抗えない現実
あけましておめでとうございます
(*・ω・)*_ _))ペコリン
今年も何卒宜しくお願い申し上げます
(*・ω・)*_ _))ペコリン
『何やら国境辺りがきな臭いことになってきたなぁ……』
魔法薬店の店主が新聞を畳みながらそう言った。
『北側の隣国と国境ですか?』
店内の清掃をしていた私が手を止めて尋ねると、店主は頷いた。
『うん。昔から国境線を巡って争いが耐えない場所だから……。宰相が変わってからは、目立った衝突はなくなっていたんだけどねぇ』
『宰相って……』
『オーウェン侯爵閣下だよ。キレ者で有名らしい』
『……』
知っているわ。
だって、かつて祖父にかかった嫌疑の取り調べの指示を出していたのがオーウェン侯爵だと聞いたから……。
『戦争になるんですか?』
私がまた尋ねると、店主は新聞を一瞥し答えてくれた。
『そこまで大規模な衝突は避けたいだろうなぁ。だけど隣国の挑発が続いているらしく、いずれ軽い武力衝突くらいは起こるかも』
『軽い武力衝突……』
そうなればクライブも王国騎士として前線に駆り出されるのだろうか……。その可能性に私は鉛を飲み込んだような気持ちになった。
『あぁそういえばミルチアさんに頼みがあったんだ。申し訳ないんだけどさ、次の休みは出勤してくれないかな?もちろん他の日に休みを取り直してくれていいから』
次の休みはクライブと会う予定だった。
だけど雇い主に頼まれたのでは断れない。
私は休みの変更を承諾した。
このときに承諾なんてしなければ何かが違ったのかもしれない。
次の日に、予定のキャンセルを告げに自警団の詰所までクライブに会いに行かなければ、また違う運命だったのかもしれない。
後になって何度もそう思ったけれど、
結局は抗えない現実だったのよ。
詰所の近くの路地で、聞こえてきたのはクライブと知らない男性の声。
魔法薬店からの近道でその路地を通ったけど、普段はあまり使わない狭い路地裏でクライブは知らない誰かと話し込んでいた。
いいえ。クライブの声こそ、知らない人のようだった。
普段とは違う無機質で無感情な声。
その声が私の耳に届き、物陰に隠れる形で私は立ち止まった。
『定期連絡までまだ日があるはずだが?』
『閣下が痺れを切らしておいでなんだよ。“アイツは何を悠長なことをしている”とな』
『慎重に事を進めるための潜入捜査だろう』
(潜入捜査……?クライブが?)
立ち聞きなんてよくないと思ったけれど、次に私の名が出てことにより、その場に足が縫いとめられてしまった。
『ミルチア・ライトに自白魔法をかければあっという間に片付くのではないかという意見が出てるんだ』
『……容疑者でもない民間人に自白魔法だと?バカな、大陸法により罪に問われるのはこちらになるぞ』
『お前が彼女とただよろしくやってるだけにしか見えないからだろ』
『よろしくやっているわけではない。ただ、信頼を得て情報を引き出すほうが確実だと判断した結果だ』
『じゃあさっさとしろよ。ライト研究員が遺した禁忌魔法の完成術式が、必ずどこかにあると閣下も陛下も確信してるんだ』
『それを手にしてどうする気だ……』
『さあな。上の考えることなんざ、俺たち諜報員にはわからんよ。あぁでもお前は別か』
『とにかく、もう少し待ってくれ。彼女の自宅に行く度に少しずつ探索魔法をかけている最中なんだ。ライト研究員がなんらかの細工をしているかもしれないんだ。それに感知されないように、こちらは細心の注意を払っているんだぞ』
『俺はいいけどよ。それだけ時間をかけるなら結果を出さねぇと、お前さんヤバいんじゃねぇか?』
『問題ない』
『まぁ……そうだよな』
その後、どうやって家に帰ってきたのかは記憶にないの。
とにかく頭が真っ白になって、気がつけば家に戻っていた……。
◇
「えっ!?ちょっ……、ちょっと待ってください、それってつまりっ……」
ミルチアの話に聞き入っていたコリーンの吃驚した声がツバメ亭の店内に響いた。
ミルチアは、言葉の続きを言い淀むコリーンの代わりに肩を竦めながら口にした。
「つまりは潜入捜査だったのよ。彼との出会いは全て仕組まれていたってこと」
「え、客として魔法薬店に来たのも……?」
「ええ。私に顔を面識させるためだったみたい」
「え、酔っ払いから助けてくれたのも……?」
「捜査対象者として目を光らせていたから、絡まれているのに気がついたのね」
「え、お見合いも……?」
「自警団と商工会のお見合いシステムは本当みたい。それを利用して、本格的に私に近づいたのね」
「え、え、え、」
話の展開についていけないコリーンがわかりやすく狼狽える。
彼女にしてみればただの恋バナを聞いているはずだったのだ。
無理はないだろう。
しかしすぐに落ち着きを取り戻したコリーンがミルチアに問いかける。
「でも……フィンくんを授かったんですよね……?騙されたとわかったのに、なぜ……?」
「それが私の真実だったからよ」
「ミルチアさんの、真実……?」
「彼はともかく、私が彼を好きになったのは本当だから……最初から偽りしかなかった関係の、唯一の真実だから」




