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王と王妃の婚姻契約  作者: 澤野アイ
10/12

09 王妃と寵姫の楽しい毎日

思ったより間を開けてしまいました。

見捨てずに読んでいただけると嬉しいです。

 最近の王宮は、何やら華やぎ賑やかだ。

 庭園から花のように色鮮やかな一行が現れると、回廊を行き交う人々は一斉に頭を垂れた。

「皆さん、どうぞ頭をお上げになって下さいな」

「私たちのことはお気になさらず、お仕事に戻られて下さい」

 王宮の女主人、王妃と寵姫の言葉に、人々は「ほぅ」と息を飲む。美しく麗しいお二人に声をかけられれば、誰もが頬を桃色に染めてしまう。



「シェイラ、急がないと。もう仕立て屋さんいらしてるかもしれないわ」

「まぁ、もうそんな時間ですか?それでは、これをお願いします」

 王妃は手にしたいたカゴを侍女に手渡し、事細かに指示を与える。

 今日は天気も良く、朝から寵姫とハーブを摘んでいたのだ。おかげで、ドレスは土まみれになってしまい、仕立て屋と会う前に着替えなければならない。

 ジグジア国では間もなく秋の豊穣祭りが執り行われる。その期間、王宮では毎夜のように舞踏会が開かれるため、王妃と寵姫は新しいドレスを作るため仕立て屋を頼んでおいたのだ。



「そうだわ、アン。居室まで戻っていたら遅くなってしまいますから、私のドレスをお貸ししますよ?」

 王妃はにっこりと笑顔を見せる。

「ええ、ありがとう。大丈夫かしら?サーナ」

 寵姫は困ったようにサーナに助けを求めた。

「残念ながら、姫さまのドレスではアンリエッタさまには少々お苦しいかもしれませんわ」

 王妃はきょとんと首を傾げた。一方、王妃と寵姫の侍女たちは二人を見比べ、「ああ」と納得すると静かに視線を逸らす。


 民族の違いもあり、王妃はとても小柄だ。十分女性らしい曲線を持ってはいるが、それでも華奢な体はまるで少女のようだ。

 とはいえ、寵姫もジグジア国の女性の平均からすると小柄な方なのだが、王妃と並ぶとその差がはっきりと出てしまう。


 特に、胸の辺りの。


 サーナを始め、侍女たたの視線は一点に集中している。

 柔らかな布を押し上げ、形の良い丸みを主張している寵姫の胸。そして、フリルとコサージュで誤魔化した控えめな王妃の胸。

 きょとんとしていた王妃だが、侍女たちの視線を辿り、寵姫の胸を見、次いで己の胸を見た。

 明らかに見劣りしている、己のそこ。


「皆さん、すこぉし意地悪なのではありませんか?アン、あなたまでそう思っているのですか?酷い……」

「シェ、シェイラ。嘘よ、ちっとも思ってないわ。皆も止めなさい、すぐにシェイラに謝って」

 オロオロと慰める寵姫を尻目に、侍女達は笑いを堪えながら口々に謝罪を述べた。



 回廊のど真ん中で行われるやり取りを、使用人たちは微笑ましく、胸中では必死で笑いを堪えながら見守っていた。

 例のお茶会から、王宮内ではこのような光景が日常となりつつある。

 初めは驚いた使用人たちも、今ではすっかり見慣れた光景だ。

 今まではお互いに遠慮し居室にこもりがちであった二人だが、最近は毎日のようにお互いの居室を行き来し、庭園を訪れ、王宮内をそぞろ歩いている。

 侍女を交え楽しそうに笑い、気さくに使用人たちに声をかける二人に、王宮は活気付き、華やいだ空気を放っているのだ。




 王妃の毎日は今や寵姫で溢れている。

 素敵な友人と過ごす毎日は前にも増して充実し、きらきらと輝いて見えるのだ。


 あのお茶会の日、寵姫はゆったりとした簡素なドレスで訪れた。髪も簡単に編んだだけで、装飾品は一切身に付けていない。

 ただ、その手には可愛らしいマーガレットの花束を持っていた。

 始めはお互いに緊張していたが、王妃の作ったお菓子を一口食べた寵姫の一言から全てが変わった。

「美味しいっ。え、これ王妃さまが?!いえ、失礼いたしました」

「ふふ。出来れば、普通にお話しして下さいな」

 それをきっかけに、二人は急速に親しくなった。

 毎日会っているというのに、まだ話し足りない。もっと二人で素敵なことをしたい。



 マーガレットの花言葉は「貞節」「誠実」……そして「真実の友情」である。

 王妃はすっかり、言葉では表せないほど、寵姫のことが大好きなのだ。




「ドレスありがとう。すぐに返すわね」

 仕立て屋との打ち合わせを終えた王妃の居室で、寵姫が帰り支度を始めた。

「いえ、いいのですよ。私には見頃が合いませんし、よろしければもらって下さい。ね、サーナ?」

「ええ、良くお似合いですわ。アンリエッタさま」

 気を良くした寵姫がくるりと回ってみせる。

 クリーム色の繊細なレースをふんだんに使ったドレスは、清楚なデザインだが体の線を惜しげも無く出すもので、寵姫に良く似合っていた。

「本当にいいの?じゃあ、もらっちゃおうかしら」


 寵姫が帰ると、王妃はふと疑問を口にした。

「私、あのようなドレス持っていたかしら?」

 全く記憶の片隅にも残っていない様子の王妃に、サーナは苦笑いしただけで何も答えなかった。

 あのドレスは、結婚当初に王がせっせと贈って寄越したもののひとつなのだ。

 この頃、王妃の鈍感さに、育て方を間違えたかもしれないと悩み始めているサーナである。

 そして、あまりに報われはい王に対して、わずかなから同情を禁じえない。




 その時、執務室で書類に埋もれている王がくしゃみをしたとかしなかったとか。


 王妃に贈ったはずのドレスを寵姫の元で見つけ、王が悲しみに暮れ枕を涙で流したのは、また別の話である。


王さまが王妃さまに贈ったドレス。

すんごくお高いものです。

高い物贈るのに、似合う似合わないとかサイズを考えない男性……

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