている。

「ずりーっすよ、それ」

 リッツは王妃の大切な友人のひとりである。財務省の役人の彼とは、趣味のお菓子作りを通じて知り合った。

 砕けた態度で、率直な言葉をくれるリッツは大切な友人だ。

「そういえば、タキスはまだ戻らないのですか? 確か、十日ほどで戻ると」

 王妃は軍務で北方領視察へ向かったもうひとりの友人のことを思い出した。

「はい。ちょっと天候がおもわしくないらしくて。山間部で手間取ってるらしいっす。でも明後日には帰って来ますよ」

「そう、寂しいですね。ね、リッツ」

 うふふ、と王妃が含みのある視線を向ければ、リッツはたちまち耳まで赤くして俯いてしまった。

 幼馴染のリッツとタキスは、まぁなんと言おうか、からかうと可愛らしく赤面してしまうような仲なのだ。



「これ、陛下にもお届けしようと思うのですけれど、どうでしょう?」

 王はあまり甘いものを好まない。だが今日のチーズケーキならば甘すぎず王の口にも合うと思うのだ。

「それは喜ばれますよ。最近体調悪そうっすからね」

 王宮では周知の事実を、リッツはさらりと口にした。当然知っていると思っていたのだが、王妃は知らなかったらしい。

 ひどく驚いた様子の王妃に、リッツは「マズイことしたかな……」とそそくさと退室してしまった。

 本当は、真っ黒な笑顔のサーナに「余計なことをしてくれて、ありがとうございますわ」と蹴り出されたのだが。




 王妃はすぐに見舞いの品と手紙を届けさせた。

 お見舞いがてら自ら届けようかと思ったが、サーナに「ご寵姫さまが付いておられると思いますわ」と言われ、でしゃばった真似をするところだったと反省した。


 王妃は本当に、王に深い感謝を捧げている。

 この充実した日々をくれたことへ、ほんの少しでも恩返しがしたくて、離宮への避暑を勧めた。自分に何が出来るとも思えないが、王の数日の留守くらい守ってみせよう。




 しかしその手紙によって、とうとう王が倒れたことなど、王妃は知るよしもなかったのだった。


リッツとタキスはラブラブです。

王妃さまはいつま当てられっぱなし。


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