01 王の苦悩
サイアス王の悩みは恐らく、大陸一といわれるスニ渓谷より深い。
執務中も、食事中も、鍛錬中も、寵姫と共にいるときでさえ心ここにあらずだ。
今までに無い様子に、お仕えする者たちは医者だ薬だと大騒ぎ。
食事にはいっそうの気が配られ、朝晩には医者の診察、寵姫も心を込めて慰め続けた。
しかし、いっこうに王の悩みは晴れず深くなるばかり。
そんなある日、王妃から見舞いの品が届いた。
王は喜んで見舞いを受け取ったが、添えられた手紙を見て、とうとうパタリと倒れてしまった。
王の側近エドワードは、不敬と知りつつも寝台横に投げ捨てられた王妃からの手紙を拾い上げる。
ほんのりと甘い香りが焚きしめられ、女性らしく丁寧な文字で短くこうあった。
『お加減はいかがですか。お疲れが溜まっているのでしたら、ご寵姫さまと避暑にでも行かれてはいかがでしょう。留守は万事お任せ下さいませ』
美辞麗句、媚び、必要以上の気遣いすら無い、王妃らしい簡潔な手紙だ。
エドワードは、王の悩みも倒れた理由も瞬時に理解した。
彼は幼少の頃より常に王の側にあって、視線ひとつでその意を汲む。
心よりの忠誠を誓い、誠心誠意仕え、王の悩みとあらばこの命を賭してでも払拭したい所存である。
しかし、この悩みはいささか難しい。
何故なら、全ては王の自業自得であらせられるからだ。
サイアス王は悩んでいた。
書類の内容も頭に入らず、どれほど豪華な食事も味わえず、鍛錬では十代の新兵に打ち負かされ、寵姫を愛でる気にもならないほど悩み抜いていた。
それでも何とか執務をこなしていたのだが、とうとう王妃からの見舞いの品を受け取ると倒れてしまった。
良い年をした男が、それも一国の王が、このような悩みで倒れるなど笑止千万だ。
おまけに、こんな状況を作り上げたのは他ならぬ自分である。情けないことこの上ない。
気怠い体をどうにか起こし、王妃から贈られたお茶を飲んでみた。
王妃の生国でしか取れぬ貴重なこのお茶には、 疲労回復の効果があるらしい。
濃い紅色の茶からは異国の甘い香りがし、まろやかな舌触りは極上だ。
馴染みのない異国の味は、王妃の姿を思い起こさせる。
この国の王妃となっても、異国の香りを漂わせる麗しい姿を思い出し、身悶えた。
諸悪の根源でる契約書をいっそのこと破り捨てて燃やしてしまいたい。
ああ、なぜあのような契約を交わしてしまったのか。今さらながら後悔しきりである。
王は、王妃に恋をしていた。
実る見込みの無い絶望的な恋が、彼を蝕んでいるのである。
王は再び自己嫌悪で具合が悪くなり、キリキリと痛む腹を抱え寝台に倒れふした。
機能を理解しておらず、すごく手間取りました。
試行錯誤です。